概要
消費税の還付を受けるためには、原則として消費税課税事業者選択届出書を、適用を受けようとする課税期間が始まる前に提出しておく必要があります(経過措置により「適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者)」の登録申請を行うと、「消費税課税事業者選択届出書」を提出しなくても自動的に課税事業者になります)。
ただし、新たに事業を開始した場合にはその事業を開始した日の属する課税期間の末日までに課税事業者選択届出書を提出すればその課税期間から課税事業者(還付を受けられる立場)になることができます。
問題は、消費税における「事業を開始した日」という概念です。正確には、「事業者が国内において課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日」(消令20一)が、いつなのかということです。
「事業を開始した日」について法令等に明確な規定がありませんが、過去の裁判例(長野地裁平成16年3月26日判決・税資254号-105(順号9612)、東京高裁平成16年8月31日判決・税資254号-224(順号9731)、広島地裁令和7年3月17日判決・tains:Z888-2779等)によれば、現実に収入を得ることとなる日前であっても、事業を行うために必要な準備行為を行った日が事業を開始した日となります。
そのため、現実に収入を得ていなくても、事業を行うために必要な準備行為を行った日が事業を開始した日となるため、その事業を開始した日の属する課税期間に消費税課税事業者選択届出書を提出する必要があります。
この認識を誤ると、消費税課税事業者選択届出書を提出する日付を誤ることになり、結果的に、消費税の還付を受けることができない場合があるので注意が必要です。
また、準備行為を勝手に自己解釈しないことです。例えば、自分が準備行為をしていると思って「消費税課税事業者選択届出書」を提出しても、税務調査が入り、準備行為として認められなかった場合(つまり、事業者に該当すると認められなかった場合)、問題となります。
平成27年6月11日裁決(裁事99集)では、以下のように判断しています。
「事業を行う個人(事業者)に該当しない個人が、選択届出書を提出した場合は、当該個人がその提出した日の属する課税期間後に事業を行う個人(事業者)に該当することとなったとしても、該当することとなった日の属する課税期間以後の課税期間において、改めて選択届出書を提出しない限り、消費税法9条4項の適用は認められないと解すべきである。」
つまり、消費税課税事業者選択届出書は、遅く提出しても問題になるし、フライングで提出しても問題になるということです。
関連記事
事例
Q1・A1
(Q1)初めて事業をする個人Aは、X01年に事業を行うために必要な事務所等の賃貸借契約の締結、資材等の課税仕入れ等の準備行為を行いました。ただし、実際に売上があったのはX02年になってからです。
消費税の還付を受けたいため、「消費税課税事業者選択届出書」を提出するつもりですが、いつまでに提出すべきなのでしょうか?
(A1)X01年に準備行為を行っているので、「その事業を開始した日の属する課税期間の末日(X01年12月31日)まで」に課税事業者選択届出書を提出しなければなりません。
なお、課税期間の末日が土曜日、日曜日、祝日(休日)等であっても、それらの翌日に提出すべき期間が延長されることはありません(通法10②)。よって、個人事業者の場合はX01年12月31日となり、翌年X02年1月4日とはなりません。年末は税務署は閉庁していますので、e-taxや郵送による提出が必要になります。
Q2・A2
(Q2)初めて事業をする個人Aは、X01年に事業を行うために、事業に関する書籍を1冊購入しました。ただし、事務所等の賃貸借契約の締結、資材等の課税仕入れ等や実際に売上があったのはX02年になってからです。
消費税の還付を受けたいため、「消費税課税事業者選択届出書」を提出するつもりですが、いつまでに提出すべきなのでしょうか?
(A2)X01年の事業に関する書籍を1冊購入したぐらいでは事業の準備行為を行っていると客観的に認められないでしょう。
よって、X02年に準備行為や事業を行っているので、「その事業を開始した日の属する課税期間の末日(X02年12月31日)まで」に課税事業者選択届出書を提出しなければならないと考えられます。
裁決例における「準備行為」の定義
平成24年6月21日裁決(裁事87集)
資産の取得契約の締結や商品及び材料の購入など、課税資産の譲渡等に係る事業の前提となる行為
一連の行為が全体として事業に係る準備行為であると認められる場合には、その最初の行為が行われた日をもって「課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日」であるとするのが相当である。
平成27年6月11日裁決(裁事99集)
資産の取得契約の締結や商品及び材料の購入など、課税資産の譲渡等に係る事業の前提となる行為
平成29年6月16日裁決(裁事107集)
事業を行うために必要な資産の取得契約の締結や商品及び材料の購入など
国税庁HP(新たに事業を開始した方向けFAQ)
新たに事業を開始した場合、どのような登録方法がありますか?
(略)
「新たに事業を開始した」とは、国内において課税資産の譲渡等に係る事業を開始した」ことを意味します。また、この「課税資産の譲渡等に係る事業を開始した」とは、「課税資産の譲渡等を開始した」ことのみを意味するのではなく、当該取引を行うために必要な事務所等の賃貸借契約の締結、資材等の課税仕入れ等の準備行為を行ったことも含まれることになります。
事業開始前に行った設備投資は、仕入税額控除の対象となりますか?
消費税における事業を開始した日、すなわち「課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日」とは、課税資産の譲渡等を開始した日のみを意味するのではなく、その事業を行うために必要な事務所、店舗等の賃貸借契約の締結、資材等の課税仕入れ等の準備行為を行った日も含まれることとなります。
したがって、課税資産の譲渡等に係る事業を行うために設備投資を行ったのであれば、その時点で事業を開始したものと考えられますので、例えば、新規開業者として課税期間の初日に遡ってインボイス発行事業者の登録を受けた場合、課税期間の初日から課税事業者となり、そうした設備投資についても帳簿及びインボイスの保存を行うことで仕入税額控除の対象となります。
事例集 個人課税関係 令和7年版 誤りやすい事例(消費税法) 大阪国税局(117頁)
(誤った取扱い)
国土交通省にタクシー業の許可申請を行い、許可を取得次第、適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者)としてタクシー業を開業予定である個人事業者について、開業前に「適格請求書発行事業者の登録申請嘗」を提出することはできないとした。
(正しい取扱い)
国内において課税資産の譲渡等を行い又は行おうとする事業者であって、第57条の4第1項に規定する適格請求書の交付をしようとする事業者は、税務署長の登録を受けることができることとされている(消法57の2①)。
また、事業を遂行するために必要な準備行為を行った日の属する課税期間において、当該準備行為を行う個人は事業者に該当する(消令20一、平成27年6月11日裁決、平成29年6月16日裁決)
したがって、現実に収入を得ることとなる日(いわゆる開業日)前であっても、当該準備行為を行っているのであれば、事業者として「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出することは可能である。
審査請求人が提出した消費税法9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》4項に規定する消費税課税事業者選択届出書は、事業者ではない者が提出したものであり、同項の適用は認められないとされた事例-平成27年6月11日裁決(裁事99集)(棄却)
(1)事案の概要
本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 平成22年2月15日、審査請求人Xは、消費税法9条4項に基づき、平成22年課税期間を同項の適用開始課税期間(同条第1項本文の規定の適用を受けず、課税事業者となる期間)とする旨の選択届出書を原処分庁に提出した(以下、Xが提出した当該選択届出書を「本件選択届出書」という。)。
なお、Xは、本件選択届出書を提出した日以後、原処分庁に対し、選択届出書を提出していない。
② 平成22年~23年中、Xは、イタリアで購入したブランド物のカードホルダー5個(以下「本件カードホルダー」という。)をネットオークションに1回だけ出品(落札はされず、のちに家事消費として売上に計上)したり、中古書籍(以下「本件中古書籍」という。)を年1回売却したりして、形式的な「売上(譲渡等の対価の額)」を作っていた。
③ 平成24年11月19日、Xは、本命であるホテル営業用の土地・建物(以下「本件不動産」という。)をH社から購入して、J社との間で賃貸事業(以下「本件不動産業務」という。)を開始した。
建物等不動産購入にかかった消費税の還付を受けるため、平成24年分(以下「本件課税期間」という。)の確定申告(還付申告)を行った。
④ 原処分庁は、平成26年3月28日付でXは消費税法9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》1項本文に規定する消費税を納める義務が免除されることとなる事業者に該当するから確定申告書を提出することができないとして更正処分を行った。
(2)本件の主な争点
Xは、本件課税期間において、免税事業者又は課税事業者のいずれに該当するか(具体的には、本件選択届出書を提出した日の属する課税期間においてXが「事業者」に該当しない場合、本件選択届出書の提出による消費税法9条4項の適用は認められるか否か)である。
(3)判断要旨(棄却)
① 消費税法上の「事業」とは、その規模を問わず、対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供が反復・継続・独立して行われることをいうものと解される。
その上で、消費税法2条1項4号は、事業者とは、個人事業者及び法人をいう旨規定し、同項3号において、個人事業者とは事業を行う個人をいう旨規定していることからすれば、消費税法上は、「事業を行う個人」(事業者)と、それ以外の「個人」とを区別しているのであって、当該個人が、資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供を反復・継続・独立して行っている場合には、事業を行う個人、すなわち事業者に該当する。
② 事業を行う個人(事業者)に該当しない個人が、選択届出書を提出した場合は、当該個人がその提出した日の属する課税期間後に事業を行う個人(事業者)に該当することとなったとしても、該当することとなった日の属する課税期間以後の課税期間において、改めて選択届出書を提出しない限り、消費税法9条4項の適用は認められないと解すべきである。
③ 消費税法9条4項括弧書は、選択届出書を提出した日の属する課税期間が事業を開始した日の属する課税期間である場合には、例外として、新たに事業を開始した個人に対して、当該事業を開始した日の属する課税期間から課税事業者となることを選択する機会を与えたものと解されるところ、新たに事業を開始するに当たっては、当該事業を遂行するために必要な準備行為(資産の取得契約の締結や商品及び材料の購入など、課税資産の譲渡等に係る事業の前提となる行為)を行うのが通常であると考えられる。
したがって、事業を遂行するために必要な準備行為を行った日の属する課税期間において、当該準備行為を行う個人は事業者に該当し、また、当該課税期間は、消費税法施行令20条1号に規定する「課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日」の属する課税期間に該当すると解するのが相当である。
④ Xは、本件カードホルダーを売却するための宣伝広告を行っておらず、本件カードホルダーは売却されていない。
Xが本件各中古書籍を売却した回数は、平成22年ないし平成24年の各年中、それぞれ1回限りである。
Xは、平成22年8月16日、題に「○○のための投資入門」が含まれる書籍を、同年12月4日には、題に「○○の不動産投資」が含まれる書籍(以下、これらの書籍を併せて「本件各書籍」という。)をそれぞれ購入した。
⑤ 本件カードホルダーの家事消費は、消費税法上の事業には該当しない。本件各中古書籍の売却は、消費税法上の事業には該当しない。
⑥ Xは、平成24年11月19日、J社との間で本件賃貸借契約を締結し、同社に対し、同年12月1日からホテル営業を目的として本件不動産を貸し付けていること、そして、本件不動産の賃貸借期間は3年間で、当事者からの申出がない限り更新されることからすると、本件不動産業務は、反復・継続して行われているということができる。なお、本件不動産業務が、Xの独立した行為に基づいていることは、本件賃貸借契約の内容からして明らかである。
したがって、本件不動産業務は、その規模を問わず、消費税法上の事業に該当する。
⑦ また、Xは、本件不動産業務に関連して、本件各書籍の購入がその開業準備行為である旨主張する。しかし、本件各書籍は、本件賃貸借契約締結の約2年前に購入された投資あるいは不動産投資に関する市販の書籍にすぎないことからすると、本件各書籍の購入が、本件不動産の取得及び貸付けの前提となる行為とは認められず、本件不動産業務を遂行するために必要な準備行為であるのかも明らかでないといわざるを得ない。なお、Xは、上記「(1)事案の概要③」のとおり、平成24年11月19日、H社との間で本件不動産の売買契約を締結しており、当該売買契約は本件不動産業務の開業準備行為であると認められる。
⑧ 以上のとおり、本件カードホルダーの家事消費及び本件各中古書籍の売却は、いずれも事業に該当せず、また、本件各書籍の購入は、本件不動産業務の開業準備行為とは認められないから、平成22年課税期間及び平成23年課税期間において、Xを事業者ということはできない。
ただし、本件課税期間においては、Xは本件不動産業務を遂行するために必要な本件不動産を取得し、その貸付けを開始しているから、Xは事業者に該当する。
⑨ Xは、上記「(1)事案の概要①」のとおり、平成22年2月15日に本件選択届出書を原処分庁に提出しているが、平成22年課税期間において、消費税法上の事業者ではないから、本件選択届出書の提出は、事業を行う個人(事業者)以外の個人からされた届出であるということになる。
そうすると、本件選択届出書は、実体上の義務が履行されていない届出であると認められるから、その届出の実体的効果は、本件選択届出書が提出された時から生じていないというべきである。
⑩ 以上からすると、Xは、本件課税期間において事業を行う個人(事業者)に該当するものの、(イ)本件課税期間の基準期間(平成22年課税期間)において事業を行っておらず、当該基準期間における課税売上高は○○○○円であること、(ロ)本件選択届出書が事業者ではないXから提出されたものであること、及び(ハ)本件不動産業務を開始した本件課税期間において改めて選択届出書を提出していないことから、課税事業者ではなく、免税事業者に該当する。
そして、消費税法9条4項が、事業者から選択届出書が提出された場合に、当該事業者が免税事業者でなくなること、すなわち課税事業者となることを定めた規定であることからすれば、事業者ではないXから提出された本件選択届出書によって同項を適用することは認められないと判断するのが相当である。
⑪ 以上のとおり、Xは、本件課税期間において免税事業者であるから、本件課税期間における消費税等の還付を受けることはできない。
事業を遂行するために必要な準備行為を行った日の属する課税期間が「課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日」の属する課税期間に該当するとされた事例-広島地裁令和7年3月17日判決(tains:Z888-2779)(棄却)
(1)事案の概要
本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 原告Xは、第三者が所有する複数の土地(以下「本件各土地」という。)に使用貸借権を設定し、太陽光発電所の発電施設を建築して再生可能エネルギー措置法に基づく太陽光発電事業(以下「本件事業」という。)を行うために、平成29年5月16日、A社に対し、太陽光発電所電気設備(以下「本件発電設備」という。)の建設工事を5535万円で依頼する旨の請負契約(以下「本件請負契約」という。)を締結した。また、本件発電設備の建設工事の施工後、追加工事が必要になったため、XとA社は、XがA社に追加工事代金として648万円を支払う旨を合意した。
② Xは、A社に対し、本件請負契約に基づく請負金額と後に発生した追加工事代金を併せた6183万円について、同年9月8日に2767万5000円、同年10月27日に1660万5000円、同年12月28日に830万2500円、平成30年1月19日に256万0000円、同年2月28日に668万7500円を、A社の当座預金口座に振り込む方法により支払い、前記口座には前記金額から振込手数料を差し引いた6182万7300円が入金された。
③ Xは、平成29年7月31日付けで、経済産業大臣に対し、本件発電設備について、再生可能エネルギー措置法9条1項に基づく再生可能エネルギー発電事業計画の認定を受けたい旨を記載した「再生可能エネルギー発電事業計画認定申請書(10kW未満の太陽光発電を除く)」(以下「事業計画認定申請書」という。)を提出し、本件各土地において行う再生可能エネルギー発電事業計画の認定申請を行った。
④ 本件各土地は農地法上の農地に当たり、同土地に使用貸借権を設定するためには農地法5条1項に基づく都道府県知事等の許可を受けなければならなかったため、Xは、行政書士に農地転用許可申請業務を依頼し、平成29年9月5日、B農業委員会会長に対し、本件各土地について、転用目的を太陽光発電設備設置のためとし、権利設定の内容を使用貸借権とする許可申請書を提出し、同年10月13日付けで、本件各土地の転用の許可を得た。原告は、前記農地転用許可申請業務を依頼した行政書士に対し手数料又は報酬等として、同年9月7日に合計8万2840円、同年11月1日に合計15万0720円を支払った。
⑤ Xは、経済産業大臣から、前記③で申請した再生可能エネルギー発電事業計画について再生可能エネルギー措置法9条3項に基づく認定を受けた。
⑥ Xは、C社から、電力受給契約及び系統連系の内容について、平成30年2月23日付けの「電力受給契約のお知らせ」と題する書面により、本件発電設備に係る「発電設備受給開始日」を同月20日とする旨の通知を受け、同通知により、原告とC社との間で、本件発電設備に係る電力受給契約(以下「本件電力受給契約」という。)が締結された。
⑦ A社は、平成30年2月25日、本件請負契約に基づく本件発電設備の建設工事を完了させた。
⑧ Xは、前記①のとおりA社に平成29年中に支払った本件請負契約に係る請負代金5258万2500円、前記④のとおり行政書士に依頼した農地転用許可申請業務の手数料ないし報酬等として支払った23万3560円を含む6049万7018円を平成30年1月1日付けで、Xの平成30年分総勘定元帳の建設仮勘定に計上した後、同年2月28日付けで、これらの金額を含む7027万0168円を「摘要」欄に「太陽光発電設備 17年」と記載して、機械装置勘定に振り替えた。
⑨ Xは、平成30年4月11日、処分行政庁に対し、消費税法9条4項に基づき、本件課税期間(同年1月1日から同年12月31日)以降の課税期間について納税義務の免除の規定の適用を受けない旨を記載した課税事業者選択届出書(以下「本件届出書」という。)を提出した。
⑩ Xは、平成31年1月7日、処分行政庁に対し、Xの本件課税期間の消費税等を納める義務が免除されないことを前提に、消費税額を39万7152円、控除対象仕入税額を546万9390円、控除不足還付税額を507万2238円、譲渡割額の還付額を136万8699円とする消費税等の確定申告書を提出した。
⑪ 処分行政庁は、「Xは、平成29年1月1日から同年12月31日の課税期間に太陽光発電事業を行うために必要な準備行為を行っているため、同期間が施行令20条1号に規定する『課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日の属する課税期間』となる。消費税法9条4項では、課税事業者選択届出書を提出した場合、同提出の日の属する課税期間の翌課税期間以後は免税事業者ではなく課税事業者として扱うこととし、ただし、括弧書において、当該提出をした日の属する課税期間が事業を開始した日の属する課税期間その他の政令(施行令20条1号)で定める課税期間である場合には、当該課税期間以後免税事業者ではなく課税事業者とする旨定められているといえるところ、Xの『課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日の属する課税期間』は、上記のとおり同年1月1日から同年12月31日であるから、括弧書の適用はないこととなるため、本件届出書により課税事業者選択の効力が生じるのは、本件課税期間の翌課税期間からであって、本件課税期間は免税事業者となる。したがって、本件課税期間において課税事業者であることを前提とする消費税等の確定申告書を提出することはできない。」旨を理由として、令和4年6月30日付けで、消費税額を0円、控除対象仕入税額を0円、控除不足還付税額を0円、譲渡割額の還付額を0円とする更正処分等(以下「本件更正処分等」という。)を行った。
⑫ Xは、令和5年11月27日、本件訴えを提起した。
(2)本件の主な争点
本件課税期間が施行令20条1号の「課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日の属する課税期間」に当たるか否かである。
(3)判示要旨(棄却)
① 消費税法9条1項本文は、課税期間の前々年(基準期間)における課税売上高が1000万円以下である者について、消費税を納める義務を免除する旨定める一方、同条4項は、同条1項本文の規定の適用を受けない旨を記載した課税事業者選択届出書を提出する制度を設計し、同届出書が提出されたときには、提出日の属する課税期間の翌課税期間以後同項本文の規定の適用のない課税事業者となる旨定めている。このように免税事業者に対して選択的に課税事業者となる余地を設けた趣旨は、免税事業者は、納税義務が免除されると同時に、仕入税額控除も受けられなくなるため、仕入税額控除の金額が納税義務が免除される消費税額よりも多い場合であっても免税事業者であるが故に還付金を受けられなくなることに鑑み、課税売上高は1000万円以下であるが消費税関係での還付金が期待できる事業者に対し、課税事業者となって還付金を受ける道を開くことにある。
② 課税事業者選択届出書の提出による納税義務免除不適用の効力が同届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間以後生じるという枠組みのみでは、事業者が、事業のために開業準備資金を多額に投下したことで発生する多額の仕入税額控除を受けるためには、開業準備資金を投下する日の属する課税期間の前年の課税期間において課税事業者選択届出書を提出しなければならないことになり、これは不合理である。そこで、消費税法9条4項は、括弧書において、「国内において課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日の属する課税期間」(施行令20条1号)に課税事業者選択届出書を提出した場合には、当該提出日の属する課税期間以後課税事業者となる道を開くことで、開業準備資金の投下に伴う還付金を受けることができるようにしたものと解される。以上のように、施行令20条1項が規定する「課税資産の譲渡等に係る事業」には、課税資産の譲渡等そのもののみならず、課税資産の譲渡等を開始するために必要な、資金投下を伴う準備行為も含まれると解するべきである。
③ Xは、発電設備の建設工事が完了した日が、事業主体としての地位を取得して本件事業に関する行為の効果が事業主体としてのXに帰属するに至った日と解するべきである旨主張する。しかしながら、Xは、個人事業主として消費税額を含めた代金等の支払をしていた時期にすでに事業者としての法主体性を有し、自己の名で課税事業者選択届出書を提出することができたのであるから、法人や事業承継した相続人の場合と同様に考えることはできない。そもそも、Xの主張するような解釈は、開業準備資金の投下に伴う還付金の受給のための道を開いた消費税法9条4項や施行令20条1号の趣旨を没却することになるものであって、採用の限りではない。
④ Xは、平成29年課税期間中に、発電設備の建設工事に関する請負契約の締結及びその代金の支払、本件事業に係る再生可能エネルギー発電事業計画の認定申請、各土地に使用貸借権を設定し本件事業を行うための農地転用許可申請業務の依頼及びその報酬等の支払を行っており、これらはいずれも開業準備資金の投下であってこれによる仕入税額控除及びこれに伴う還付を受けることができるような制度設計にされるべき、本件事業による課税資産の譲渡等を開始するために必要な準備行為であるといえるため、平成29年課税期間が施行令20条1号の「事業者が国内において課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日の属する課税期間」に当たるといえる。
⑤ 本件では、平成29年課税期間が「事業を開始した日の属する課税期間その他の政令で定める課税期間」となるため、消費税法9条4項括弧書は適用されない。そうすると、同項の原則どおり、同条1項の適用が排除されるのは、「当該提出をした事業者が当該提出をした日の属する課税期間の翌課税期間」である平成31年1月1日から令和元年12月31日の課税期間以後となり、本件課税期間(平成30年1月1日から12月31日)との関係では、同項の適用が排除されないため、本件課税期間の基準期間における課税売上高が1000万円以下である原告は、免税事業者として消費税の納税義務を免除される。本件更正処分はXが免税事業者であることを前提にされたものであり、その他に同処分の違法性を基礎づける事情もないため、同処分は適法である。
平成24年6月21日裁決(裁事87集)判断要旨
請求人は、消費税法施行令第20条《事業を開始した日の属する課税期間等の範囲》第1号に規定する「課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日」は、請求人が医院(本件医院)を開業する意思決定後の全ての準備行為を行った日が含まれるのではなく、課税資産の譲渡等を行うために必要な資材や商品に係る仕入れなど、それ自体が課税仕入れに当たる一定の準備行為を行った日のみが該当するとし、本件医院の建物に係る建築設計・監理業務委託契約(本件契約)に係る課税仕入れが発生した日は設計の完了日又は監理業務の完了日であることから、これらの日の属する課税期間(本件課税期間)が「課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日」の属する課税期間である旨主張する。
しかしながら、事業者が新たに事業を行うに当たっては、当該事業を遂行するために必要な準備行為を行うのが通常であるところ、消費税法第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》第4項の趣旨に照らせば、事業を遂行するために必要な準備行為を行った日の属する課税期間も「課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日」の属する課税期間に該当すると解するのが相当である。そして、事業を遂行するために必要な準備行為であるか否かは、必ずしも個々の行為だけではなく、一連の行為を全体として判断すべき場合もあるところ、請求人は、本件課税期間開始前から、事業に使用するための材料及び器具の購入を繰り返し行うとともに、本件医院を建築するための本件契約を締結しており、このことは請求人の事業開始に向けた一連の行為の一部であって、これら一連の行為が全体として事業に係る準備行為であると認められるから、「課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日」の属する課税期間は、事業に使用するための材料及び器具の購入の開始日の属する課税期間(本件課税期間の前課税期間)とするのが相当である。
平成29年6月16日裁決(裁事107集)判断要旨
請求人は、消費税法施行令第20条《事業を開始した日の属する課税期間等の範囲》第1号に規定する「事業者が国内において課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日の属する課税期間」の判断に当たっては、「事業を開始した日」について法令等に明確な規定がない以上、納税者の意思を尊重し、かつ、経済活動の実態に即した一般的な社会通念に沿って判断すべきであり、本件では、請求人が事業(本件事業)を開始したと認識し、個人事業開業届出書に本件事業を開始した日として記載した日の属する課税期間(本件課税期間)が同号に規定する「事業を開始した日の属する課税期間」に該当する旨主張する。
しかし、新たに事業を行うに当たり必要な準備行為を行った日の属する課税期間は、同号に規定する「事業を開始した日の属する課税期間」に当たると解するのが相当であり、本件において、請求人は、本件課税期間の前の課税期間中に請負契約を締結してその契約金を支払うなどしており、これらの行為は本件事業を行うために必要な準備行為と認められるから、本件課税期間は、同号に規定する「事業を開始した日の属する課税期間」には該当せず、請求人が本件課税期間中に提出した課税事業者選択届出書の効力は、本件課税期間の翌課税期間から生ずるため、本件課税期間について、請求人は消費税の免税事業者となる。




