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役員退職慰労金規程の作り方|代表取締役の功績倍率3.0と具体的なひな型

役員退職慰労金規程は作っておいた方がよいのか

 中小企業の代表取締役が退任する際には、「最終月額報酬×役員在任年数×功績倍率」によって役員退職金を計算する方法が広く知られています。

 そこで問題になるのが、役員退職慰労金規程をあらかじめ作成しておくべきか、また、代表取締役の功績倍率をいくつに設定するかという点です。

 実務では、代表取締役の功績倍率を「3.0」とする規程例がよく見られます。

 しかし、最初に最も重要な点を確認しておきます。

 代表取締役の功績倍率を3.0とする役員退職慰労金規程を作成しても、「3.0までなら法人税法上必ず全額損金になる」という意味ではありません。

 功績倍率3.0は、法人税法、法人税法施行令、法人税基本通達のいずれにも損金算入の上限として定められていないからです。

 一方、退職金を支給する会社には、課税庁のように他社の法人税申告情報等から同業類似法人の実際の退職金を調査することはできません。

 したがって、会社としては、支給時になって恣意的に退職金額を決めるのではなく、事前に客観的かつ継続的な社内基準を定めておくことに意味があります。

 その社内基準の一つとして、代表取締役の功績倍率を3.0と設定することは考えられます。

 本記事では、このような考え方を前提として、代表取締役3.0を採用した役員退職慰労金規程の具体的なひな型を紹介します。

役員退職慰労金規程を作る意味

 役員退職慰労金規程を作る最大の目的は、「3.0まで税務署に認めてもらう」ことではありません。

 役員退職慰労金について、会社内部の客観的な支給基準をあらかじめ定めておくことにあります。

 特に同族会社では、創業者である代表取締役が退職する直前になって、

「退職金はいくらにするか」

「功績倍率は何倍にするか」

を初めて決めると、その金額がどのような根拠で決定されたのかについて説明が難しくなることがあります。

 役員退職慰労金規程を事前に制定し、継続して運用しておけば、役位、在任期間、報酬等に基づいて一定の基準により退職金を算定したことを説明しやすくなります。

 もっとも、規程が存在すること自体によって法人税法上の退職給与額の相当性が保証されるわけではありません。

役員退職慰労金は会社法上の「報酬等」に当たる

 取締役の退職慰労金は、在任中の職務執行の対価として支給されるものである限り、会社法361条の「報酬等」に含まれます。

 そのため、定款に必要な事項を定めていない場合には、株主総会の決議が必要になります(会社法361①)。

 監査役についても、定款に報酬等の額を定めていない場合には、株主総会の決議によって定める必要があります(会社法387①)。

 したがって、役員退職慰労金規程を作成しているだけで、退任役員に規程どおりの金額を当然に支給できるという関係にはなりません。

 実際に役員が退任したときには、定款及び会社の機関設計等に応じ、株主総会で退職慰労金の支給について適切に決議する必要があります。

最高裁令和6年7月8日判決と退職慰労金規程

 役員退職慰労金規程の会社法上の意味を考える上で参考になるのが、最高裁令和6年7月8日第一小法廷判決(令和4年(受)第1780号)です。

 この事件では、会社に退任取締役の退職慰労金についての内規があり、退職慰労金の基準額や減額事由が定められていました。

 株主総会では、この内規に従って具体的な退職慰労金の内容を決定することを取締役会へ一任する旨の決議がされています。

 最高裁は、このような株主総会決議による委任と内規を前提として、取締役会による退職慰労金の減額について判断しました(最高裁令和6年7月8日第一小法廷判決・令和4年(受)第1780号)。

 この判決からも分かるように、役員退職慰労金規程は単なる税務上の書類ではなく、株主総会が退職慰労金を決定し、又は一定の基準の下で具体額の決定を委任する場合の基準として、会社法上も意味を持ちます。

法人税では規程どおりの金額でも否認されることがある

 会社法上の問題と法人税法上の問題は分けて考える必要があります。

 法人が役員に支給する給与のうち、不相当に高額な部分の金額は損金に算入されず、役員退職給与についてもこの規定が適用されます(法法34②)。

 役員退職給与が不相当に高額であるかどうかは、その役員が会社の業務に従事した期間、退職の事情、その会社と同種の事業を営み事業規模が類似する法人の役員退職給与の支給状況等を考慮して判断されます(法令70二)。

 したがって、

 「役員退職慰労金規程に3.0と書いてあること」と、「3.0で計算した退職金全額が法人税法上損金になること」は別問題です。

 株主総会において規程どおりに適法に支給を決議しても、法人税法34条2項による過大役員退職給与の判定は別途行われます。

功績倍率法とは

 法人税基本通達9-2-27の3は、いわゆる功績倍率法について、役員の退職直前に支給した給与の額を基礎として、法人の業務に従事した期間及び役員の職責に応じた倍率を乗じて退職給与を算定する方法としています(法基通9-2-27の3)。

 一般的には、次のような算式になります。

 役員退職慰労金の基準額 = 最終月額報酬 × 役員在任年数 × 功績倍率

 例えば、

 最終月額報酬 100万円
 役員在任年数 20年
 功績倍率 3.0

であれば、

 100万円 × 20年 × 3.0 = 6,000万円

となります。

 ただし、この6,000万円は規程に基づく会社内部の基準額であって、法人税法上6,000万円全額の損金算入が当然に保証されるものではありません。

なぜ代表取締役の功績倍率は「3.0」といわれるのか

 代表取締役の功績倍率として3.0という数値が長く実務で参照されてきた背景には、過去の役員退職給与をめぐる裁判例があります。

 東京地裁昭和55年5月26日判決及びその控訴審である東京高裁昭和56年11月18日判決では、社長3.0、専務2.4、常務2.2、平取締役1.8、監査役1.6という数値が問題となりました。

 この数値が、その後の役員退職慰労金規程のひな型や税務実務において繰り返し参照されてきました。

 また、昭和59年12月25日裁決(裁事28集225頁)では、退職した専務取締役について、会社設立以来、実質的に社長代理として会社の発展に多大な貢献をしていたことなどから、その全期間の功績を評価し、類似法人の平均功績倍率に近似する3倍を用いて退職給与を計算した会社の計算に不合理はないと判断されています(昭和59年12月25日裁決・裁事28集225頁)。

 このように、功績倍率3.0という数値が具体的事案で認められた裁判例・裁決例は実在します。

 しかし、そこから、「代表取締役なら3.0までは常に認められる」という一般的な税務ルールを導くことはできません。

「代表取締役3.0」は税務上のセーフハーバーではない

 平成19年11月15日裁決(裁事74集146頁)は、この点を考える上で重要です。

 この事件では、納税者側は、過去の裁判例・裁決例に高い功績倍率が存在することなどから、前代表者について3.6等の倍率を使用することが相当であると主張しました。

 しかし、国税不服審判所は、合理的に抽出された比較法人から特殊事情のある1社を除き、残る3社の功績倍率1.7、1.9、2.0の平均である1.9を採用しました。

 そして、過去の別の裁判例・裁決例に高い功績倍率があるというだけでは、その事件における平均功績倍率1.9が不当に低いとはいえないと判断しています(平成19年11月15日裁決・裁事74集146頁)。

 さらに、東京高裁平成25年7月18日判決(税資263号-137・順号12261)は、合理的に同業類似法人が抽出されている限り、平均功績倍率法は法人税法の趣旨に最も合致する合理的な方法であるとの考え方を示しています。

 したがって、役員退職慰労金規程の代表取締役3.0は「社内の基準倍率」であって、「税務上認められる保証倍率」ではありません。

それでも代表取締役3.0を規程に定める意味はある

 それでは、3.0が税務上の安全基準ではないのであれば、規程に3.0と定める意味はないのでしょうか。

 そうではありません。

 法人税法施行令70条2号は、同業類似法人の役員退職給与の支給状況を判断要素としています。

 しかし、通常の会社には、課税庁と同じように他社の法人税申告情報を利用して同業類似法人を抽出し、各社の役員退職給与、最終月額報酬、役員在任年数等を把握する手段はありません。

 そのため、会社は役員退職金を支給する時点で、将来税務調査で課税庁が算定する平均功績倍率を正確に知ることができません。

 このような情報制約の下では、会社として何らかの客観的・継続的な社内基準をあらかじめ設定しておく必要があります。

 その意味で、過去の裁判例等で長く参照されてきた代表取締役3.0を社内の「基準倍率」として規程に設定することには、実務上の意味があります。

 ただし、実際に退職金を支給するときには、その規程額をそのまま支給するのではなく、改めて税務上の相当性を検討する必要があります。

会社側に同業類似法人の情報がないことは税務上考慮されるのか

 会社側に同業類似法人の詳細な情報がないという問題は、裁判でも争われています。

 東京地裁平成29年10月13日判決では、課税庁が算定した同業類似法人5社の平均功績倍率3.26について、納税者には課税庁と同様の厳密な調査を期待することが困難であることなどを考慮し、その1.5倍である4.89までを相当とする判断がされました。

 しかし、この判断は控訴審で変更されています。

 東京高裁平成30年4月25日判決(税資268号-44・順号13149)は、合理的に抽出された同業類似法人の平均功績倍率3.26を採用し、一審の1.5倍の上乗せを認めませんでした。

 その後、最高裁平成31年2月21日第一小法廷決定により上告棄却・上告不受理となり確定しています。

 したがって、「会社には同業類似法人の情報がないから、規程の倍率に一定の余裕を持たせても税務上認められる」というルールはありません。

 この点からも、3.0はあくまで支給額を検討する出発点と考える必要があります。

役員退職慰労金規程を作る際の基本的な考え方

 役員退職慰労金規程を作る場合には、次のような考え方が重要です。

  • 退職直前になって特定の役員のためだけに作るのではなく、事前に制定して継続的に運用する
  • 代表取締役3.0等の倍率は「基準倍率」と位置付ける
  • 規程額を法人税法上の「損金算入限度額」と表現しない
  • 退職直前の一時的な報酬増減によって退職金額が不自然に変動しないようにする
  • 特別功労加算を自動的に行う規定は避ける
  • 実際の支給時には株主総会で適切に決議する
  • 高額な退職金を支給する場合には、支給額の合理性を説明する資料を残す

代表取締役3.0を採用した役員退職慰労金規程のひな型

 以下は、一般的な非公開の中小株式会社を想定したひな型です。

 会社の機関設計、定款、役員構成、過去の運用等によって修正する必要があります。

 また、以下の倍率によって算定した金額まで法人税法上当然に損金算入されることを保証するものではありません。

役員退職慰労金規程

第1条(目的)

 本規程は、当会社の取締役及び監査役が退任した場合に支給する退職慰労金について、その算定に関する社内基準を定めることを目的とする。

第2条(支給の決定)

 退職慰労金は、取締役又は監査役が退任した場合に、定款及び法令に従い、株主総会の決議に基づき支給する。

 株主総会において、本規程その他の一定の基準に従って具体的な支給額、支給時期又は支給方法を決定することを法令上許される機関に委任した場合には、その決定によるものとする。

第3条(退職慰労金の基準額)

 退職慰労金の基準額は、原則として次の算式によって計算する。

 退職慰労金基準額 = 基準報酬月額 × 役員在任年数 × 役位別功績倍率

第4条(基準報酬月額)

 本規程における基準報酬月額は、原則として、役員退任直前に通常支給されていた月額報酬とする。

 ただし、退任直前の一時的又は臨時的な増額若しくは減額、無報酬その他の特殊な事情により、退任直前の月額報酬がその役員の職責及び功績を適切に反映していないと合理的に認められる場合には、株主総会において、当該事情が生じる前の通常の報酬、職務内容、役位、他の役員の報酬その他の事情を総合的に勘案し、別途合理的な基準報酬月額を定めることができる。

第5条(役員在任年数)

 役員在任年数は、取締役又は監査役に就任した日から退任の日までの期間による。

 1年未満の端数については、原則として月単位で計算する。

 過去に退職慰労金の計算基礎とした在任期間がある場合には、当該期間を重複して算入しないものとする。

第6条(役位別功績倍率)

 役位別功績倍率は、原則として次のとおりとする。

役位功績倍率
代表取締役3.0
専務取締役2.4
常務取締役2.2
取締役1.8
監査役1.6

 役位の名称が上記と異なる場合には、その職務内容、権限及び責任の程度を勘案して、最も類似する役位の倍率を適用する。

第7条(役位が変更された場合)

 役員在任中に役位が大きく変更された場合において、退任時の役位に対応する功績倍率を全在任期間に適用することが、その役員の職責の変遷に照らして著しく不合理となると認められるときは、各役位の在任期間及び職責を考慮して基準額を調整することができる。

第8条(基準額と実際の支給額)

 第3条から第7条までにより算定した金額は、退職慰労金を決定するための基準額とする。

 実際の支給額は、当該役員の在任中の職責及び功績、退任の事情、当会社の業績及び財政状態その他の事情を勘案して、株主総会その他法令上正当な権限を有する機関が決定する。

第9条(減額又は不支給)

 在任中に当会社へ重大な損害を与えた行為、重大な法令又は社内規程違反その他退職慰労金を減額し、又は支給しないことを相当とする事情がある場合には、株主総会その他法令上正当な権限を有する機関の決定により、基準額を減額し、又は退職慰労金を支給しないことができる。

第10条(特別功労金)

 通常の役位別功績倍率によって評価することが困難な特別の功労があり、その内容及び程度を客観的な資料によって説明することができる場合には、株主総会の決議により特別功労金を加算することができる。

 特別功労金は、役位、創業者であることその他の形式的な事情のみを理由として、自動的に加算しないものとする。

第11条(死亡による退任)

 役員が死亡により退任した場合の退職慰労金についても、本規程の算定基準を参考として、法令、定款及び株主総会の決議に従い、その支給額及び受給者を決定する。

第12条(支給時期及び方法)

 退職慰労金の支給時期及び支給方法は、会社の資金状況その他の事情を考慮して決定する。

 分割払いとする場合には、総額、各支払額、支払時期その他の支払条件を明確にするものとする。

第13条(制定及び改廃)

 本規程の制定及び重要な改廃は、株主総会の決議による。

附則

 本規程は、令和○年○月○日から施行する。

この規程では「3.0を上限」としていない

 上記のひな型では、代表取締役の功績倍率を3.0としていますが、「代表取締役について3.0を上限とする」とは記載していません。

 3.0は法人税法上の上限ではないからです。

 反対に、「3.0以内であれば全額損金算入できる」とも記載していません。

 役員退職給与のうち不相当に高額な部分があるかどうかは、法人税法34条2項及び法人税法施行令70条2号によって個別に判定されます。

 したがって、規程上の3.0はあくまで会社内部における「基準倍率」とするのが適切です。

規程に「法人税法上3.0まで損金」と書いてはいけない

 役員退職慰労金規程には、税務上の損金算入限度額を規定する必要はありません。

 例えば、「代表取締役については功績倍率3.0を限度として法人税法上損金算入することができる」という規定は適切ではありません。

 会社内部の支給基準と、法人税法上の損金算入限度額は別だからです。

 役員退職慰労金規程では会社内部の基準を定め、実際に退職金を支給するときに、その時点の法令・通達・裁判例等を踏まえて税務上の相当性を別途検討する方がよいでしょう。

なぜ自動的な「功労加算30%」を入れなかったのか

 役員退職慰労金規程のひな型には、「特別の功績がある場合は30%を加算する」などの規定が置かれていることがあります。

 しかし、上記ひな型では自動的な功労加算は採用していません。

 東京高裁平成30年4月25日判決は、合理的に同業類似法人が抽出されている場合、役員や法人に関する通常の個別事情は、原則として同業類似法人の退職給与の支給状況の中に反映されているものと考え、それでも把握されたとはいい難いほど極めて特殊な事情がある場合に別途考慮すれば足りるとの考え方を示しています(東京高裁平成30年4月25日判決・税資268号-44・順号13149)。

 したがって、

「創業者なので3.0にさらに30%加算」

「会社を大きくしたので50%加算」

と機械的に加算することには税務上注意が必要です。

 特別功労金を加算するのであれば、その理由を具体的に説明できる資料を残すべきです。

役位が途中で変わった場合にも注意する

 例えば、役員として30年間勤務していても、

 取締役20年
 常務取締役8年
 代表取締役2年

というケースがあります。

 この場合、最後の2年間だけ代表取締役だったからといって、30年間すべてについて当然に3.0を使用することが合理的とは限りません。

 法人税基本通達9-2-27の3も、功績倍率法について「役員の職責に応じた倍率」を乗じる方法としています。

 そのため、役位の変遷が大きい場合には、退任時の役位を全期間に機械的に当てはめるのではなく、各役位の在任期間や実際の職責を考慮する規定を置いておく方が説明しやすくなります(法基通9-2-27の3)。

最終月額報酬が低い・0円の場合にも備えておく

 功績倍率法では、原則として退職直前の役員報酬が計算の基礎になります。

 しかし、事業承継、会社の資金繰り、本人の意向などから、退職直前の役員報酬が著しく低額又は0円になっている場合があります。

 この場合、実際の最終月額報酬をそのまま用いると、その役員の長年の功績を適切に反映しないことがあります。

 そこで上記ひな型では、退職直前の一時的・臨時的な増減等により最終月額報酬が役員の職責・功績を適切に反映していない場合には、過去の通常報酬、職務内容、他の役員の報酬等を考慮し、株主総会において合理的な基準報酬月額を定める余地を設けています。

 ただし、この規定に基づいて別の基準報酬月額を採用したからといって、その金額が税務上当然に認められるわけではありません。

 退職直前の役員報酬が著しく低額又は0円の場合の具体的な考え方については、関連記事「役員退職直前の報酬が低い・0円の場合の退職金|功績倍率法と1年当たり平均額法」で詳しく解説しています。

反対に退職直前の報酬を引き上げる方法は避ける

 功績倍率法が最終月額報酬を使用するからといって、退職金を増やすために退職直前の役員報酬を引き上げることは避けるべきです。

 退職直前の報酬がその役員の通常の職責に対応したものではなく、退職金を増額する目的で設定されたと認定されれば、その金額をそのまま功績倍率法の基礎とすることが否定される可能性があります。

 役員退職慰労金規程を作る段階から、退職直前の一時的な報酬増額をそのまま基礎にしない仕組みにしておくことが望ましいでしょう。

株主総会ではどう決議するか

 最も分かりやすいのは、株主総会で具体的な支給額まで決議する方法です。

 例えば、規程に基づいて6,000万円を支給する場合には、次のような決議が考えられます。

「第○号議案 退任取締役○○○○に対する退職慰労金支給の件

 議長は、令和○年○月○日をもって取締役を退任した○○○○氏に対し、当会社の役員退職慰労金規程に基づき、退職慰労金として金60,000,000円を支給したい旨を説明した。

 審議の結果、出席株主全員異議なくこれを承認可決した。」

 一定の支給基準に従って具体額の決定を取締役会等へ一任する方法を採る場合には、株主がその支給基準を認識できる状態にしておくことも重要です。

規程を作っただけでは税務対策は完了しない

 役員退職慰労金規程を作ることは、役員退職金税務の「準備」です。

 実際に代表取締役が退職するときには、もう一度その金額を検討する必要があります。

 例えば、最終月額報酬100万円、在任30年、代表取締役3.0であれば、

 100万円 × 30年 × 3.0 = 9,000万円

となります。

 規程に9,000万円と計算できるからといって、税務上も当然に9,000万円全額が相当になるわけではありません。

 その役員の実際の職責・功績、会社の事業内容・事業規模、最終報酬月額の決定経緯、退職事情、入手可能な公刊資料等を確認し、その支給額を合理的に説明できるかを検討すべきです。

役員退職金を支給するときに残しておきたい資料

 高額な役員退職金を支給する場合には、少なくとも次のような資料を保存しておくことをお勧めします。

  • 役員退職慰労金規程
  • 規程制定時及び改定時の株主総会議事録等
  • 退職金支給を決定した株主総会議事録
  • 退任役員の就任日・退任日
  • 役位の変遷
  • 最終月額報酬及び過去の役員報酬の推移
  • 退任役員の具体的な功績を説明する資料
  • 売上高、利益、総資産等の会社規模の推移
  • 退職事情を説明する資料
  • 退職慰労金の具体的な計算書
  • 支給時に参照した公刊資料等
  • 特別功労金を加算する場合には、その具体的な根拠資料

 特に重要なのは、後日の税務調査で、

 「なぜこの金額を相当と判断したのか」

を支給時点の資料によって説明できることです。

そもそも本当に退職しているかにも注意する

 役員退職慰労金では、金額の問題以前に、「そもそも法人税法上、退職したといえるのか」という問題もあります。

 代表取締役から取締役会長になるなどの分掌変更の場合には、報酬を50%以上減額しただけでは実質的退職が認められないことがあります。

 分掌変更後も会社の重要な経営判断に関与している場合には、退職給与そのものへの該当性が否定される可能性があります。

 この問題については、関連記事「役員の分掌変更で退職金は損金になる?報酬50%減でも否認される『実質的退職』の判断基準」で詳しく解説しています。

まとめ

 役員退職慰労金規程をあらかじめ整備し、代表取締役3.0などの功績倍率を定めておくことには、会社内部の客観的な支給基準を設けるという意味があります。

 また、代表取締役3.0という数値には、過去の裁判例・裁決例を通じて長く実務上参照されてきた背景があります。

 しかし、功績倍率3.0は法人税法上のセーフハーバーではありません。

 昭和59年12月25日裁決(裁事28集225頁)のように3倍による計算が不合理ではないとされた事例がある一方、平成19年11月15日裁決(裁事74集146頁)では平均功績倍率1.9が採用され、東京高裁平成25年7月18日判決では合理的に同業類似法人が抽出されている場合には平均功績倍率法が基本となるとの考え方が示されています。

 したがって、役員退職慰労金規程では、

 「代表取締役3.0を会社内部の基準倍率として設定すること」と、「3.0で計算した全額が法人税法上損金になること」を明確に区別することが重要です。

 規程を作る段階では、将来にわたって継続的に使用できる合理的な算定基準を定め、実際に役員が退職するときには、その規程額を出発点として、改めて法人税法上の相当性を検討するという二段階で考えるのが適切です。

 役員退職給与が税務上過大となる具体的な判断基準、平均功績倍率法、最高功績倍率法及び同業類似法人の抽出については、関連記事「役員退職金が過大として否認される場合とは?同業類似法人と平均功績倍率法の判定基準」で詳しく解説しています。

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