概要

 事前確定届出給与に関する定めをした場合は、原則として、次のイまたはロのうちいずれか早い日(新設法人がその役員のその設立の時に開始する職務についてその定めをした場合にはその設立の日以後2か月を経過する日)までに所定の届出書を、納税地の所轄税務署長に提出する必要があります(法令69④)。

イ 定時株主総会等により事前確定届出給与の決議をした日(その決議をした日が職務の執行を開始する日後である場合にはその開始日)から1か月を経過する日

ロ 会計期間開始の日から4か月(確定申告書の提出期限の延長の特例に係る税務署長の指定を受けている法人はその指定に係る月数に3を加えた月数)を経過する日

 定時株主総会等とは、正しくは「株主総会、社員総会その他これらに準ずるもの」(法令69③一)ですが、この中に、一定の要件を満たす場合は、合同会社の定時社員総会も含まれることが国税庁HPで明らかになりました。

〇東京国税局文書回答事例「合同会社の社員に対して事前確定届出給与を支給する場合の税務上の取扱いについて」
https://www.nta.go.jp/about/organization/tokyo/bunshokaito/hojin/250207/index.htm

 つまり、株式会社での定時株主総会同様に、合同会社における定時社員総会において、業務執行社員に支給する賞与(事前確定届出給与)の支給日及び支給金額を決定すれば、法人税法上、業務執行社員に支給する役員賞与が損金とすることができるということです。

 ただし、問題は、会社法では、合同会社等の持分会社において、社員総会の設置をすることは求められていません。そのため、ほとんどの合同会社において、社員総会が設置されていません。

 つまり、多くの合同会社にとって、上記の東京国税局文書回答事例をそのまま鵜吞みにすることはできないということになります。

 個人的には、社員総会の設置がない合同会社の場合でも、総社員の同意をもって決定すれば可能だと思います。しかしながら、課税庁が公表してないのでリスクがあります。

 ですから、合同会社で業務執行社員に賞与(事前確定届出給与)を支払う場合は、社員総会を設置した方が安全でしょう。

定款のポイント

 合同会社で社員総会を設置する場合は、定款に社員総会に関することを記載することになります。ポイントは以下です。

(1)定款変更

 まず、今の定款から社員総会を設置している定款に変更をする必要があります。

 合同会社は、定款に別段の定めがある場合を除き、総社員の同意によって、定款の変更をすることができることになっています(会社法637)。

 そのため、今の定款に「定款の変更」に関する事項が記載されているか確認してください。記載されていれば、記載されていることに従い、定款を変更をしてください。

 今の定款に「定款の変更」に関する事項が記載されていない場合は、総社員の同意によって定款の変更をしてください。同意書は作成し保存をしておいてください。

(2)社員総会の設置

 当たり前のことですが、社員総会を設置する以上、社員総会に関する事項を記載する必要があります。

(3)社員総会の決議

 社員総会を設置する以上、重要なことは、社員総会の決議によって定めるべきです。よって、今の定款に「社員の同意、承諾、承認」等と記載されているものは、なるべく「社員総会の決議」に変更したほうが良いでしょう。

定款の記載例

 合同会社池袋商店定款

第1章  総 則

(商号)
第1条 当会社は、合同会社池袋商店と称する。

(目的)
第2条  当会社は、次の事業を行うことを目的とする。
(1) ホームページ、ウェブサイトの企画、制作、運営、保守
(2) 各種イベントの企画、運営
(3) 前各号に附帯関連する一切の事業

(本店所在地)
第3条  当会社は、本店を東京都豊島区に置く。

(公告方法)
第4条  当会社の公告は官報に掲載して行う。

(定款の変更)
第5条  本定款は社員総会の決議によって変更することができる。

第2章 社員及び出資

(社員の氏名、住所、出資及び責任)
第6条  社員の氏名、住所及び出資の価額並びに責任は次のとおりである。

 金100万円 東京都豊島区池袋〇丁目〇番〇号
 有限責任社員 山田 太郎

(持分の譲渡制限)
第7条  社員は、社員総会の決議がなければ、その持分の全部又は一部を他人に譲渡することができない。

第3章 社員総会

(社員総会の設置)
第8条 当会社に社員全員で組織する社員総会を置く。

(議決権)
第9条 社員は、社員総会において各1個の議決権を有する。

(招集)
第10条 定時社員総会は、毎事業年度の終了後2か月以内に招集し、臨時社員総会は、必要がある場合にはいつでも招集することができる。

(招集手続)
第11条 社員総会を招集するには、社員総会の日の1週間前までに、書面投票又は電子投票を認める場合は2週間前までに、議決権を行使することができる社員に対して招集通知を発するものとする。ただし、社員総会は、その総会において議決権を行使することができる社員全員の同意があるときは、書面投票又は電子投票を認める場合を除き、招集の手続を経ることなく開催することができる。

(招集権者)
第12条 社員総会は、法令に別段の定めがある場合を除き、社長が招集する。

(議長)
第13条 社員総会の議長は、社長がこれに当たる。
2 社長に事故があるときは、当該社員総会で議長を選出する。

(決議の方法)
第14条 社員総会の決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、出席した議決権を行使することができる社員の議決権の過半数をもって行う。

(社員総会議事録)
第15条 社員総会の議事については、開催の日時、場所、出席した業務執行社員及び代表社員並びに議事の経過の要領及びその結果を記載又は記録した議事録を作成し、出席した業務執行社員及び代表社員がこれに署名若しくは記名押印又は電子署名をし、社員総会の日から10年間本店に備え置く。

第4章 業務執行権及び代表権

(業務執行の権利義務)
第16条  当会社の業務執行社員は、次のとおりとする。

 業務執行社員  山田 太郎

(代表社員)
第17条  業務執行社員を2名以上置く場合には、業務執行社員の互選により代表社員1名以上を定め、そのうち1名を社長と定める。
2 業務執行社員が1名の場合は、当該業務執行社員を代表社員とし、社長とする。

(利益相反取引の特則)
第18条  業務執行社員及び代表社員が会社法第595条第1項の取引をする場合は、社員総会において決議されなければならない。

(報酬等)
第19条  業務執行社員及び代表社員の報酬、賞与その他の職務執行の対価として当会社から受ける財産上の利益は、社員総会の決議によって定める。

第5章 社員の加入及び退社

(社員の加入)
第20条  新たに社員を加入させる場合は、社員総会の決議によって定款を変更しなければならない。

(任意退社)
第21条  各社員は、事業年度の終了の時において退社をすることができる。この場合においては、各社員は、3ヶ月前までに会社に退社の予告をしなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、各社員は、やむを得ない事由があるときは、いつでも退社することができる。

(法定退社及びその特例)
第22条  各社員は会社法第607条の規定により退社する。
2 前項の規定にかかわらず、社員が死亡した場合又は合併により消滅した場合においては当該社員の相続人その他の一般承継人が当該社員の持分を承継することとする。

第6章  計 算

(事業年度)
第23条  当会社の事業年度は、毎年4月1日から翌年3月31日までの年1期とする。

(計算書類の作成と承認)
第24条 業務執行社員Aは、各事業年度終了の日の翌日から2月以内に、各事業年度に係る計算書類(貸借対照表、損益計算書、社員資本等変動計算書及び個別注記表)を作成しなければならない。
2 前項の作成された計算書類は、社員総会において決議されなければならない。

(損益分配)
第25条  社員の利益分配の割合は、各社員の出資の価額に応じて定める。
2 社員の損失分配の割合は、各社員の出資の価額に応じて定める。

第7章  そ の 他 附 則

(解散の事由)
第26条  当会社は、次の事由によって解散する。
(1)総社員の同意
(2)会社の合併
(3)社員全員の退社
(4)会社の破産
(5)解散を命ずる裁判

(定款に定めのない事項)
第27条  この定款に規定のない事項は、全て会社法その他の法令に従う。

 以上、合同会社池袋商店設立のため、有限責任社員山田 太郎は、電磁的記録である本定款を作成し、これに電子署名をする。

令和〇年〇月〇日

有限責任社員 山田 太郎

会社法

585条(持分の譲渡)

 社員は、他の社員の全員の承諾がなければ、その持分の全部又は一部を他人に譲渡することができない。
2 前項の規定にかかわらず、業務を執行しない有限責任社員は、業務を執行する社員の全員の承諾があるときは、その持分の全部又は一部を他人に譲渡することができる。
3 第637条の規定にかかわらず、業務を執行しない有限責任社員の持分の譲渡に伴い定款の変更を生ずるときは、その持分の譲渡による定款の変更は、業務を執行する社員の全員の同意によってすることができる。
4 前3項の規定は、定款で別段の定めをすることを妨げない。

595条(利益相反取引の制限)

 業務を執行する社員は、次に掲げる場合には、当該取引について当該社員以外の社員の過半数の承認を受けなければならない。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。
一 業務を執行する社員が自己又は第三者のために持分会社と取引をしようとするとき。
二 持分会社が業務を執行する社員の債務を保証することその他社員でない者との間において持分会社と当該社員との利益が相反する取引をしようとするとき。
2 民法第108条の規定は、前項の承認を受けた同項各号の取引については、適用しない。

604条(社員の加入)

 持分会社は、新たに社員を加入させることができる。
2 持分会社の社員の加入は、当該社員に係る定款の変更をした時に、その効力を生ずる。
3 前項の規定にかかわらず、合同会社が新たに社員を加入させる場合において、新たに社員となろうとする者が同項の定款の変更をした時にその出資に係る払込み又は給付の全部又は一部を履行していないときは、その者は、当該払込み又は給付を完了した時に、合同会社の社員となる。

637条(定款の変更)

 持分会社は、定款に別段の定めがある場合を除き、総社員の同意によって、定款の変更をすることができる。

641条(解散の事由)

 持分会社は、次に掲げる事由によって解散する。
一 定款で定めた存続期間の満了
二 定款で定めた解散の事由の発生
三 総社員の同意
四 社員が欠けたこと。
五 合併(合併により当該持分会社が消滅する場合に限る。)
六 破産手続開始の決定
七 第824条第1項又は第833条第2項の規定による解散を命ずる裁判