概要
法人が保有する株式や債券などの有価証券について、価額が大幅に下落した場合には、会計上の減損処理や法人税法上の評価損を検討する必要があります。
ただし、会計上の減損損失を計上しても、その金額がそのまま法人税の損金になるとは限りません。有価証券の区分、価額の低下の程度、回復可能性、発行法人の資産状態などを確認することが必要です。
本記事では、日本の内国普通法人が直接保有する有価証券について、主に売買目的外有価証券の評価損を説明します。会計については、企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」、「中小企業の会計に関する指針」及び「中小企業の会計に関する基本要領」による取扱いを区別して説明します。IFRSなどを適用する場合は、適用する会計基準を別途確認してください。
以下は、2026年10月14日時点の法令・通達等による説明です。過去の事業年度については、その当時の法令・通達及び経過措置による確認が必要です。
会計上の減損処理と法人税法上の評価損は分けて判断する
金融商品会計基準では、満期保有目的の債券、子会社株式・関連会社株式、その他有価証券のうち、市場価格のない株式等以外のものについて、時価が著しく下落したときは、回復する見込みがあると認められる場合を除き、時価まで減額し、評価差額を当期の損失として処理します(企業会計基準第10号第20項)。
市場価格のない株式等については、発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したときに、相当の減額を行い、評価差額を当期の損失として処理します(同第21項)。
時価のある有価証券については、取得原価から50%程度以上下落した場合には、合理的な反証がない限り減損処理を行います。また、下落率が30%以上50%未満の範囲でも、企業が設けた合理的な基準等により減損の判断が必要となる場合があります。会計上のこの取扱いを、そのまま税務上の損金算入要件として用いることはできません(移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」第91項)。
なお、会計上、減損処理後の時価・実質価額は翌期首の取得原価となります。通常のその他有価証券の時価評価による評価差額と、減損損失とは区別してください(企業会計基準第10号第18項・第22項)。
中小会計指針・中小会計要領にも減損・評価損の定めがある
中小会計指針と中小会計要領にも、有価証券の減損・評価損に関する定めがあります。以下は、中小会計指針の2025年9月19日修正版及び中小会計要領の2012年2月1日公表版による説明です。実際の処理では、自社が採用する会計ルールを確認してください。
中小会計指針による減損処理
市場価格のある満期保有目的の債券、子会社株式・関連会社株式及びその他有価証券は、時価が著しく下落し、回復の見込みが認められない場合に減損処理を行います。取得原価から50%程度以上下落した場合は、合理的な反証がなければ減損が必要です(中小会計指針第22項(1))。
市場価格のない株式も、発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下した場合は減額します。取得原価から50%程度以上の低下はこれに該当しますが、回復可能性を十分な証拠で裏付けられる場合は、減額しない取扱いが認められます(同第22項(2))。
実質価額は通常、1株当たりの純資産額に保有株式数を乗じて求め、超過収益力等も考慮できます。財政状態の悪化は、原則として資産等の時価評価差額を加味した1株当たり純資産額を取得時と比較して判断します。減損後の時価又は実質価額は翌期首の取得原価となります(同第22項・脚注10・11)。
また、減損処理について法人税法の取扱いに従うことが認められるのは、会計上の処理と重要な差異がないと見込まれる場合です。この条件を確認したうえで適用を判断します(同第22項)。
中小会計要領による評価損
中小会計要領も、時価が取得原価から著しく下落した場合は、回復の見込みがあると判断した場合を除き、評価損の計上を求めています。解説では、銘柄ごとに50%程度以上下落した場合は、著しい下落に該当するとしています(中小会計要領「Ⅱ.各論」5「有価証券」(4)及び解説)。
非上場株式については、時価の把握が難しい場合でも、大幅な債務超過等によりほとんど価値がないと判断できるものを、評価損の計上が必要な例として挙げています(同解説)。
取得原価による期末評価と減損・評価損を区別する
通常の期末評価では、中小会計指針は、市場価格のあるその他有価証券の保有が多額でなければ取得原価での計上を認めています。中小会計要領は、売買目的有価証券を除き、取得原価による計上を原則とします。いずれも、取得原価で計上する場合に減損・評価損の検討が必要となります(中小会計指針第19項(4)・第22項、中小会計要領「Ⅱ.各論」5(1)(2)(4)及び解説)。
これらは会計上のルールです。法人税の損金算入には、以下で説明する税法上の要件を別途満たす必要があります。
法人税法上、評価損の損金算入が認められる場合
法人税法では、資産の評価損は原則として損金に算入されません。ただし、政令で定める事実が生じ、法人が評価換えをして損金経理により帳簿価額を減額した場合には、一定の範囲で損金算入が認められます(法法33①②)。
有価証券について、主な事実は次のとおりです。
| 区分 | 評価損の計上が認められる主な事実 | 根拠 |
|---|---|---|
| 法令119の13①一~四の有価証券のうち、企業支配株式等を除くもの | その有価証券の価額が著しく低下したこと | 法令68①二イ |
| 上記以外の有価証券(非上場株式や企業支配株式等) | 発行法人の資産状態が著しく悪化したため、その有価証券の価額が著しく低下したこと | 法令68①二ロ |
| 上記の発行法人の資産状態の著しい悪化等に準ずる場合 | これに準ずる特別の事実が生じたこと | 法令68①二ハ |
最初の区分には、取引所売買有価証券、店頭売買有価証券・取扱有価証券、その他価格公表有価証券に加え、公表価格のない債券等で合理的な方法により価額を計算するものも含まれます(法令119の13①一~四)。
企業支配株式等は、特殊関係株主等が発行済株式等の20%以上を保有する場合に、その特殊関係株主等が有する株式又は出資をいいます。会計上の子会社株式・関連会社株式の区分とは別に確認が必要です。企業支配株式等に該当する場合は、上場株式であっても株価の下落だけを理由に上記の「法令68①二イ」を適用することはできません(法令119の2②二、法基通9-1-8注)。
なお、税務上の売買目的有価証券については、法法61の3による通常の期末時価評価損益の計算があります。法法33による評価損とは制度が異なり、法令68①二イの価額下落の事実は売買目的有価証券の評価損事由から除外されています(法法61の3①②、法令68①二、法基通9-1-8注)。
このほか、保有法人自身の更生計画認可や再生計画認可等に伴う評価換え・資産評定については、法法33③④による別の規定があります。対象資産、明細の記載・書類の添付など、適用する規定ごとの要件を確認してください(法法33③④⑦)。
市場有価証券等の価額が著しく低下したかどうか
おおむね50%相当額を下回り、回復が見込まれないことが必要
法令68①二イの「価額が著しく低下したこと」は、次の両方を満たすことをいいます(法基通9-1-7)。
- 事業年度末の価額が、その時の税務上の帳簿価額のおおむね50%相当額を下回ること。
- 近い将来、その価額の回復が見込まれないこと。
この判断は銘柄ごとに行います。保有する有価証券全体の含み損益を合計して判定するものではありません(法基通9-1-1⑸)。
価額の算定は、原則として法令119の13①一~四及び関係通達によります。取引所売買有価証券では期末の最終売買価格等を用いますが、銘柄や価格の公表状況によって算定方法が異なるため、すべての有価証券を一律に「期末の終値」で評価するものではありません(法基通9-1-8)。
期末前1か月の平均価格を使えるのは、50%基準の判定
50%相当額を下回るかどうかの判定では、税務上の「その他有価証券」に限り、事業年度終了の日以前1月間の市場価格の平均額を用いることも認められています(法基通9-1-7注1)。
ここでいう「その他有価証券」は、法令119の2②に規定する区分です。売買目的有価証券及び満期保有目的等有価証券以外のものであり、会計上の勘定科目や区分の名称だけで判断してはいけません。
期末前1か月の平均価格を使えるのは、著しい価額の低下の判定です。損金算入額の計算に用いる期末価額まで、この平均価格に置き換えられるわけではありません(法法33②、法基通9-1-7注1・9-1-8)。
回復可能性は事業年度末の状況に基づいて判断する
回復可能性は、過去の市場価格の推移、発行法人の業況などを踏まえて、事業年度末に判断します(法基通9-1-7注2)。
国税庁の「上場有価証券の評価損に関するQ&A」では、過去の市場価格、市場環境、発行法人の業況などを総合的に検討した合理的な判断基準が示される限り、その基準は尊重されると説明されています。株価が過去2年間にわたり50%程度以上下落していることが、必須条件とされているわけではありません(同Q1)。
証券アナリストなど専門性を有する第三者の分析や見通しも、合理的な判断を支える資料になり得ます。ただし、単に評価額を計算した資料だけではなく、近い将来に価額が回復しないと判断した理由を説明できることが必要です。
翌期以降に生じた事情で株価が上昇しても、事業年度末の合理的な判断が直ちに否定されるわけではありません。一方、後日の結果だけを使って、過去の事業年度末の判断を置き換えることも適切ではありません(同Q3)。
ただし、期末までに具体的な実行が決定されていた翌期以降の事業計画等は、期末時点の回復可能性を判断する材料となります。期末後に初めて生じた事情とは区別してください(平成21年4月2日裁決・裁事77集281頁)。
非上場株式・企業支配株式等は、資産状態と株式価額をそれぞれ確認する
法令68①二ロによる評価損では、「発行法人の資産状態の著しい悪化」と「保有する有価証券の価額の著しい低下」は別の要件です。両者を同じ計算だと考えないようにしてください。
発行法人の資産状態の著しい悪化
通達では、次の事実が該当するとされています(法基通9-1-9)。
- 有価証券の取得から相当の期間が経過した後に、発行法人について特別清算開始の命令、破産手続開始の決定、再生手続開始の決定又は更生手続開始の決定があったこと。
- 期末の発行法人の1株又は1口当たりの純資産価額が、取得時の1株又は1口当たりの純資産価額に比べて、おおむね50%以上下回ったこと。
後者の比較対象は「株式の購入代金」ではなく、取得時と期末の発行法人の1株又は1口当たりの純資産価額です。
複数回の取得、募集株式の発行、株式の併合等がある場合には、取得時の比較純資産価額を通達に従って修正します。また、純資産価額がマイナスの場合も、その負の金額を基礎に比較します。マイナスを一律にゼロとして計算することはできません(法基通9-1-9注)。
保有する有価証券の価額の著しい低下
発行法人の資産状態が著しく悪化した場合でも、さらに保有する有価証券の期末価額が税務上の帳簿価額のおおむね50%相当額を下回り、近い将来の回復が見込まれないことを確認します(法基通9-1-11・9-1-7)。
特別清算開始や破産手続開始等の事実があったことだけで、保有する株式の帳簿価額全額を自動的に損金算入できるわけではありません。残余財産の見込みなども踏まえ、株式の価額と損金算入できる金額を確認する必要があります。
非上場株式の期末価額の求め方
市場有価証券等以外の株式の価額は、次の区分に従って求めます(法基通9-1-13)。
| 区分 | 用いる価額 |
|---|---|
| 売買実例のある株式 | 期末日前6月間の売買実例のうち、適正と認められる価額 |
| 所定の公開途上にある株式で、公募・売出しが行われるもの | 通達所定の公募等の価格等を参酌して、通常取引されると認められる価額 |
| 売買実例がなく、事業の種類・規模・収益の状況等が類似する法人の株式価額があるもの | その価額に比準して推定した価額 |
| 上記に該当しない株式 | 発行法人の1株当たりの純資産価額等を参酌して、通常取引されると認められる価額 |
表の公開途上の区分は売買実例のある区分を除き、類似法人の区分は公開途上の区分を除きます。原則として表の順序に従い、実際の条件を確認してください。
一定の株式については、課税上弊害がないこと及び所定の修正を条件として、財産評価基本通達の例による算定も認められます。ただし、中心的な同族株主に該当する場合の小会社扱い、土地・上場有価証券の期末時価による評価、評価差額に対する法人税額等を控除しないことなどが必要です。相続税評価額をそのまま用いる取扱いではありません(法基通9-1-14)。
また、企業支配のために取得した企業支配株式等については、通常の価額に企業支配に係る対価を加算する取扱いも確認します(法基通9-1-15)。
増資直後・完全支配関係・外国株式の注意点
債務超過会社への増資直後
保有株式の発行法人の増資に係る新株を引き受けて払い込んだ場合には、増資後も債務超過が解消していないとしても、その増資後の株式について、原則として法令68①二ロの事実はないものとされます。ただし、増資から相当の期間が経過した後に、改めて該当する事実が生じたと認められる場合は別です(法基通9-1-12)。
完全支配関係にある内国法人の株式
完全支配関係にある他の内国法人が、清算中、解散が見込まれる場合(合併による解散を除きます。)、又は完全支配関係にある他の内国法人との適格合併が見込まれる場合には、その株式又は出資に法法33②~④の評価損の規定は適用されません(法法33⑤、法令68の3①)。
100%子会社の株式を保有しているという理由だけで、すべての評価損が一律に損金不算入になるわけではありません。完全支配関係と発行法人の状況を確認する必要があります。グループ通算制度を適用する法人には、通算法人株式等について別の制限もあります(法法33⑤)。
外国法人が発行する株式等
外国法人の資産状態を1株又は1口当たりの純資産価額で判定する場合、原則として、その発行法人が会計帳簿の作成に使用する外国通貨表示の金額で取得時と期末を比較します。日本円換算額の下落率だけで、発行法人の資産状態が著しく悪化したと判断することはできません(法基通9-1-10)。
仕訳例と法人税申告の調整
損金算入額は、損金経理額と税務上の限度額を比較する
法法33②による損金算入額は、要件を満たすことを前提として、損金経理した減額の範囲内で、次の差額までとなります。
損金算入限度額=評価換え直前の税務上の帳簿価額-評価換えをした事業年度末の価額
以下は、金融商品会計基準による株式の減損処理を前提とする例です。減損前の会計・税務上の帳簿価額がともに100万円、期末価額が40万円で、会計上60万円の減損損失を計上したとします。勘定科目は一例であり、税効果会計は省略します。
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 投資有価証券評価損 600,000円 | 投資有価証券 600,000円 |
税務上の評価損の要件も満たす場合には、100万円-40万円=60万円まで損金算入が認められます。この例では、会計上の評価損60万円について損金不算入の加算は生じません。
損金算入できない場合は、別表四・別表五(一)で管理する
同じ仕訳でも、回復可能性などの損金算入要件を満たさない場合は、60万円を別表四で加算・留保し、別表五(一)で評価損否認額を管理します。
会計上の帳簿価額は40万円となりますが、税務上は評価損による減額がなかったものとされるため、税務上の帳簿価額は100万円のままです。後年の譲渡・償還等に備えて、両者の差額を継続して管理する必要があります(法法33⑥)。
なお、評価損否認額のある資産について、後の事業年度に法令68①の事実が生じ、評価損の要件を満たす場合には、否認額の全部又は一部を申告調整で損金算入する取扱いがあります。その損金算入額は、評価損として損金経理したものとして扱われます。過年度に否認した評価損を翌期に自動的に減算することはできません(法基通9-1-2、国税庁「上場有価証券の評価損に関するQ&A」Q4)。
例えば、上の60万円を否認した後の事業年度末に、価額が45万円となり、その年度に税務上の評価損の要件を満たした場合には、100万円-45万円=55万円が損金算入の対象となります。過年度の否認額60万円を全額減算するのではなく、残り5万円は引き続き管理します(同Q4)。
有価証券の評価損に関する裁判例・裁決例
会計上の減損だけでは、税務上の回復可能性の判断をしたことにはならない
東京地裁平成26年4月25日判決では、非上場株式の評価損を会計上計上しながら、税務申告では自己否認した法人が、後に減額更正を求める嘆願等を行い、減額更正が行われなかったことについて国に国家賠償を求めました(平成24年(ワ)第9299号、税資264号-83・順号12464)。
裁判所は、納税者が当時の合理的な判断基準又は根拠に基づいて回復可能性を判断する必要があるとしました。しかし、本件では、その判断を行ったことを裏付ける資料が認められず、会計上の減損処理をしたことから税務上の回復可能性の判断まで行ったとは直ちに認められないとして、原告の請求を棄却しました。
実務上は、減損の仕訳だけでなく、検討に用いた事業計画、財務分析、議事録などと、回復が見込まれないとした具体的な理由を保存することが重要です。なお、本判決は、自己否認した評価損の訂正が常に不可能であるとしたものではありません。
期末までに決定された翌期の事業計画も、回復可能性の判断に含める
平成21年4月2日裁決では、外国子会社株式について、発行法人の純資産価額の下落と株式価額の下落の数値基準を満たすことには争いがありませんでしたが、回復可能性が問題となりました(裁事77集281頁)。
審判所は、期末までに具体的な実行が決定されていた翌期以降の追加出資や設備買取りによる経営改善計画を考慮し、資産状態の改善が見込まれるとして、評価損の損金算入を認めませんでした。
この裁決からは、回復可能性を期末に判断するということは、将来の計画をすべて除外することではないと分かります。期末時点で既に具体的に決定されていた計画と、期末後に初めて生じた事情を区別して検討する必要があります。
また、同じ銘柄の株式を増資前の旧株式と増資で取得した新株式に分け、旧株式だけについて評価損を判定する方法も認められませんでした。取得時期だけで同一銘柄を分けず、税務上の区分・銘柄ごとに確認することが必要です(法令119の2①②)。
純資産価額の比較方法と「準ずる特別の事実」に注意する
平成27年5月20日裁決では、外国子会社への出資持分について、複数回の取得に応じて修正した取得時の比較純資産価額を用いると、発行法人の資産状態が著しく悪化したとは認められず、評価損の損金算入が否定されました。設立時と期末の純資産比率だけで比較し、その後の追加取得時の純資産価額を考慮しない方法は採用されませんでした(裁事99集、法基通9-1-9注1)。
この裁決では、さらに、法令68①二ハの「ロに準ずる特別の事実」への該当性も検討されています。
審判所は、発行法人自身の資産状態以外の、有価証券の価額の変動を生じさせる客観的な要素について、災害に準ずる特別の事実が生じたような場合を対象とするとの考え方を示しました。本件の工場稼働率の低下や業績悪化は発行法人自身の資産状態に反映される事情であり、同号ロの要件によって判断すべきとして、同号ハの適用も認めませんでした。
したがって、発行法人の資産状態の著しい悪化という要件を満たさない場合に、同じ業績悪化の事情を「準ずる特別の事実」と言い換えるだけで、評価損の損金算入が認められるものではありません。
評価損そのものは消費税の課税対象外
有価証券の減損・評価減は、保有資産の帳簿価額を引き下げる処理であり、対価を得て資産を譲渡した取引ではありません。そのため、評価損の計上自体は消費税の課税対象外であり、課税仕入れにも該当しません(消法2①八・十二、4①)。
評価損の金額を課税売上割合の計算に含めることもありません。実際に有価証券を売却する場合の非課税判定や課税売上割合の計算は、評価損とは分けて確認してください。
評価損を計上するときに保存しておきたい資料
評価損の税務判断を説明できるよう、銘柄ごとに、例えば次の資料を整理しておくとよいでしょう。
- 保有目的、税務上の有価証券区分、取得日・取得価額、税務上の帳簿価額の明細
- 期末価格、価格推移、期末前1か月の平均価格を用いた場合の計算資料
- 発行法人の決算書、資産状態の分析、取得時と期末の純資産価額の比較表
- 増資・株式併合等を反映した比較純資産価額や、非上場株式の価額の計算資料
- 業績見通し、事業計画、市場・業界分析、第三者の見解と、それらに基づく回復可能性の判断記録
- 損金経理の仕訳、損金算入限度額の計算、別表四・別表五(一)との対応資料
これらは実務上の整理例です。税務上の売買目的有価証券の時価評価額を合理的な方法で計算する場合には、採用理由や計算の基礎を記載した書類の保存義務もあります(法令119の13②)。
主な根拠資料
- 法人税法:法法33①~⑦、61の3①②
- 法人税法施行令:法令68①二、68の3①、119の2②、119の13①②
- 法人税基本通達・資産の評価損「通則」:法基通9-1-1、9-1-2
- 法人税基本通達「有価証券の評価損」:法基通9-1-7~9-1-15
- 国税庁タックスアンサーNo.5574「有価証券の評価損が認められる場合」
- 国税庁「上場有価証券の評価損に関するQ&A」(平成21年4月):Q1・Q3・Q4。公表当時の法令・通達による資料であり、現行通達と照合して参照。
- 企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」:第18項・第20~22項
- 移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」:第91~92項
- 「中小企業の会計に関する指針」(2025年9月19日修正版):第19項・第22項(印刷頁10~13頁)、脚注10・11
- 「中小企業の会計に関する基本要領」(2012年2月1日公表):「Ⅱ.各論」5「有価証券」(1)(2)(4)及び解説(印刷頁8頁)
- 東京地裁平成26年4月25日判決:平成24年(ワ)第9299号、税務訴訟資料264号-83・順号12464
- 平成21年4月2日裁決:裁事77集281頁
- 平成27年5月20日裁決:裁事99集
- 消費税法:消法2①八・十二、4①
一旦計上した有価証券評価損を自己否認した上で申告したのは誤りであるとしてXが減額更正を求めたが認められなかった事例(東京地裁平成26年4月25日判決・税資264号-83(順号12464))
(1)事件の概要
(1) 本件は、法人税の減額更正処分を求める旨の嘆願書を提出した原告会社Xが、課税庁Yが同嘆願書に基づく減額更正処分を行わないことは、国家賠償法(以下「国賠法」という。)上、違法に損害を加えるものであると主張して、国賠法1条1項に基づき、還付金額に相当する金額及び遅延損害金の賠償を求めた事件である。
(2) Xは、眼鏡の小売業を営む法人グループの持株会社であり、証券取引所に上場している。
(3) Xは、平成17年4月1日から同20年3月31日までの各事業年度(以下「本件各事業年度」という。)において、その保有する非上場株式(子会社株式3社分及び投資有価証券3社分)に係る有価証券評価損(以下「本件評価損」という。)を計上していたが、法人税の確定申告に当たり、本件評価損を所得金額に加算(いわゆる自己否認)した上で、Yに対し、上記各事業年度の法人税の確定申告書をいずれも法定申告期限内に提出した。
(4) Xは、平成22年12月1日、Yに対して、本件評価損は、法人税法33条2項及び同法施行令68条1項2号ロの規定により、いずれも本件各事業年度において損金の額に算入されるものであるから、本件評価損を所得金額に加算したのは誤りであるとして、本件各事業年度の法人税についての減額更正処分を求める旨の嘆願書(以下「本件嘆願書」といい、本件嘆願書による嘆願を、以下「本件嘆願」という。)を提出した。
なお、Xは、平成22年12月1日に本件嘆願書を提出した後、平成23年1月28日、同年4月20日、同月26日、同年5月10日及び同月20日に、減額更正処分を求める金額の変更をしている。
(5) Yは、本件評価損に係る各株式については、Xが本件各事業年度の各期末において「価額の回復が見込まれない」(法人税基本通達9-1-11により準用される同通達9-1-7)とも「見込まれる」とも判断せずに、保守的な考え(税務調査において指摘されるおそれ)の下で所得金額に加算したにすぎず、本件評価損を所得金額に加算したことに法令適用誤りはないとして、Xが本件嘆願により求めた減額更正処分を行わなかった。
(6) 上記を受けて、Xは平成24年3月30日、本訴を提起した。
(2)主な争点
有価証券評価損が損金算入要件を充足しているか否か
(3)判決要旨
(1) 法人税法は、資産の評価損の損金算入を原則として認めず、災害による著しい損傷により資産の価額がその帳簿価額を下回ることとなる等の例外的な場合のみ、損金算入を認めている(法人税法33条1項、2項)。そうすると、同法が認める例外的な場合は、限定的に解すべきであって、資産価値の減少が災害による著しい損傷と同程度の事態でその減少状態は一時的又は回復の見込みがないとはいえない状態をいうものではなく、固定的で回復の見込みのない状態ないしはそれに準ずるような状態であることを要すると解するべきである。有価証券の「価額が著しく低下した」(法人税法施行令68条1項2号ロ)とは、有価証券の資産価値がその帳簿価額に比べ異常に減少しただけでは足りず、その減少が固定的であって近い将来回復の見込みのない状態にあることを要する。
法人税基本通達9-1-7は、「有価証券の価額が著しく低下したこと」とは、当該有価証券の当該事業年度終了の時における価額がその時の帳簿価額のおおむね50%相当額を下回ることとなり、かつ、近い将来その価額の回復が見込まれないことをいう旨規定しているが、上記の解釈に照らし、具体的判断基準として合理性を有するものと解される。
(2) 近い将来有価証券の価額の回復が見込まれないという要件は、客観的な状況をいうものとは解されず、納税者による将来の予測であるから、納税者が恣意的に同要件を充足したと判断することで、容易に利益操作、租税回避を行うことが可能となるため、これを可及的に防止する必要がある。他方、将来の予測に関する要件であるがゆえ、いかなる場合に回復の見込みがないといえるかについての画一的な基準を客観的に設けることは困難である。納税者が合理的な判断基準を自ら定めるか(もちろん、いったん定めた判断基準を恣意的に変更することは許されない。)、合理的な判断の根拠があれば、それに基づいて回復可能性がないと判断した場合には、同要件を充足すると判断するのが合理的であると考えられる。法人税基本通達9-1-7(注2)は、これを前提とした基準であると解することができる。上記損金算入要件4を充足するためには、申告する納税者が第一次的に株価の回復可能性につき判断を行う必要があると解され、その判断は、判断当時に定められていた合理的な判断基準あるいは合理的な根拠に基づいて行うことが必要であると解される。
(3)Xは、損金算入要件4の判定において、①発行会社が債務超過の状態にある場合又は2期連続で損失を計上し、かつ、翌期もそのように予想される場合、その株価には回復可能性がないという判断基準を用いて回復可能性の有無を判断した、②発行会社が子会社の場合には、当該発行会社の将来の中期事業計画も考慮した上で、中期事業計画終了時点の純資産価額(実質価額)の下落が固定的であって、近い将来、帳簿価額の50%程度までの回復の見込みのない状態にあることが、監査法人の判断により客観的に確認できる場合には、その株価には回復可能性がないという判断基準を用いて回復可能性の有無を判断した旨主張する。
しかし、本件各事業年度の確定申告にあたってXが検討した資料を通覧しても、本件各株式の発行会社が債務超過の状態にあるか否か、2期連続で損失を計上しているか否か等につき検討したことはうかがわれない。
以上より、本件各評価損につき、損金算入要件4を充足しているとは認められないから、本件各事業年度の法人税の減額更正処分をすべき理由があるとは認められない。
※ 上記の「損金算入要件4」とは、近い将来その有価証券の価額の回復が見込まれないこと(当時の法人税法33条2項、施行令68条1項2号ロ、通達9-1-7)をいっている。

