概要

 役員が(自分が株主、役員である)同族会社に対して無利息又は低利での貸付けをすることは、同族会社経営における機動的な資金供給手法として長らく実務に浸透してきました。

 しかし今、所得税法157条(同族会社の行為計算の否認)という「伝家の宝刀」が、かつてない頻度で抜かれ始めています。

 平成16年に最高裁が「平和事件」(東京地裁平成9年4月25日判決・税資223号500頁、東京高裁平成11年5月31日判決・税資243号127頁、最高裁平成16年7月20日第三小法廷判決・集民214号1071頁)において貸付額3,455億円という巨額事案に引導を渡して以来、実務では「否認リスクは天文学的な数字に限られる」という根拠なき安心感が漂っていました。

 事実、当局もその後約20年もの間、この領域において沈黙を守ってきました。

 しかし、令和6年から7年にかけて相次いで明らかにされた3つの裁決(令和6年5月15日裁決・大裁(所)令5第47号、令和6年6月10日裁決・東裁(所)令5第120号、令和7年3月7日裁決・裁事138集)は、その沈黙が「終焉」したことを告げています。

 現在、当局の照準は、数十億円規模の「中規模」な貸付けへと明確にシフトしています。本記事では、これら最新裁決が投げかける警鐘を構造的に分析し、実務家が直面する否認ロジックの正体を解明します。

 まずは、全ての議論の原点であり、現代の審判所判断の「背骨」となっている平和事件の法的枠組みを分析します。

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基準点としての「平和事件」の概要

 所得税法157条の適用要件を語る上で、平和事件は避けて通れません。この事案が示した「独立当事者間取引原則」への抵触判断は、最新の裁決においても不可侵の基準として機能しています。

 本件は、個人(納税者)が自己の資産管理会社に対し、株式譲渡代金を原資とする3,455億円余を無利息、無期限(随時返済)、無担保で貸し付けた事案です。

  裁判所は、これほど巨額の金員を、独立かつ対等な第三者間で無利息・無担保・無期限で貸し付けることは、通常の経済活動として「不自然、不合理」であると断じました。

 適正金利の算定においては、地裁は全国銀行の長期貸出平均金利(5.58%)を採用しましたが、高裁では当時の金利情勢を反映し、総合新規貸出約定平均金利(4.87%)を基準とする修正がなされました。

 特筆すべきは過少申告加算税の取扱いです。当時、国税当局の担当者が官職名を付して執筆した解説書には「個人から法人への無利息貸付けは課税されない」旨の記述がありました。

 高裁はこれを信じた納税者に「正当な理由」を認めましたが、最高裁はこれを破棄しています。3,455億円という異例の規模であれば、納税者は「専門家による十分な調査・検討」を行うべき義務があり、解説書の一般的な記述に依拠しただけでは免責されないと厳しく指摘しています。

 この「巨額ゆえの特別視」という実務的理解が、最新の数十億規模の事案にどう変容して引き継がれているか、次で詳述します。

最新3裁決の概要

 近時の3裁決は、平和事件のロジックをより緻密化し、納税者が「実務上の慣行」として逃げ道にしていた主張を冷徹に排斥しています。

令和6年5月15日裁決:税制改正回避という「主観的意図」の重視

 社債利息の総合課税化という税制改正を目前に、社債を償還させ、その償還金を原資に約81.6億円を貸し付けた事案です。注目すべきは「現実の資金移動を伴わない帳簿上の振替」である点です。審判所は、税負担増を回避するために意図的に低利(定期預金並みの金利)へ切り替えた不自然さを突き、これを「租税回避目的以外の何物でもない」と断じています。

令和6年6月10日裁決:「経営責任」という主観の無力化

 同族会社(3社)へ貸し付けた事案です(貸付金額は不明であるが、20億円台と噂されています)。納税者は「経営責任を果たすための好意的援助」と主張しましたが、審判所は客観的な証拠に乏しいとして排斥しています。無利息・無担保・無期限という条件自体が、独立第三者間では「大いに異なる」という事実こそが、所得税法157条適用の決定打となりました。

令和7年3月7日裁決:「経済人」フィクションの完成形

 納税者は「役員の無利息貸付けは実務上の一般慣行」であり、かつ「会社は債務超過」と主張しました。しかし審判所は、同社が約1.2億円もの配当金を受領する見込みがあった事実を重視し、利息支払能力が十分にあるにもかかわらず無利息としたのは、経済的合理性を欠くと結論づけました。「役員の同族会社に対する無利息貸付けは一般的」という納税者の主張を一蹴しました。

平和事件と最新3裁決の「状況」

項目平和事件令和6年5月15日裁決令和6年6月10日裁決令和7年3月7日裁決
主たる取引目的・背景店頭登録直後の株式譲渡に伴う譲渡代金の貸付(創業者の安定株主・相続対策)社債利息の総合課税化(税制改正)による税負担増を回避するため、社債から低利貸付けへ切り替え(形式的な勘定振替)グループ同族会社(3社)における社債買入、株式購入、運転資金などの実質的な資金需要の融通同族会社が抱えていた金融機関借入の返済(質権実行や倒産、信用失墜の緊急回避)
貸付金額約3,455億円約81.6億円不明(20億円台)約23.4億円
融資条件無利息、無期限、無担保極低利(定期預金並)、無期限、無担保無利息、無期限、無担保無利息、無期限、無担保
認定利率(適正金利)の算定根拠全国銀行の総合新規貸出約定平均金利:高裁基準国内銀行の新規かつ長期の貸出約定平均金利日本銀行公表の月次貸出約定平均金利実際に会社が銀行と締結した借入契約の利率:3か月TIBOR+スプレッド加算

役員が無利息又は低利で会社に貸付けをする場合、いくらぐらいまでなら問題ないのか

 実際問題、中小企業の多くで、役員が無利息又は低利で会社に貸付けをしていることでしょう。だからといって、税務調査で指摘されるかといったら、指摘されていないのが実情でしょう。

 最新3裁決では、数十億円規模のレベルの貸付です。この数十億円規模のレベルの貸付の場合は、税務調査が入った際には、指摘される可能性があると理解すべきだと思います。

 一方、数百万程度の一時的な貸付けであれば、無利息であっても税務署から否認(所得税法157条の行為計算否認による利息の認定課税)を受けるリスクは極めて低いと思われます。

 理由は以下です。

(1)税務署の立場による費用対効果
 数百万円の貸付けであれば、仮に1%の利率で利息を認定したとしても、年間数万円の雑所得(所得税額は数千円〜数万円程度)の差にしかなりません。税務署としても、多大な労力をかけて行為計算否認を適用する実益がほとんどありません。

(2)過去の解説書の記載に対する最高裁の考え方
 無利息貸付けのリーディングケースである「平和事件」の最高裁判決(平成16年)では、約3,455億円という巨額の無利息貸付けが否認されましたが、この裁判の中で非常に興味深い事実が示されています。
 当時、納税者側は、国税局の直税部長が監修し、法人税課長が編集した公式な解説書(回答事例集)を根拠に「課税されないと確信していた」と主張しました。その解説書には、まさに以下のような設例が掲載されていたのです。
「会社が業績悪化のため資金繰りに困り、代表者から運転資金として500万円を無利息で借り入れた」
 この設例に対し、解説書では「代表者個人は経済的利益を受けていないため、所得税の申告をする必要はない(=課税されない)」と回答されていました。
 これについて最高裁は、この500万円の例は「代表者の経営責任の観点から、当該無利息貸付けに社会的・経済的に相当な理由があることを前提とする記述である」と認めました。
 その上で、平和事件の「3,455億円という、経営責任の範疇をはるかに超えた不自然かつ不合理な超巨額貸付けとは、全く事案を異にする」と判示して納税者側の主張を退けました。
 つまり、最高裁の法理においても、「数百万円程度の、会社の窮地を救うための一時的な役員貸付け」であれば、経営責任や社会的・経済的に相当な理由があり、行為計算否認の対象にはならないと解されているのです。

金融機関ごとの融資実態(令和6年度末時点)

 日本政策金融公庫が公表する統計データ(令和6年度末時点)に基づき、金融機関ごとの融資実態を概観します。

日本公庫
国民生活事業
日本公庫
中小企業事業
信用金庫計
(254金庫)
国内銀行(注)計
(130行)
融資先数115万先5.7万先124万先218万先
1先あたりの平均融資残高822万円1億3,300万円4,420万円1億1,836万円

(注)国内銀行とは、都市銀行、地方銀行、第二地方銀行、信託銀行などをいい、国内銀行の数値は「中小企業」の数値をベースとされています。

 上記データからは、日本の金融インフラにおける各機関の「役割分担(棲み分け)」が明瞭に看取されます。

 日本公庫(国民生活事業)は、平均残高が822万円と極めて少額であり、民間金融機関では対応が困難な小規模事業者や創業支援を担う政策金融機関としての性格を色濃く反映しています(中小企業事業は狭き門)。

 信用金庫は、平均残高約4,420万円(日本公庫の約5倍)と、地域密着型の中小企業の運転資金・設備投資を支えるメインバンク機能を果たしています。

 一方、国内銀行は平均残高が1億円を超えており、中堅企業や大規模案件を包含する広域支援を特徴としています。

 上記のデータから、自社がメインバンクとしている金融機関の平均融資残高によって、適正な貸付限度額がどの程度なのか、ある程度の見通しが立つでしょう。

 さらに「借入金月商倍率」が6倍という数値は年商の50%(半年分)に相当します。中小企業において、売上の半分に及ぶ借入金は、元利金の返済負担がキャッシュフローを圧迫し、自力再建を困難にする蓋然性が高いといえます。

 ゆえに、この6倍という基準は、実務上の融資限度のデッドライン(キャップ)として機能しており、6倍を超えると新規の借り入れは非常に困難となります。

適正な貸付利率

 「預金金利」ではなく、市場における「貸出金利」が有力なベンチマークとなるでしょう。自己資金の活用であっても、基準とすべきは「預金金利」ではなく「法人が外部調達する際の借入金利」となるでしょう。

 よって、適正利率の設定は、銀行の貸出約定平均金利や令和7年3月7日裁決に見られるようなTIBOR等の市場連動型金利をベースにしたものとなるでしょう。

源泉徴収と確定申告

 会社が役員借入金に対して利息を支払っている場合は損金に算入できますが、その利息支払いの際に源泉徴収義務の必要はないです(役員が居住者の場合)。また、役員がもらう利息は利子所得ではなく、通常は、雑所得(事業から生じたと認められる場合は事業所得)となります(所法23①、所基通35-1(1)、35-2(6))。

 なお、同族会社の役員などについては、その法人から給与所得のほかに、貸付金の利子をもらっている場合は、給与所得及び退職所得以外の所得金額が20万円以下の場合でも確定申告をしなければならないことになっています(所法121①柱書但書、所令262の2)。同族会社を用いた租税回避への対抗措置として規定されているのです。

役員が個人的に銀行から、お金を借り、それを銀行借入利息と同率で会社に貸した場合

 例えば、役員甲がZ銀行から1億円を借入し、そのうち5,000万円円を会社Aへ貸付け、その貸付利息がZ銀行のレートと同じの場合、このZ銀行に対する支払利息(5,000万円/1億円相当)は、役員甲の雑所得の必要経費として認められると考えられます。

 結果的に、役員甲の会社Aへ貸付け利息としての雑所得は、収入金額=必要経費であるため、0円となります。

高利で貸付けをした場合

 同族会社(自分が株主、役員である)に対して役員が貸付けをする場合は、一般的に無利息又は低利です。では、逆に、高利で貸付けをした場合はどのようになるかというと以下となります。

 適正利率までの部分については雑所得に該当し、適正利率を超える部分については、給与所得に該当します。

平成17年10月21日裁決(東裁(所)平17第49号)判断要旨

 同族会社A社が利息相当額として支払った金員のうち、適正利率(A社に対する金融機関によるスプレッド貸しに準じて算定)までの部分については、実質的な「法人への貸付金」に係る利息と認めるのが相当であり、所得税法35条1項に規定する雑所得に該当する。適正利率を超える部分については、請求人がA社の取締役として受けた利益供与であり、役員報酬に該当すると認められるから、その所得区分は給与所得である。

平和事件-東京地裁平成9年4月25日判決(税資223号500頁)、東京高裁平成11年5月31日判決(税資243号127頁)、最高裁平成16年7月20日第三小法廷判決(集民214号1071頁)(破棄自判、被上告人の控訴棄却)(確定)

(1)事案の概要

 本件の事案の概要は、次のとおりである。
① X(原告、被告人、双方上告人)は、パチンコ機器メーカーH社の代表取締役であるほか、資産管理会社たるN社の取締役を兼ね、昭和63年12月31日当時、H社の発行済株式5,888万株の73.5%、N社の資本金500万円の98%をそれぞれ所有していた。
 H社は、昭和35年9月に設立され、その株式は昭和63年8月に店頭売買登録銘柄とされ、平成3年12月、東京証券取引所第2部に上場された。
 N社は、昭和63年11月に設立されたXの同族会社である。同社の収益のほとんどは、Xが平成元年3月に同社に譲渡したH社の株式3,000万株(以下「本件株式」という。)に係る配当収入(平成元年9月期は0円、平成2年9月期は6億円及び平成3年9月期は9億円)であり、配当収入のほかには、平成2年9月期及び平成3年9月期に受取預金利息収入があつたのみである。同社は、平成4年8月に解散した。
② 上記①のように、Xは、平成元年3月、N社に対し、本件株式を総額3,450億円で譲渡し、その買受代金としてN社に対し、3,455億円余を返済期限及び利息を定めず、担保を徴することなく貸し付けた(以下「本件消費貸借」といい、その貸付金を「本件貸付金」という。)。なお、Xは、この資金繰りのため、 1日だけ銀行から3,455億円を借り受け、3,194万円余の利息(年利3.375%)を支払った。
 その後、N社は、平成4年8月に解散し、本件株式(時価2,040億円に下落)等の所有資産をもって本件貸借に係る債務を代物弁済したが、Xは、本件貸付金の全額を回収できず、1,398億円余を免除した。
② Y税務署長(被告、被控訴人、双方上告人)は、平成4年6月、本件貸借について所得税法157条(同族会社等の行為又は計算の否認、以下「本件規定」という。)を適用し、本件貸借によってXに利息収入が生じたものと認定し、平成元年から3年分までの所得税の雑所得金額を合計約495億円とする更正(以下「本件各更正」という。)と過少申告加算税の賦課決定(以下「本件各賦課決定」といい、本件各更正と併せて以下「本件各処分」という。)をした。
③ Xは、本件各処分を不服として、また、N社の解散等を理由に本件認定利息は回収できなかったとする更正の請求に対するY税務署長の理由がない旨の通知(以下「本件通知」という。)を不服として、本訴を提起した。

(2)本件の主な争点

(2)本件の主な争点
① 同族会社の出資者及び代表取締役が同会社に対してした無利息貸付けに所得税法157条(同族会社等の行為又は計算の否認規定を適用して利息相当分につきした課税処分は適法か否かである。
② 過少申告加算税を賦課しない「正当な理由」があるか否かである。

(3)一審判決要旨(棄却)(X控訴)

(本件規定の要件及び効果)
① 個人と独立かつ対等で相互に特殊関係のない法人との間で、当該個人が当該法人に金銭を貸し付ける旨の消費貸借契約がされた場合において、右取引行為が無利息で行われることは、原則として通常人として経済的合理性を欠くものといわざるを得ない。そして、当該個人には、かかる不自然、不合理な取引行為によつて、独立当事者間で通常行われるであろう利息付き消費貸借契約によれば当然収受できたであろう受取利息相当額の収入が発生しないことになるから、結果的に、当該個人の所得税負担が減少することとなる。
② 株主等が同族会社に無利息で金銭を貸し付けた場合には、その金額、期間等の融資条件が同族会社に対する経営責任若しくは経営努力又は社会通念上許容される好意的援助と評価できる範囲に止まり、あるいは当該法人が倒産すれば当該株主等が多額の貸し倒れや信用の失墜により多額の損失を被るから、無利息貸付けに合理性があると推認できる等の特段の事情がない限り、当該無利息消費貸借は本件規定の適用対象になるものというべきである。
③ 本件消費貸借には、特段の事情は認められない。
(雑所得の額の計算)
④ 通常の経済人である個人が特殊関係のない法人に金員を貸し付けるに当たり、当該法人が金融機関から当該金員を借り入れる際に必要な利率と同額の利率を付することには経済的合理性が認められるから、結局において、銀行の貸出平均金利を基礎としてXの雑所得を計算することには合理性が認められるものというべきである。
⑤ N社が実質的な営業活動を行つていなかつたこと及び、本件消費貸借は期限の定めのないものとはいつても、その経済的実質に照らして判断すれば相当長期間にわたる貸付けであつたことは明らかであるから、本件消費貸借をその標準的な行為又は計算に引き直した場合に適用すべき利率は、全国銀行の長期貸出平均金利(5.58%)を基礎として雑所得の金額を計算することには合理性が認められる。
(本件各更正と本件各賦課決定)
⑥ 本件各更正に際し信義則の適用の前提となる公的見解の表示があつたといえるか否かをみるに、なるほど、各文献(前職及び現職の東京国税局税務相談室長が編集した「昭和58年版・税務相談事例集」、東京国税局直税部長が監修し、同局法人税課長が編集した「回答事例による法人税質疑応答集」(昭和55年3月発行)及び「昭和59年版・回答事例による法人税質疑応答集」)は、税務官庁の担当者の手になるものであり、かつ、個人から法人への無利息貸付けは一般に課税対象とはならない旨の記述がみられるものではあるが、いずれも通常想定される一般的な税務事例に則した解説書の性質を有する私的な著作物というほかなく、右にいう公的見解の表示と同視することはできないし、右いずれの記述をみても、当該無利息貸付けが経済的にみて不自然、不合理と認められるような場合を含めて常に本件規定の適用がないと述べているものとは解されない。
 よって、本件更正が信義則の適用によって違法となる余地はない。このことは、本件各賦課決定に関し、国税通則法65条4項に規定する「正当な理由」にも該当しない。

(4)控訴審判決要旨(原判決変更、一部取消し)(XY双方上告)

① Y税務署長が本件貸借について所得税法157条を適用したことに違法はない。その理由は、原判決の理由を引用する。
② 所得税法157条の趣旨が税負担の公平の維持にあり、租税回避に対する制裁にはないことを重視すれば、本件消費貸借については、個人が資金運用をするに当たって一般的にみて経済的に不合理とはいえないものというべき預金金利に相当する利息の約定があったものと解する余地もないとはいえないが、本件貸付金はN社の経営のための融資としてその金額が膨大であり、X自身も個人の預金等から支弁したものではなく、自己の経済人としての信用を媒介に金融機関からの融資を得て本件消費貸借を行ったものであり、本件消費貸借が行われない場合にXが本件貸付金を定期預金に供したであろうと合理的に推認することもできず、本件消費貸借の条件、貸付先の資力等を総合すれば、銀行の貸出平均金利をもってあるべき利率と認定したことをもって違法と評価することはできない。
③ ところで、原判決は、本件消費貸借をその標準的な行為又は計算に引き直した場合に適用すべき利率は、本件消費貸借当時の全国銀行における貸出平均金利であるとして平成元年3月の全国銀行の長期貸出約定平均金利である本件金利を用いている。しかし、これは、平成元年3月末日における利率別貸出残高の加重算術平均値であり、同日現在において既に貸し出されて残高として残っているものを利率別残高ごとに加重平均した値であるから、全国銀行における貸出平均金利として用いるのは適切でない。本件消費貸借をその標準的な行為又は計算に引き直した場合に適用すべき利率としての全国銀行における貸出平均金利は、平成元年の全国銀行の総合新規貸出約定平均金利である4.87%を用いるのが相当である(取消税額9億1,200万円)。
④ 本件各更正は、信義則に照らし違法とはいえない。その理由は、原判決の理由を引用する。
⑤ 個人から法人に対する無利息貸付については課税されないとの見解が記載されている解説書であるが、いずれも編者及び推薦者又は監修者として東京国税局勤務者が官職名を付して表示されており、財団法人大蔵財務協会(大蔵省唯一の総合外郭団体)が発行したものである。本件解説書は、正確にいえば私的な著作物であり、個人から法人に対する無利息貸付について本件規定の適用が一切ないことを保証する趣旨までは記載されていないが、各巻頭の「推薦のことば」、「監修のことば」等において、東京国税局税務相談室その他の税務当局に寄せられた相談事例及び職務の執行の際に生じた疑義について回答と解説を示す形式がとられていることが記載されており、税務当局の業務ないし編者等の税務当局勤務者の職務との密接な関連性を窺わせるものである。したがって、税務関係者がその編者等や発行者から判断して、その記載内容が税務当局の見解を反映したものと認識し、すなわち、税務当局が個人から法人に対する無利息貸付については課税しないとの見解であると解することは無理からぬところである。そして、Xの税務関係のスタッフも本件消費貸借をするに際し税務当局が個人から法人に対する無利息貸付については課税しないとの見解であると解していたことが認められ、これを単なる法解釈についての不知、誤解ということはできない。以上を総合すると、控訴人には本件各更正(ただし、前記違法と判断した部分を除く。)によって新たに納付すべき所得税があるが、過少申告加算税を課することが酷と思料される事情があり、国税通則法65条4項の正当の理由があるというべきである(取消税額34億円)。

(5)上告審判決要旨(破棄自判、Xの控訴棄却)(確定)

 本件更正については、原判決維持。
 本件賦課決定については以下のように判示し、原判決取消し。
① 株主又は社員から同族会社に対する金銭の無利息貸付けに本件規定の適用があるかどうかについては、当該貸付けの目的、金額、期間等の融資条件、無利息としたことの理由等を踏まえた個別、具体的な事案に即した検討を要するものというべきである。
② 本件貸付けは、3,455億円を超える多額の金員を無利息、無期限、無担保で貸し付けるものであり、納税者がその経営責任を果たすためにこれを実行したなどの事情も認め難いのであるから、不合理、不自然な経済的活動であるというほかはないのであって、税務に携わる者としては、本件規定の適用の有無については、上記の見地を踏まえた十分な検討をすべきであったといわなければならない。
③ 他方、本件解説書は、その体裁等からすれば、税務に携わる者においてその記述に税務当局の見解が反映されていると受け取られても仕方がない面があるが、その内容は、代表者個人から会社に対する運転資金の無利息貸付け一般について別段の定めのあるものを除きという留保を付した上で、又は業績悪化のため資金繰りに窮した会社のために代表者個人が運転資金500万円を無利息で貸し付けたという設例について、いずれも、代表者個人に所得税法36条1項にいう収入すべき金額がない旨を解説するものであって、代表者の経営責任の観点から当該無利息貸付けに社会的、経済的に相当な理由があることを前提とする記述であるということができるから、不合理、不自然な経済的活動として本件規定の適用が肯定される本件貸付けとは事案を異にするというべきである。そして、当時の裁判例(東京地裁昭和55年10月22日判決・月報27巻3号568頁は、「同族会社の主たる株主で代表取締役の地位にある者が、会社に無利息融資をした場合について、この規定を適用し、利息相当額を当該株主の所得に加算した。」との記載がある)等に照らせば、納税者の顧問税理士等の税務担当者においても、本件貸付けに本件規定が適用される可能性があることを疑ってしかるべきであったということができる。
 そうすると、前記利息相当分が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて国税通則法65条4項にいう正当な理由があったとは認めることができない。

同族会社に対する貸付金の利率が著しく低いとして、同族会社等の行為又は計算の否認等の規定が適用された事例-令和6年5月15日裁決(大裁(所)令5第47号)

同族会社への無利息貸付けは、経済的合理性を欠くものと認められ、受取利息相当額を雑所得の総収入金額に算入すべきであるとされた事例-令和6年6月10日裁決(東裁(所)令5第120号)(棄却)

(1)事案の概要

 本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 審査請求人Xは、有価証券の保有等を目的とする会社、生命保険募集を行う会社など、同族会社3社(以下「本件各社」という。)の発行済株式の50%超を自らまたは長男と保有していた。Xは2社の代表取締役であり、残り1社については役員ではないものの、単独で50%超を保有する筆頭株主であった。
② Xは、本件各社に対し、社債の買入・消却資金、他社株式の取得資金、あるいは運転資金を融通する目的で金銭を貸し付けた。
 貸付金額は黒塗り(非公開マスキング)となっており、正確な金額は不明である(ただし、20億円台と噂されている)。
 すべての貸付けにおいて、条件は「無利息、無期限(返済期限の定めなし)、無担保」とされていた。
③ Xは、平成29年分、平成30年分及び令和元年分(以下、これらを併せて「本件各年分」という。)の所得税等について、法定申告期限までに申告した(以下、当該各確定申告を「本件各確定申告」という。)。
④ 原処分庁は、本件各年分について、この無利息貸付けは所得税の負担を不当に減少させるものであるとして行為計算否認規定(所得税法157条1項)を適用し、日本銀行が公表する月次の貸出約定平均金利により算定した受取利息相当額を計算して雑所得に算入し、更正処分等(以下「本件各処分」という。)を行った。
⑤ Xは、当該貸付けはXの所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものではないなどとして、その全部の取消しを求めた。

(2)本件の主な争点

 本件各無利息貸付けは、所得税法157条1項に規定する「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に該当するか否かである。

(3)裁決要旨(棄却)

① 所得税法157条1項の趣旨、内容からすれば、同項にいう「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは、同族会社等の行為又は計算のうち、経済的かつ実質的な見地において不自然、不合理なもの、すなわち経済的合理性を欠くものであって、所得税の負担を減少させる結果となるものをいうと解するのが相当である。そして、株主等からの同族会社等に対する金銭の無利息貸付けが経済的合理性を欠くものであるかどうかについては、当該貸付けの目的、金額、期間等の融資条件、無利息としたことの理由等の諸事情を総合的に考慮して判断すべきである。
② 本件各無利息貸付けは、本件各社に需要が生じた資金を融通するなどの目的で行われたものであるところ、いずれも総額で多額に及ぶ金銭を無利息、無期限、無担保で貸し付けるものであって、その金額、期間等の融資条件は、独立かつ対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる取引とは大いに異なる点があるというべきである。また、本件各無利息貸付けについては、Xが自らの経営責任を果たすためにこれを実行したなどの事情をうかがうこともできない。
③ 以上の諸事情を総合すると、本件各無利息貸付けは、経済的かつ実質的な見地において不自然、不合理なもの、すなわち経済的合理性を欠くものであって、所得税の負担を減少させる結果となるものとして、所得税法157条1項に規定する「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に該当するというべきである。
④ Xは、一般に、個々の貸付けにおける金利は、無リスク金利に当該貸付けにおける貸倒れリスクを加味して決定されるものであるところ、Xファミリーの間で行われる貸付けにおいては、その構成員間の信用の相互補完によって実質的に貸倒れリスクがないといえることから、本件各無利息貸付けは、Xの所得税の負担の軽減を図るものではなく、本件各社に経済的利益が生じるものでもない旨主張するとともに、実質的に貸倒れリスクがないといえる理由として、現にXファミリーの構成員が外部の金融機関からの借入れとスワップ取引を組み合わせた一体の取引によって実質的にマイナス金利での資金調達を行った実績もある旨主張する。
⑤ しかしながら、個々の貸付けにおける貸倒れリスクの有無は飽くまで当該貸付けにおける貸付金額等に左右されるというべきものであるところ、本件各無利息貸付けがいずれも総額で多額に及んでいることからすれば、本件各社に本件各無利息貸付けに係る貸倒れリスクがないとはいえず、このことは、金融機関からの借入れとスワップ取引を組み合わせた一体の取引によって実質的にマイナス金利での資金調達を行った実績があるからといって左右されるものでもない。したがって、Xの主張は前提において理由がなく、採用できない。
⑥ 本件各無利息貸付けは、所得税法157条1項に規定する「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に該当するというべきである。
 したがって、本件各更正処分はいずれも適法である。

令和7年3月7日裁決(裁事138集)(棄却)

(1)事案の概要

 本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 平成29年6月7日、審査請求人Xは、自身が保有する優良なファミリー企業である「P社(不動産業等)」の株式を、長男Nが100%出資する同族会社L社に約29.4億円で譲渡する旨の契約を締結した。
② 平成29年6月29日に、L社は、株式取得資金としてR銀行から約29.4億円(融資契約1)を一時的に借り入れ、これをXに支払った。
 Xは受け取った株式代金のうち、約23.4億円をR銀行に定期預金として預け入れた。
③ 平成29年7月28日に、L社は一時的な借入金を返済するため、銀行団(R銀行及びS銀行)から約29.4億円のシンジケートローン(融資契約2、そのうち個別貸付Bが23億4,459万円)を借りた。この融資の担保として、Xの上記②の定期預金に「質権」が設定された。
④ 個別貸付Bの満期日(平成30年6月29日)に、Xは定期預金を解約して約23.4億円を払い戻し、同日に同額をL社に「無利息・無期限(返済は随時)・無担保」で貸し付けた(以下「本件貸付け」という。)。L社はこの資金で銀行への債務を完済した。
⑤ 令和5年3月13日に、L社はR銀行から新たに20億円を借り入れ(融資契約3、Xらの連帯保証あり)、その資金でXへの借入金(残高20億円)を全額弁済した。
⑥ Xは、平成30年分ないし令和4年分(以下、これらを併せて「本件各年分」という。)の所得税等について、各確定申告書を法定申告期限までに提出した。
⑦ 原処分庁は、令和6年2月27日付で、所得税法157条1項の規定を適用し、本件貸付けによりXが収受すべき利息相当額(以下「本件貸付けの利息相当額」という。)が雑所得の総収入金額に算入されるとして、本件融資契約3の利率に準じ、日本円TIBORのうち3か月に対応した利率に○%を加算した利率を基礎として本件貸付けの利息相当額を計算し、本件各年分の所得税等の各更正処分等(以下「本件各更正処分等」という。)をした。
⑧ Xは、令和6年5月24日に、原処分に不服があるとして、その全部の取消しを求めて審査請求をした。

(2)本件の主な争点

(争点1) 本件貸付けを無利息としたことは、所得税法157条1項に規定する「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に該当するか否かである。
(争点2) 原処分庁が本件貸付けの利息相当額の計算の基礎とした利率は適正か否かである。

(3)裁決要旨(棄却)

(争点1)
① 本件貸付けは、本件融資契約2の個別貸付Bに係る債務の弁済を目的に行われたものと認められるところ、本件貸付けは、約23.4億円という多額に及ぶ金銭を、無利息、無期限、無担保で貸し付けるものであって、その融資条件は、独立かつ対等で相互に特殊の関係のない当事者間で通常行われる取引とは大いに異なるというべきである。
② L社の財務状況を踏まえると、本件貸付けの当時、本件貸付けを無利息としなければ本件同族会社に倒産の危険があったとはいえず、Xが本件同族会社に対して無利息で本件貸付けをすることに合理的な理由を見出すことはできない。
 以上の諸事情を総合すると、本件貸付けを無利息にしたことは、経済的かつ実質的な見地において不自然、不合理なもの、すなわち経済的合理性を欠くものであって、Xの所得税の負担を減少させる結果となるものであると認められるから、所得税法157条1項に規定する「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に該当するというべきである。
(争点2) 
③ 本件貸付けの融資条件は、貸付額及び貸付期間の点で、本件各融資契約のうち本件融資契約3の融資条件との類似性が高く、本件貸付けの担保の状況及び本件同族会社の信用力を考慮すると、本件貸付けの標準的な利率は、本件融資契約3の利率を下回ることはないものといえるから、本件貸付けの利息相当額の計算に当たり、本件融資契約3の利率を参照することには合理性があるものと認められる。
④ 本件融資契約3の利率は、各利率適用期間開始日の2営業日前に、R銀行が短期金融市場等において利率適用期間につき調達可能な金利に、○%を加算した利率であるところ、原処分庁は、日本円TIBORのうち3か月に対応した利率に○%を加算した利率を本件貸付けの利息相当額の計算の基礎としているから、この合理性について以下検討する。日本円TIBORは、日本において、民間金融機関が短期的な資金の過不足を調整する無担保での貸し借りの場である本邦無担保コール市場の実勢を反映した利率であるから、「各利率適用期間開始日の2営業日前に、R銀行が短期金融市場等において利率適用期間につき調達可能な金利」は、日本円TIBORの利率と近似したものになると考えられる。
 そして、本件融資契約3の利率適用期間は、利率適用期間開始日から、そのおおむね3か月後である次回の利率適用期間開始日までであることからすれば、日本円TIBORのうち、3か月に対応した利率を用いるのが相当である。
 以上によれば、原処分庁が、本件貸付けの利息相当額の計算の基礎として、日本円TIBORのうち3か月に対応した利率に○%を加算した利率を用いたことは、本件融資契約3の利率に準じる利率を用いたものとして、合理性があるものと認められる。
⑤ 以上のことから、原処分庁が本件貸付けの利息相当額の計算の基礎とした利率は適正である。