概要
会社がYouTube動画の撮影を個人のカメラマンに依頼した場合、源泉徴収が必要かどうかは、「YouTube用」という情報だけでは決まりません。映画・演劇・音楽等に係る撮影や編集の報酬なのか、原稿料やデザイン料を含むのか、完成した映像の製作対価なのかなど、仕事内容と対価の性質を確認する必要があります(所法204①一・五、所令320①④、所基通204-28の3)。
法令で定められた報酬・料金等に該当しなければ、報酬・料金等としての源泉徴収は不要です。ただし、法令に「YouTube」という名称がないことだけを理由に、対象外とすることはできません。
以下では、主に国内の会社が、日本の居住者である個人に、国内で業務委託報酬を支払う場合を説明します。非居住者や外国法人への支払いは、別の規定による検討が必要です。
撮影・編集の報酬は、仕事内容から判断する
映画・演劇・音楽等に係る撮影や編集
所得税法は、映画、演劇その他一定の芸能や、ラジオ放送・テレビジョン放送に係る出演・演出・企画の報酬等を源泉徴収の対象としています。また、所得税法施行令は、ここでいう「演出」に含まれる業務として、照明、撮影、録音、編集などを定めています(所法204①五、所令320④)。
例えば、映画作品の撮影スタッフとして個人に支払う撮影報酬は、原則として源泉徴収の対象です。演劇や音楽等の芸能に係る演出としての撮影・編集の報酬も、公開先がYouTubeであるという理由だけで対象外にはなりません。
一方、個々のYouTube動画が所得税法上の「映画」に当たるか、撮影業務が法定の芸能に係る演出に当たるかは、作品の内容と業務の実態に即して検討します。
YouTube用の撮影というだけでは、必要・不要を一律に決められない
日常の記録動画、商品説明動画などを撮影・編集してもらう場合も、撮影対象、制作内容、契約で引き受けた業務などを確認します。その報酬が法令に列挙された報酬・料金等のいずれにも該当しないのであれば、報酬・料金等としての源泉徴収は不要です(所法204①)。
「動画撮影だから必ず源泉徴収する」「インターネットで公開するから源泉徴収しない」という決め方では、対象報酬への該当性を確認したことになりません。
台本・脚本やデザイン等も依頼している場合
撮影・編集と併せて、台本・脚本の執筆、サムネイル等のデザイン、作曲などを個別に依頼している場合は、それぞれ原稿料、脚本料、デザイン料、作曲料等に該当するかを確認します。著作権の使用料を支払う場合も、別途検討が必要です(所法204①一、所令320①、所基通204-6・204-7)。
撮影報酬自体について源泉徴収が不要でも、別に支払う原稿料等が源泉徴収の対象となることがあります。契約書・見積書・請求書では、実際の業務に対応した内訳を明確にしておくことが大切です。
完成した映像の製作対価と、撮影スタッフの報酬を区別する
映画の製作を依頼し、製作者にその製作の対価を支払う場合については、所基通204-28の3に取扱いが定められています。同通達は、対価の構成部分に芸能人の役務提供に関する報酬等が含まれていても、その製作対価は所法204①五の報酬・料金に該当しないとしています。
この取扱いを検討する際は、製作者から完成物の提供を受ける取引なのか、個人に撮影・編集という役務を直接依頼する取引なのかを確認します。「動画制作一式」という請求書の記載や、一括して支払うという形式だけでは判断できません。
また、製作者が撮影スタッフや出演者等に報酬を支払う場合は、その支払段階で源泉徴収の要否を判定します。発注者から製作者への支払いと、製作者からスタッフ等への支払いを分けて考える必要があります(所基通204-28の3注)。
この通達による取扱いと、別途支払う原稿料・デザイン料・著作権使用料等の判定も区別してください。
ホームページ用の写真と、動画の取扱いは分けて考える
写真については、所得税法施行令に、雑誌・広告その他の印刷物に掲載するための写真の報酬・料金が定められています(所法204①一、所令320①)。
ホームページやSNSへの掲載だけを目的とし、印刷物への掲載を予定していない写真撮影の報酬は、条文の文言上、この写真報酬の規定には通常該当しないと考えられます。ただし、パンフレットやチラシ等にも掲載するために依頼した写真は、Webでも使用するという理由だけで対象外にはなりません。
また、写真撮影とは別にデザイン等を依頼している場合には、その報酬を個別に判定します。静止画の写真に関する取扱いから、YouTube動画の撮影報酬も当然に対象外と結論付けることはできません(所法204①一・五、所令320①④)。
支払う相手と、支払者の立場も確認する
| 支払いの形態 | 源泉徴収の基本的な取扱い |
|---|---|
| 会社から居住者である個人への支払い | 源泉徴収の対象報酬に該当すれば、原則として必要 |
| 会社から内国法人である制作会社への支払い | 通常の撮影・制作報酬については、原則として不要 |
| 給与を支払っていない個人から居住者である個人への支払い | 本稿で扱う報酬については、原則として不要 |
個人の支払者に関する源泉徴収の適用除外は、会社には適用されません。また、個人の支払者に給与の支払いがある場合は、給与について実際の納付税額がゼロであっても、対象報酬の源泉徴収が必要となることがあります(所法204②二、所基通204-5、国税庁「報酬・料金等の源泉徴収義務者」)。
支払先が「○○スタジオ」などの屋号を使用していても、個人事業主であることがあります。請求書の名称だけで法人と判断せず、契約上の相手方を確認してください。
なお、契約の名称が業務委託でも、実態が給与に該当する場合には、給与として源泉徴収します(所法183①、204②一)。
源泉徴収が必要な場合の税額計算
本稿で扱う原稿料等や、映画・芸能等に係る撮影・編集の対象報酬は、同一人に1回に支払う源泉徴収対象額をAとして、次のように計算します。令和8年中は、所得税と復興特別所得税を併せて徴収します(所法205一、復興財確法28)。
| 源泉徴収対象額A | 源泉徴収税額 |
|---|---|
| 100万円以下 | A × 10.21% |
| 100万円超 | 102,100円 +(A − 100万円)× 20.42% |
計算した税額に1円未満の端数がある場合は、切り捨てます。
消費税等を区分して請求している場合
原則として、消費税等を含めた報酬額が源泉徴収の対象となります。ただし、請求書等で報酬額と消費税等の額が明確に区分されている場合には、報酬本体だけを対象として差し支えありません。この取扱いは、インボイス制度開始後も変わりません(国税庁「源泉徴収が必要な報酬・料金等とは」注意事項4)。
例えば、全額が源泉徴収対象となる撮影報酬100,000円と消費税等10,000円が請求書で明確に区分され、報酬本体だけを対象として計算する場合は、次のとおりです。
- 請求総額:100,000円 + 10,000円 = 110,000円
- 源泉徴収税額:100,000円 × 10.21% = 10,210円
- 相手方への振込額:110,000円 − 10,210円 = 99,790円
令和9年からの防衛特別所得税
令和9年1月1日以後に生ずる所得については、防衛特別所得税が創設される一方、復興特別所得税の税率が引き下げられます。源泉徴収する税の内訳は変わりますが、両税の合計が所得税額に対して2.1%となるため、上記の合計税率10.21%・20.42%による計算方法は変わりません(国税庁「防衛特別所得税及び復興特別所得税の源泉徴収のあらまし」)。
納付期限は原則として翌月10日
源泉徴収した税額は、原則として報酬を支払った月の翌月10日までに納付します(所法204①)。
給与等について納期の特例の承認を受けている会社でも、所法204①一・五に該当する撮影報酬、編集報酬、原稿料等は、その特例の対象になりません。給与等と一緒に半年分をまとめて納付しないよう注意してください(所法216、国税庁「源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例」)。
判断に迷う場合は、具体的な契約内容を整理する
源泉徴収の要否を検討するときは、次の事項を整理します。
- 契約相手が個人か法人か、居住者か非居住者か
- 撮影する内容と、映画・演劇・音楽等の芸能との関係
- 撮影・編集等の役務を依頼する契約か、完成物の提供を受ける契約か
- 台本・脚本・デザイン・著作権使用料等の報酬が別にあるか
- 契約書・見積書・請求書の内訳と、実際の仕事内容が一致しているか
税務署等に相談する場合も、これらの資料を示し、どの規定に該当する、又は該当しないという判断なのかを確認します。相談時の前提、回答日、担当部署、回答の根拠を記録しておくと、後から処理を確認しやすくなります。
対象外の報酬を源泉徴収しても、確定申告ですべて精算できるわけではない
正当に徴収された源泉所得税等は、原則として確定申告の税額計算で控除します。しかし、本来対象でない報酬から誤って徴収した金額まで、受取人の確定申告で自由に控除・還付できるわけではありません(所法120①四、138①、最高裁平成4年2月18日第三小法廷判決)。
平成18年11月27日裁決でも、会社が役員から過大に徴収した源泉所得税額について、役員本人の確定申告による控除・還付は認められませんでした。この事例は、源泉徴収の誤りの精算に関するものであり、YouTube動画の撮影報酬が源泉徴収の対象となるかを判断したものではありません(裁決事例集No.72・246頁)。
誤って徴収した場合には、支払者と受取人の間で不足払いとなった報酬を精算し、納付済みの税額については、支払者側で誤納額の還付請求等を検討します。「迷ったら源泉徴収しておけば、双方に影響がない」とは考えず、支払前に対象報酬への該当性を確認することが大切です(通法56、国税庁「源泉所得税及び復興特別所得税を納め過ぎたとき」)。
主な根拠資料
- 所得税法204・205・216、120①四・138①等
- 所得税法施行令320①④
- 国税庁・所得税基本通達204-24~204-28の5(映画、演劇等の出演等の報酬又は料金)
- 国税庁「令和8年版 源泉徴収のあらまし」第5(169~170・184頁等)
- 国税庁 No.2792「源泉徴収が必要な報酬・料金等とは」
- 国税庁 No.2793「報酬・料金等の源泉徴収義務者」
- 国税庁 No.2505「源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例」
- 国税庁 No.2506「源泉所得税及び復興特別所得税を納め過ぎたとき」
- 国税庁「防衛特別所得税及び復興特別所得税の源泉徴収のあらまし」
- 最高裁平成4年2月18日第三小法廷判決(平成2年〔行ツ〕第155号、民集46巻2号77頁)
- 国税不服審判所・平成18年11月27日裁決(裁決事例集No.72・246頁、公表裁決)
本記事は、令和8年10月17日現在の法令・公表資料に基づいています。

