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役員退職直前の報酬が低い・0円の場合の退職金|功績倍率法と1年当たり平均額法

役員退職直前の報酬が低い・0円の場合、退職金はどう計算するのか

 役員退職金では、一般に「最終月額報酬×役員在任年数×功績倍率」という功績倍率法が用いられます。

 ところが、中小企業では、役員が退職する直前の報酬が著しく低くなっていたり、場合によっては0円となっていたりすることがあります。

 例えば、創業社長が高齢となり、後継者への事業承継を進める過程で自らの報酬を減額していた場合、会社の業績や資金繰りを考慮して一時的に無報酬としていた場合などです。

 このような場合に最終月額報酬をそのまま功績倍率法に当てはめると、長年会社に貢献してきた役員であるにもかかわらず、極端に低額な退職金しか計算されないことがあります。

 特に、最終月額報酬が0円であれば、

 0円 × 役員在任年数 × 功績倍率 = 0円

となってしまいます。

 しかし、裁判例では、退職時の役員報酬が0円だからといって、法人税法上相当な役員退職給与額まで当然に0円になるとは考えられていません。

 問題は、このような場合に税務上どのように適正額が判定されるのか、そして、課税庁のように同業類似法人の詳細な情報を持たない会社が、退職金を支給する時点でどのように金額を決定すべきかという点です。

功績倍率法は原則として「退職直前の給与」を使う

 法人税基本通達9-2-27の3は、いわゆる功績倍率法について、役員の退職直前に支給した給与の額を基礎として、法人の業務に従事した期間及び役員の職責に応じた倍率を乗じる方法としています(法基通9-2-27の3)。

 一般的には、次の算式で表されます。

 役員退職給与額 = 最終月額報酬 × 役員在任年数 × 功績倍率

 この方法が合理的である背景には、通常であれば退職直前の月額報酬に、その役員の退職時における職責や在職中の功績がある程度反映されているという考え方があります。

 したがって、退職直前の月額報酬が一時的又は特殊な事情によって著しく低額になっている場合には、功績倍率法の前提自体が崩れることがあります。

昭和61年9月1日裁決では1年当たり平均額法が採用された

 最終月額報酬が著しく低額である場合について重要なのが、昭和61年9月1日裁決(裁事32集231頁)です。

 この裁決は、最終報酬月額が役員の在職期間を通じた会社への貢献を適正に反映したものではないなどの特段の事情があり、その金額が低額である場合には、最終報酬月額を基礎とする功績倍率法によって適正退職給与額を算定することは妥当ではないと判断しました。

 そして、このような場合には、最終報酬月額を計算要素としない「1年当たり平均額法」による方が合理的であるとしています(昭和61年9月1日裁決・裁事32集231頁)。

1年当たり平均額法とは

 1年当たり平均額法とは、同業類似法人の役員退職給与の支給事例について、役員退職給与額をその役員の勤続年数で割って「勤続年数1年当たりの役員退職給与額」を求め、その平均額に対象役員の勤続年数を乗じる方法です。

 適正役員退職給与額 = 同業類似法人の1年当たり役員退職給与額の平均額 × 対象役員の勤続年数

 この方法では対象役員自身の最終月額報酬を使用しません。

 そのため、最終月額報酬が著しく低額であったり、0円であったりする場合でも適正額を算定することができます。

 もっとも、1年当たり平均額法は、法人税法や法人税基本通達に一般的な計算式として定められている方法ではなく、役員退職給与の相当額を判定する方法として裁判例・裁決例で認められてきた算定手法です。

退職前2年余り無報酬だった代表取締役の裁判例

 最終月額報酬が0円であった事案として重要なのが、東京地裁平成25年3月22日判決(税資263号-54・順号12178)です。

 この事件では、会社の代表取締役であった役員が14年間代表取締役として勤務していました。

 その役員の報酬は平成16年12月までは月額60万円でしたが、その後、平成19年3月に退職するまで2年余り無報酬となっていました。

 会社は、この役員に5,880万円の退職給与を支給していました。

 最終月額報酬は0円ですから、通常の功績倍率法を機械的に使用すれば、

 0円 × 14年 × 功績倍率 = 0円

となります。

 しかし、東京地裁は、この役員が14年間代表取締役として会社経営に関与していたことなどから、相当な役員退職給与額を0円とすることは明らかに不合理であると判断しました。

 そして、平均功績倍率法によることが不合理となる特段の事情があるとして、1年当たり平均額法による算定を認めています(東京地裁平成25年3月22日判決・税資263号-54・順号12178)。

この裁判では同業類似法人3社のデータが使われた

 この事件で課税庁が抽出した同業類似法人3社の1年当たり役員退職給与額の平均額は154万1,466円でした。

 したがって、

 154万1,466円 × 14年 = 2,158万524円

が相当な役員退職給与額とされました。

 会社が支給した5,880万円のうち、この金額を超える部分について「不相当に高額な部分」があるとして課税処分が行われています(東京地裁平成25年3月22日判決・税資263号-54・順号12178)。

東京高裁も1年当たり平均額法を認めた

 控訴審である東京高裁平成25年9月5日判決(税資263号-162・順号12286)も、一審の判断を維持しています。

 東京高裁は、平均功績倍率法を原則的な方法としながらも、「退職直前に無報酬の期間があるなど、平均功績倍率法を採ると適正を欠く結果となる場合」には、1年当たり平均額法を採るのが相当であるとの考え方を示しました。

 そして、14年間代表取締役を務めたものの退職前2年余り無報酬であった役員について、1年当たり平均額法を採用したことに不合理な点はないと判断しています(東京高裁平成25年9月5日判決・税資263号-162・順号12286)。

 その後、最高裁平成26年5月27日第三小法廷決定により上告が棄却され、上告受理申立ても不受理となり、確定しています(最高裁平成26年5月27日第三小法廷決定・税資264号-96・順号12477)。

1年当たり平均額法は会社が支給時に簡単に使える方法ではない

 ここで実務上重要な問題があります。

 1年当たり平均額法を正確に計算するためには、同業類似法人について、

  • 実際に支給した役員退職給与額
  • 退職した役員の勤続年数
  • 業種
  • 事業規模
  • 退職事情

などの情報が必要になります。

 しかし、通常の会社が他社のこのような詳細な情報を把握することは困難です。

 東京地裁平成25年3月22日判決の事案でも、課税庁側は国税局から管内税務署長等への照会によって一定の条件に該当する同業類似法人を抽出しています。

 したがって、1年当たり平均額法は、最終月額報酬が著しく低額又は0円である場合の税務上の適正額判定方法として重要ですが、通常の会社が退職金の支給時に課税庁と同じ精度で再現することは困難です。

 税務調査、更正、審査請求又は税務訴訟等において、課税庁等が同業類似法人のデータを用いて事後的に適正額を判定する際に機能する面が強い算定方法と考えた方がよいでしょう。

では会社は退職金を支給するときにどうすればよいのか

 会社が同業類似法人の詳細なデータを把握できない以上、「1年当たり平均額法で計算すればよい」といわれても、実務では容易ではありません。

 そこで考えられるのが、実際の最終月額報酬がその役員の職責・功績を適切に反映していないのであれば、会社が保有している客観的な資料から、その役員の職責・功績を合理的に反映する「基準となる報酬月額」を検討するという方法です。

 ただし、この方法についても注意が必要です。

 「会社が好きな金額を最終月額報酬の代わりに使ってよい」という意味ではありません。

実際の最終報酬を修正して功績倍率法を適用した裁判例

 この点について参考になるのが、高松地裁平成5年6月29日判決(平成4年(行ウ)第2号・税資195号709頁)です。

 この事件では、死亡退職した取締役の実際の最終月額報酬は5万円でした。

 裁判所は、その5万円では当該役員の会社に対する功績を適切に反映していないと判断し、代表取締役の報酬月額75万円と90万円の平均額82万5,000円の2分の1である41万2,500円を「適正な報酬月額」と認定しました。

 そして、

 41万2,500円 × 在職年数2年 × 平均功績倍率1.4 = 115万5,000円

として相当な役員退職給与額を算定しています(高松地裁平成5年6月29日判決・平成4年(行ウ)第2号・税資195号709頁)。

高松地裁判決は「過去の報酬を平均すればよい」とした判決ではない

 ここは特に注意が必要です。

 高松地裁平成5年6月29日判決は、「本人が過去にもらっていた役員報酬を平均すれば、その平均額を最終月額報酬の代わりに使える」

と判断したものではありません。

 裁判所は、本人の実際の職務内容や会社への貢献、他の役員の報酬等を検討した上で、その事案における適正な報酬月額を認定しています。

 したがって、「過去平均報酬法」という税務上確立した第四の算定方法が存在するわけではありません。

本人の過去の役員報酬を平均して使う方法はどうか

 それでは、例えば退職直前だけ役員報酬が0円であった場合に、その役員が過去に受け取っていた報酬を平均し、

 過去の平均月額報酬 × 役員在任年数 × 功績倍率

によって退職金を計算する方法はどうでしょうか。

 会社が入手できる情報から支給額の合理性を検討する方法としては、一つの参考にはなると考えられます。

 しかし、「過去○年間の平均報酬を使えば法人税法上認められる」という法令、通達又は確立した裁判例上のルールはありません。

 例えば、

  • 過去3年間の平均
  • 過去5年間の平均
  • 在任期間全体の平均

のうち、どれを使用すべきかについても税法上の基準はありません。

 したがって、過去の報酬は「算式そのもの」ではなく、退職直前の報酬が異常値である場合に、その役員の本来の職責に対応した合理的な報酬月額を検討するための証拠資料の一つと位置付ける方が適切です。

在任期間全体の単純平均はかえって不合理になることがある

 例えば、30年間役員を務めた者について、

 取締役時代 月額30万円
 常務取締役時代 月額50万円
 代表取締役時代 月額100万円
 退職直前 月額0円

であった場合を考えます。

 30年間全部の報酬を単純に平均すると、若い取締役時代の30万円まで含まれてしまいます。

 しかし、それでは退職時における代表取締役としての職責を反映した報酬水準とはいえない可能性があります。

 このような場合は、単純な全期間平均よりも、「退職直前の特殊な減額・無報酬化がなければ、通常いくらの報酬を受けていたと考えるのが合理的か」という観点で検討する方が適切でしょう。

「減額前の正常な報酬水準」を見る方法

 例えば、代表取締役として長期間月額100万円の役員報酬を受け取り、職務内容はほとんど変わっていないにもかかわらず、会社の一時的な資金繰りのため最後の6か月だけ0円としていた場合を考えます。

 この場合、

 0円になった理由
 職務内容が本当に変わっていないか
 100万円がどの程度の期間継続していたか
 報酬減額時の株主総会・取締役会の資料
 後継者その他の役員の報酬

などを確認すれば、減額前の100万円又はそれに近い金額が、その役員の職責を反映した報酬水準であったと説明できる可能性があります。

 一方、

 100万円 → 70万円 → 40万円 → 10万円 → 0円

と数年間にわたって報酬が減少し、それに合わせて後継者へ権限や職務を移譲していた場合には、以前の100万円をそのまま退職時の基準報酬月額とすることには慎重な検討が必要です。

同じ「0円」でも理由によって意味が違う

 最終月額報酬が0円である場合には、なぜ0円となったのかを確認することが非常に重要です。

退職直前の状況検討のポイント
職務内容は変わっていないが、会社の資金繰り等から一時的に0円とした減額前の通常報酬が基準報酬月額を考える重要な資料となり得る
職務内容は変わっていないが、本人の意思で一時的に無報酬とした無報酬が職責・功績を反映していない理由を客観的に説明できるか
後継者へ段階的に権限移譲し、それに伴い報酬も低下した過去の高い報酬をそのまま使う合理性は低くなる
退職前には経営にほとんど関与せず0円となっていた以前の代表取締役報酬を基準とすることには慎重な検討が必要
退職金を増やすために報酬だけを操作した税務上の説明が極めて難しくなる

 結局、「0円だから以前の報酬を使える」のではなく、「0円が本来の職責・功績を反映した報酬ではないことを説明できるか」が重要です。

会社が独自に「本来の報酬額」を作るのも危険

 会社側で合理的な基準報酬月額を検討できるとしても、根拠なく好きな金額を設定できるわけではありません。

 先ほどの東京地裁平成25年3月22日判決の事案では、会社は、無報酬で退職した代表取締役について「本来であれば支払うべき報酬額」を月額140万円とし、

 140万円 × 功績倍率3.0 × 勤続年数14年 = 5,880万円

として退職給与を算定した旨を主張していました。

 しかし、裁判所は、この役員の実際の報酬は退職時には0円であり、その前も月額60万円であったことから、140万円としたことに合理的根拠を見出すことはできないと判断しています(東京地裁平成25年3月22日判決・税資263号-54・順号12178)。

 これは実務上非常に重要です。

 実際の最終報酬が低すぎるからといって、退職金額に合わせて「本来の報酬額」を逆算して作ることは認められにくいと考えるべきです。

会社側で基準報酬月額を検討する場合の資料

 退職直前の報酬が著しく低額又は0円であり、その金額をそのまま使用することが不合理と考えられる場合には、会社では例えば次のような資料を総合的に検討することが考えられます。

  • 報酬が低額又は0円となった具体的な理由
  • 減額前後で職務内容や権限が変化したか
  • 退職前数年間の役員報酬の推移
  • 同じ役位にあった期間の通常の報酬水準
  • 役位が変更された時期
  • 後継代表取締役その他の役員の報酬
  • 売上高、利益、資金繰り等の推移
  • その役員が実際に行っていた業務
  • 株主総会・取締役会における報酬決定・減額の理由
  • 退職が具体的に予定された時期

 これらの資料から、特殊な事情による減額がなければ通常どの程度の報酬を受けていたと考えるのが合理的かを検討し、その金額を参考として功績倍率法による試算を行うことは考えられます。

 ただし、これは会社が退職給与額を決定するための実務上の検討方法であって、税法上確立した算定方法ではありません。

過去平均を使うなら「平均した理由」が必要

 例えば、直近3年間の役員報酬の平均額を使用するのであれば、「なぜ3年間なのか」を説明できる必要があります。

 直近3年間を通じて役位・職務が同一であり、最後の数か月だけ特殊事情によって報酬が低下したのであれば、一定の合理性を説明できるかもしれません。

 一方、直近3年間に大幅な権限移譲が進んでいたのであれば、単純平均ではかえって実態を反映しない可能性があります。

 したがって、「過去3年平均」や「過去5年平均」を機械的なルールとして採用するより、正常な職務・報酬関係が継続していた期間を確認することが重要です。

退職直前に報酬を遡って引き上げる方法は避ける

 最終月額報酬が低いからといって、退職金を増額するために役員報酬を後から増額する方法には大きな税務リスクがあります。

 東京地裁令和2年3月24日判決(平成28年(行ウ)第589号・税資270号-43・順号13403)の事案では、元取締役は遅くとも平成19年4月以降、月額25万円の役員報酬を受けていました。

 ところが、平成24年の退任後に役員報酬が遡及して追加支給され、最終月額報酬は月額100万円とされました。

 そして、その100万円を基礎として高額な退職慰労金が計算されていました。

 裁判所は、100万円への増額について合理的な理由が認められず、専ら役員退職給与の算定根拠を整える目的で決定・支給されたものと認定しました。

 そのため、功績倍率法によることが不合理となる特段の事情があるとして、1年当たり平均額法を合理的な方法と判断しています(東京地裁令和2年3月24日判決・平成28年(行ウ)第589号・税資270号-43・順号13403)。

 退職金を増やすために、退職直前又は退職後に最終月額報酬を操作する方法は避けるべきです。

役員退職慰労金規程ではどう定めるか

 最終月額報酬が低額又は0円となる可能性を考慮し、役員退職慰労金規程に一定の調整条項を置くことも考えられます。

 例えば、「退任直前の一時的又は臨時的な増額若しくは減額、無報酬その他の特殊な事情により、退任直前の月額報酬がその役員の職責及び功績を適切に反映していないと合理的に認められる場合には、当該事情が生じる前の通常の報酬、職務内容、役位、他の役員の報酬その他の事情を総合的に勘案し、合理的な基準報酬月額を定めることができる。」という考え方です。

 ただし、このような規程があれば税務上その基準報酬月額が当然に認められるというものではありません。

 役員退職慰労金規程は会社内部の算定基準であり、法人税法上の「不相当に高額な部分」の判定は法人税法34条2項及び法人税法施行令70条2号によって別途行われます。

 役員退職慰労金規程の具体的な作り方については、関連記事「役員退職慰労金規程の作り方|代表取締役の功績倍率3.0と具体的なひな型」で詳しく解説しています。

報酬が低くなった理由が事業承継なら「実質的退職」にも注意

 退職直前の役員報酬が低下している原因が、後継者への事業承継である場合には、別の問題も生じます。

 例えば、

 代表取締役から会長になった
 経営権を徐々に後継者へ移した
 出社日数も減少した
 それに応じて役員報酬も100万円から50万円、30万円、0円へと減少した

という場合です。

 このようなケースでは、「退職時の報酬が0円だから以前の100万円を使って退職金を計算する」という問題だけでなく、「税務上、いつの時点で実質的に退職したといえるのか」を検討する必要があります。

 役員の分掌変更と実質的退職については、関連記事「役員の分掌変更で退職金は損金になる?報酬50%減でも否認される『実質的退職』の判断基準」で詳しく解説しています。

税務調査に備えて残しておきたい資料

 実際の最終月額報酬とは異なる金額を参考として役員退職給与額を決定する場合には、通常の場合以上に資料を残すことが重要です。

  • 役員報酬の推移
  • 報酬減額又は無報酬化を決議した株主総会・取締役会議事録
  • 報酬を減額した具体的な理由
  • 報酬減額前後の職務内容
  • 職務権限規程や組織図
  • 役員の出社状況
  • 後継者への権限移譲の状況
  • 他の役員の報酬
  • 会社の売上高・利益・資金繰り等の推移
  • 退職金額を算定した具体的な計算書
  • 採用した基準報酬月額とその根拠資料
  • 役員退職慰労金規程
  • 株主総会議事録

 特に重要なのは、

 「なぜ実際の最終月額報酬を使わなかったのか」

と、

 「なぜ代わりにこの報酬月額を採用したのか」

の双方を客観的に説明できることです。

1年当たり平均額法と会社側の支給額決定は分けて考える

 役員退職直前の報酬が低額又は0円の場合には、税務上の問題を二つに分けて考えると分かりやすくなります。

 一つ目は、

「後日の税務調査や税務訴訟で、課税庁や裁判所が相当な役員退職給与額をどのように算定するか」

という問題です。

 この場面では、1年当たり平均額法が使用される可能性があります。

 二つ目は、

「会社が実際に役員退職金を支給する時点で、何を基準として支給額を決定するか」

という問題です。

 会社には課税庁と同じ同業類似法人データが通常ありません。

 そのため会社側では、最終月額報酬が低額又は0円となった事情を確認し、過去の通常報酬、役位、職務内容、他の役員の報酬等の客観的資料から合理的な基準報酬月額を検討し、役員退職慰労金規程等による試算を行うという方法が実務上考えられます。

 ただし、その計算額が法人税法上当然に認められるわけではないことには十分な注意が必要です。

まとめ

 役員退職給与の功績倍率法は、原則として退職直前の給与額を基礎として計算する方法です(法基通9-2-27の3)。

 しかし、退職直前の役員報酬が著しく低額又は0円で、その金額が役員の会社への功績を適切に反映していない場合には、最終月額報酬を機械的に使用することが不合理となる場合があります。

 裁判例・裁決例では、このような場合について、

 ①最終月額報酬を使用せず、同業類似法人の1年当たり役員退職給与額を基礎とする「1年当たり平均額法」によって算定する方法

と、

 ②実際の最終月額報酬とは異なる、その役員の職責・功績を合理的に反映する報酬月額を認定し、功績倍率法を適用する方法

の双方が確認できます(昭和61年9月1日裁決・裁事32集231頁、高松地裁平成5年6月29日判決・平成4年(行ウ)第2号・税資195号709頁、東京高裁平成25年9月5日判決・税資263号-162・順号12286)。

 もっとも、1年当たり平均額法には同業類似法人の具体的な退職給与額や勤続年数等のデータが必要であり、通常の会社が支給時に課税庁と同じ方法で算定することは困難です。

 また、「本人の過去の役員報酬を平均した金額×勤続年数×功績倍率」という算式も、税法上確立した算定方法ではありません。

 過去の役員報酬は、単純に平均して使用するのではなく、退職直前の報酬が異常値である場合に、「その役員の職責・功績を通常反映していた報酬水準はいくらだったのか」を検討するための資料として利用するのが適切です。

 その際には、報酬が低額又は0円となった理由、職務内容の変化、役位の変遷、減額前の通常報酬、他の役員の報酬等を総合的に検討する必要があります。

 そして、退職金額から逆算して都合のよい「本来の報酬月額」を作ったり、退職直前・退職後に役員報酬を遡及増額して功績倍率法の計算基礎を整えたりする方法は避けるべきです。

 高額な役員退職金を支給する場合には、どの報酬月額を基準としたのかだけでなく、「なぜその金額を基準とすることが合理的なのか」を、支給時点の客観的資料によって説明できるようにしておくことが重要です。

 役員退職給与そのものが税務上過大となる場合については、関連記事「役員退職金が過大として否認される場合とは?同業類似法人と平均功績倍率法の判定基準」をご参照ください。

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