概要
会社が給与等から誤って多く天引きした金額のうち、税法上の正当な源泉徴収税額を超える部分は、給与を受け取った人が自分の確定申告で源泉徴収税額として控除し、還付を受けることはできません。この部分は、給与の支払者である会社に支払を求めることになります。
ただし、通常の年末調整や、医療費控除などを適用する還付申告までできなくなるわけではありません。「正当な源泉徴収税額と年間の所得税額との差額」と、「会社が誤って徴収した金額」を区別する必要があります。
この記事は、主に国内の会社が居住者である役員・従業員に支払う給与・賞与を対象に、2026年10月17日時点の法令等に基づいて解説します。以下、所得税及び復興特別所得税をまとめて「所得税等」といいます。
確定申告で控除できるのは「正当な源泉徴収税額」
確定申告では、その年分の所得税額を計算し、源泉徴収税額等を控除して、納付額又は還付額を求めます。所得税法は、控除の対象を「源泉徴収をされた又はされるべき所得税の額」と定めています(所法120①四、122①二、138①)。
最高裁平成4年2月18日第三小法廷判決は、この源泉徴収税額とは、源泉徴収の規定に基づき正当に徴収された又は徴収されるべき税額を意味すると判断しました。したがって、実際に天引きされた金額や源泉徴収票の記載額が、そのまま全額控除できるとは限りません。
判決が引用するのは当時の所法120①五であり、現在の対応する規定は所法120①四です。
通常の還付申告と、会社の誤徴収額の返還は異なります
毎月の給与から正しく源泉徴収していても、その合計額が年間の税額を上回ることはあります。また、年末調整で適用しなかった所得控除等を、確定申告で適用できることもあります。こうした場合の還付は、会社の誤徴収額の返還とは異なります。
| 場面 | 基本的な対応 |
|---|---|
| 正しく源泉徴収した税額の合計が、年間の税額を上回る場合 | 年末調整の対象者は会社で精算します。確定申告によって還付を受ける場合もあります。 |
| 医療費控除や、年末調整で申告しなかった所得控除等を適用する場合 | それぞれの要件を満たせば、確定申告で年税額を計算し直せます。 |
| 正当な源泉徴収税額を超えて天引きされ、その誤りが解消されていない場合 | 誤徴収部分は会社に支払を求めます。本人の確定申告で、その部分を源泉徴収税額に上乗せすることはできません。 |
国税庁も、年の途中で退職して年末調整を受けていない場合や、医療費控除等を適用する場合の還付申告を案内しています。また、年末調整後の扶養親族の異動や控除申告書の提出漏れについて、再年末調整によらず本人の確定申告で還付を受けられる場合も示しています(国税庁「還付申告」、「令和8年分 年末調整Q&A」問10~12)。
最高裁判決が示した、会社・従業員・国の関係
最高裁平成4年2月18日第三小法廷判決〔平成2年(行ツ)第155号、民集46巻2号77頁〕は、退職後に元勤務先から受けた金員等の所得区分と、誤って徴収された源泉所得税の控除等が争われた事件です。
最高裁は、会社の源泉所得税の納税義務と、受給者の申告所得税の納税義務は、法律上別個のものとして成立・確定すると説明しました。誤徴収があった場合の救済は、次のように分かれます。
- 受給者は、誤って天引きされた部分について、会社に対して直接支払を請求します。
- 会社は、国に多く納めた源泉所得税について、国に対して誤納金の還付を求めます。
受給者の会社に対する支払請求は、会社が国から還付を受けるまで待たなければならないものではありません。最高裁は、受給者が会社に対し、本来支払われるべき金額の一部が支払われていないことを理由として、直接請求できるとしています。
なお、この事件で最高裁は、問題となった収入の所得区分自体を最終判断したわけではありません。本記事で取り上げているのは、誤徴収額を確定申告で控除・還付できるかという判断です。
数値例:15万円天引きされても、15万円全額を控除できるとは限りません
給与が支払済みで、年末調整を受けておらず、誤徴収分の返金も済んでいない場合を考えます。次の金額は、税額の関係を説明するための仮定であり、他の税額控除や予定納税等は考慮しません。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 確定申告で計算した年税額(源泉徴収税額控除前) | 10万円 |
| 税法上の正当な源泉徴収税額 | 12万円 |
| 会社が実際に天引きした金額 | 15万円 |
| 正当な源泉徴収税額を超える誤徴収額 | 3万円(15万円-12万円) |
この場合、確定申告で控除する源泉徴収税額は12万円であり、還付額は「12万円-10万円=2万円」です。
誤徴収額3万円は会社に支払を求めます。実際の天引額15万円をそのまま申告し、「15万円-10万円=5万円」の還付を税務署に求めることはできません。
源泉徴収を誤った会社が行う訂正・還付手続
まず、計算・天引き・納付・源泉徴収票を照合する
会社は、給与の支払額、適用した税額表、扶養控除等申告書等の内容、年末調整の計算、実際の天引額と国への納付額を確認します。源泉徴収そのものの誤りなのか、源泉徴収票の記載だけの誤りなのかによっても、対応が異なります。
源泉徴収簿等を正しい内容に修正し、受給者に交付した源泉徴収票に誤りがあれば、訂正したものを再交付します。税務署に提出した法定調書に誤りがある場合には、その訂正も行います(国税庁「提出した法定調書に記載誤りを発見した場合の訂正方法」)。
国に多く納付した場合は、会社が還付を請求する
会社が正当税額を超えて国に納付している場合は、会社が「源泉所得税及び復興特別所得税の誤納額還付請求書」を、源泉所得税の納税地の所轄税務署長に提出します。納付時の徴収高計算書の写しや、誤納が生じた事実を記載した帳簿書類の写し等が必要です(通法56、所基通181~223共-6)。
原則として、納付した日から5年を過ぎると時効により手続ができなくなります。国税通則法上の消滅時効は、還付を請求できる日から5年間とされているため、給与等の返還など後から事情が変わった事案では、起算点を含めて確認する必要があります(通法74①、国税庁「源泉所得税及び復興特別所得税を納め過ぎたとき」)。
会社が国に過大納付しただけで、従業員からの天引額は正しかった場合には、その過大納付額を従業員に返す問題は生じません。従業員から多く天引きした金額と、国に多く納めた金額は、それぞれ確認します。
給与・賞与の誤納額は、届出により将来の納付額から控除できる
給与・賞与に係る誤納額については、還付請求に代えて「源泉所得税及び復興特別所得税の誤納額充当届出書」を提出する方法もあります。届出日以後に納付すべきこととなる給与・賞与の源泉所得税等から、誤納額相当額を控除する仕組みです(所基通181~223共-6)。
この方法には、誤納が生じた給与等を支払った事務所等に係る源泉徴収税額から控除するという範囲があります。他の種類の源泉所得税等から任意に差し引いてよいわけではありません。
不足徴収の場合も、従業員の確定申告だけでは会社の義務は消えない
源泉徴収税額が不足していた場合には、会社は本来徴収・納付すべき税額を確認し、不足分に対応します。従業員が確定申告を済ませたことだけで、会社の源泉徴収・納付義務が消滅するわけではありません(所法183①、221①、平成19年1月12日裁決)。
会社が納付期限後に不足分を納付した場合や、税務署長から不足分を徴収された場合には、受給者に対するその後の支払額から控除し、又は受給者に支払を請求できる仕組みがあります。受給者の申告でも、実際の天引額だけでなく、正当に徴収された又はされるべき税額を確認する必要があります(所法120①四、222)。
関連裁決でも、誤徴収額の控除と所得・年税額の訂正を区別しています
平成18年11月27日裁決:過大徴収された部分の控除を否定
この公表裁決では、正当に徴収されるべき税額を超えて徴収された部分も確定申告で控除できるという納税者の主張が退けられています。最高裁平成4年2月18日判決と同じ考え方に基づく判断です(裁決事例集72集246頁)。
令和5年4月12日裁決:誤徴収額の還付は否定しつつ、処分を一部取消し
この公表裁決は、元代表取締役が、不当利得返還請求訴訟の判決確定に伴って会社に役員給与の一部を返還し、その給与に係る源泉徴収税額について、更正の請求で還付を求めた事案です。
この裁決で注意したいのは、役員給与の返還によって給与所得の金額が減少するとともに、正当に徴収された又はされるべき源泉徴収税額も減少するという点です。給与所得だけを減額し、返還前の源泉徴収税額をそのまま控除できるわけではありません。
審判所は、会社が源泉徴収税額の精算に応じない場合でも、正当な源泉徴収税額を超える部分を本人の更正の請求で控除・還付することはできないとしました。
一方、訂正後の源泉徴収票が提出されていないことだけを理由に判断を止めず、提出資料から正当な源泉徴収税額を計算し、納付税額が過大かどうかを判断しています。その結果、平成28年分について、正しい所得金額と源泉徴収税額による再計算で納付税額が過大となる範囲の処分が取り消されました。
したがって、「誤徴収額そのものを本人の申告で取り戻すことはできない」という結論を、「給与所得の金額や年税額に誤りがあっても、更正の請求は一切できない」という意味に広げてはいけません。
訂正後の金額を会社と受給者で共有する
源泉徴収の誤りが見つかったときは、何を、誰との間で訂正するのかを確認します。正当な源泉徴収税額と年間の税額との差額は年末調整・確定申告の問題であり、残っている誤徴収額は会社との精算の問題です。
会社は受給者への返金・追加徴収と国への還付請求・追加納付を整理し、訂正後の源泉徴収票等を受給者と共有します。受給者が既に確定申告している場合は、その申告内容についても訂正の要否を確認し、会社からの返金と申告による還付が重複しないようにします。
主な根拠資料
- 所得税法:120①四、122①二、138①、183①、221①、222
- 国税通則法:56、74①
- 所得税基本通達181~223共-6「源泉徴収税額に係る過誤納金の還付」
- 最高裁平成4年2月18日第三小法廷判決〔平成2年(行ツ)第155号、民集46巻2号77頁〕
- 平成18年11月27日裁決〔公表裁決、裁決事例集72集246頁〕
- 平成19年1月12日裁決〔公表裁決、裁決事例集73集312頁〕
- 令和5年4月12日裁決〔公表裁決〕
- 国税庁タックスアンサーNo.2506「源泉所得税及び復興特別所得税を納め過ぎたとき」
- 国税庁「源泉所得税及び復興特別所得税の誤納額の還付請求」・同「誤納額の充当届出」
- 国税庁タックスアンサーNo.2030「還付申告」
- 国税庁「令和8年分 年末調整Q&A」問10~12
- 国税庁「提出した法定調書に記載誤りを発見した場合の訂正方法」
