概要
居住用の賃貸アパートを新築したり購入したりすると、建物の取得に多額の消費税等がかかることがあります。例えば、建物を税抜5,000万円で取得する課税取引であれば、税率10%では消費税・地方消費税の合計額は500万円です。
一方、通常の住宅家賃は消費税の非課税売上げです。建物の取得に税金がかかるからといって、その税額をそのまま控除し、還付してもらえるわけではありません(消法6①、別表第二十三、30)。
過去には、課税事業者の選択、課税期間の短縮、課税売上割合などの制度を組み合わせ、住宅として貸す建物の取得税額について還付を受ける方法が利用されていました。代表例が、自動販売機の販売手数料や金地金の売買を利用する方法です。
その後、平成22年度・平成28年度・令和2年度の税制改正によって、段階的に制限が設けられました。現在は、一定の居住用賃貸建物について、取得時から仕入税額控除が制限されます。
この記事では、過去に還付が可能だった仕組み、裁決・判決、税制改正の経緯を整理したうえで、現在の取得時の制限と取得後の調整を説明します。
※2026年10月9日現在の法令・公表資料に基づいています。過去の制度を説明する箇所と現在の制度を区別し、条文番号は特に断りのない限り現在の法令によります。
1.出発点は平成3年の住宅家賃の非課税化
消費税が平成元年(1989年)に導入された当初から、住宅家賃が非課税だったわけではありません。住宅の貸付けが非課税取引に追加されたのは平成3年改正で、平成3年10月1日から適用されました。
政府税制調査会の資料でも、住宅の貸付けは、平成3年改正によって追加された社会政策的な非課税取引として整理されています。
これによって、事業者が事業として行う建物の譲渡や建築工事は課税取引であるのに対し、その建物を住宅として貸して得る家賃は非課税、という構造が生まれました。
現在も、通常の住宅の貸付けは非課税です。ただし、貸付期間が1か月未満の場合や、旅館業法に規定する旅館業に係る施設の貸付けなどは、この住宅貸付けの非課税から除かれます(消法6①、別表第二十三、消令16の2)。
2.なぜ昔は賃貸アパートの取得税額を全額控除できたのか
消費税の一般課税では、売上げに係る消費税額から、仕入れ等に係る控除対象の消費税額を差し引いて納付税額を計算します。控除しきれない税額が生じる場合には還付の対象になります。仕入税額控除と還付は、同じ意味ではありません(消法30①、52①)。
かつての「95%ルール」では、課税売上割合が95%以上であれば、帳簿・請求書等の保存などの要件を満たす課税仕入れ等の税額について、原則として全額を控除できました。
そのため、住宅として貸す建物であっても、取得した課税期間の課税売上割合が高ければ、当時の規定によって取得税額を全額控除できる場合がありました。
いわゆる「自動販売機スキーム」は、課税事業者を選択し、取得月を含む課税期間を短縮したうえで、その期間には住宅家賃を発生させず、自動販売機の販売手数料などの課税売上げだけを計上する、という制度の組合せでした。
取得した課税期間に非課税売上げがなく、課税売上げだけがあれば、課税売上割合が100%となることがあります。課税売上げが少額でも、建物取得に係る多額の税額を控除する計算になり得た点が、この問題の特徴でした。
ただし、これは過去の制度の説明です。現在の居住用賃貸建物の取得に、そのまま当てはめることはできません。
3.平成20年7月4日裁決――自販機手数料の計上時期が問題になった事例
自動販売機の販売手数料を利用した実例として、国税不服審判所平成20年7月4日裁決があります(裁事76集465頁)。
請求人は、賃貸アパートの取得期に自動販売機の販売手数料を課税売上げとして計上し、課税売上割合が100%になるとして、建物取得に係る仕入税額控除と還付を求めました。
問題となった課税期間は、平成18年6月1日から6月30日までの1か月です。アパートの取得価額は5,420万円で、そのうち建物代金は2,436万円、建物代金に含まれる消費税等は116万円でした。なお、この裁決では、別に取得したマンションに係る仕入税額控除も争われています。
自動販売機が設置されたのは6月29日でした。しかし、契約上、販売手数料は毎月20日締めで、収入すべき権利と金額が確定するのは翌月の7月20日と認定されました。このため、6月の課税売上げに計上することはできず、請求人の主張は認められませんでした。
この裁決で還付が認められなかった直接の理由は、販売手数料の計上時期です。「自動販売機を利用する方法はすべて無効」と判断した裁決として紹介するのは正確ではありません。一方、この裁決が類似の方法全般の適法性を保証したわけでもありません。
4.会計検査院の調査――150人で約8億8,000万円の還付
この問題の実態を明らかにしたのが、会計検査院の検査です。
会計検査院は、平成18年度に1件300万円を超える消費税等の還付を受けた個人事業者のうち、46税務署管内の532人を検査しました。その結果、150人が、課税事業者の選択、課税期間の短縮、自動販売機等の販売手数料などを組み合わせ、賃貸マンション等の取得税額を全額控除していました。
その150人が賃貸マンション等の取得について控除した消費税等の額は、合計8億7,892万円余でした。その他の課税仕入れを含めた実際の還付額は、合計8億8,521万円余です。これらは検査対象についての金額であり、全国の利用者総数や還付総額を示すものではありません。
また、消費税法には、一定の固定資産について、取得後に課税売上割合が著しく変動した場合に仕入控除税額を調整する制度がありました。取得期に全額控除した後、住宅家賃が発生して課税売上割合が大きく低下すれば、要件を満たす場合には調整が必要になります(消法33)。
ところが、調整前に免税事業者へ戻ったり、簡易課税へ移行したりすることで、調整を受けない事例がありました。会計検査院は平成21年10月、財務大臣に対して、非課税家賃に対応する税額が適切に納付されるための措置を講ずるよう、会計検査院法36条に基づく意見表示を行いました。
5.平成22年度改正――取得後の免税・簡易課税への移行を制限
会計検査院は、その意見表示を受けて財務省が法改正案を作成し、平成22年法律第6号として平成22年3月31日に公布、同年4月1日に施行されたことを、翌年度の決算検査報告で説明しています。平成22年度改正については、検査・意見表示と法改正の関係を公的資料で確認できます。
改正では、課税事業者を選択した事業者が、選択による課税期間の初日から2年を経過する日までの間に開始する課税期間中に、一般課税で調整対象固定資産の仕入れ等を行った場合、取得後の免税・簡易課税への移行を制限しました(消法9⑦、37③一)。
調整対象固定資産とは、建物、機械、器具備品などの棚卸資産以外の資産で、一の取引単位の税抜価額が100万円以上のものです。資本金1,000万円以上の新設法人が、基準期間のない事業年度に含まれる課税期間中に一般課税でこれらを取得する場合にも、同様の制限が設けられました(消法2①十六、12の2②、消令5、消法37③二)。
なお、調整対象固定資産という概念や、税抜100万円以上という金額基準は、平成22年度改正で初めて設けられたものではありません。それ以前から、課税売上割合の変動や資産の用途変更に応じて仕入控除税額を調整する制度の対象として、調整対象固定資産という区分が設けられていました(財務省『平成22年度税制改正の解説』588頁、消法33~35)。
平成22年度改正で新たに設けられたのは、この既存の資産区分を用いて、一定の事業者が調整対象固定資産を取得した場合に、その後の免税・簡易課税への移行を制限する仕組みです。「調整対象固定資産の概念ができた改正」と「その取得に伴う移行制限が追加された改正」を区別する必要があります(消法9⑦、12の2②、37③一・二)。
通常の1年ごとの課税期間であれば、取得した課税期間を含めて原則3年間、一般課税を継続することになる制度です。課税期間を短縮した場合などは、法定の期間を個別に確認する必要があります。
課税事業者の選択に係る改正は、平成22年4月1日以後に課税事業者選択届出書を提出し、同日以後開始する課税期間から課税事業者となる場合が対象です。新設法人に係る改正は、同日以後に設立された新設法人が対象です。
この改正は、住宅用建物の取得税額を一律に控除対象から外したものではありません。取得後に免税・簡易課税へ移行して、課税売上割合の変動による調整を免れることへの対策でした。
6.平成23年度改正――95%ルールに課税売上高5億円以下の条件を追加
平成23年度改正では、95%ルールの対象を、その課税期間の課税売上高が5億円以下の事業者に限定しました。平成24年4月1日以後に開始する課税期間から適用されています。
現在、原則として全額控除が認められるのは、「課税売上割合95%以上」かつ「課税売上高5億円以下」の場合です。5億円を超える場合は、課税売上割合が95%以上でも、個別対応方式または一括比例配分方式で計算します(消法30②)。
ここで判定するのは、基準期間の課税売上高ではなく、控除額を計算する当該課税期間の課税売上高です。課税期間が1年未満の場合は、課税売上高を年換算して5億円以下かどうかを判定します(消法30⑥)。
この改正は、賃貸アパートの還付問題だけを対象としたものではありません。また、5億円以下の事業者には95%ルールが残ったため、この改正だけで住宅用建物の還付問題が解消されたわけでもありません。
7.平成28年度改正――高額特定資産の取得に規制を拡大
平成28年度改正では、「高額特定資産」を取得した場合の免税・簡易課税への移行制限が設けられました。
購入する資産の場合、高額特定資産は、原則として一の取引単位の税抜価額が1,000万円以上の棚卸資産または調整対象固定資産です。自己建設する資産には、建設等に要する費用の累計額に基づく別の判定があります(消法12の4①、消令25の5①・②)。
一般課税で高額特定資産の仕入れ等を行うと、翌課税期間から、取得課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間まで、免税点制度を適用できません。自己建設高額特定資産では、期間の終期を建設等が完了した課税期間を基に判定します。簡易課税制度選択届出書の提出にも制限があります(消法12の4①、37③三・④)。
改正は、原則として平成28年4月1日以後の仕入れ等に適用されます。ただし、平成27年12月31日までに締結した契約に基づく取得等については、経過措置があります(平成28年改正法附則32②)。
調整対象固定資産と高額特定資産の違い――なぜ追加の規制が必要だったのか
平成28年度改正は、調整対象固定資産の金額基準を「100万円以上」から「1,000万円以上」に引き上げた改正ではありません。従来の調整対象固定資産に関する規制を維持しつつ、税抜1,000万円以上の棚卸資産または調整対象固定資産を「高額特定資産」として、別の規制を追加したものです。したがって、賃貸事業用の固定資産として取得する税抜1,000万円以上の建物は、調整対象固定資産にも高額特定資産にも該当します(消法2①十六、12の4①、消令5、25の5①一)。
平成22年度改正による移行制限は、税抜100万円以上の調整対象固定資産を取得したすべての事業者に適用される制度ではありませんでした。課税事業者を選択した後の一定期間中の取得や、資本金1,000万円以上の新設法人が基準期間のない課税期間中に行う取得など、適用対象が限定されていました(消法9⑦、12の2②)。
そのため、課税事業者の選択によらず、基準期間の課税売上高が1,000万円を超えることによって課税事業者となる法人には、選択課税事業者に対する平成22年度改正の制限は適用されませんでした。財務省の解説では、こうした法人をあらかじめ用意して賃貸マンション等を取得し、平成22年度改正の規制を回避することで、取得後の仕入控除税額の調整を免れる事例がみられたと説明されています(財務省『平成28年度税制改正の解説』834~835頁)。
平成28年度改正では、課税事業者の選択の有無にかかわらず、一般課税で高額特定資産を取得した場合に、その後の免税・簡易課税への移行を制限する仕組みが設けられました。また、調整対象固定資産に含まれない棚卸資産も対象になったため、販売用の建物などについても規制が及ぶことになりました(消法12の4①、37③三)。
この改正の立法背景には、高額な不動産等の取得時に実際の仕入税額を控除し、その売却時には簡易課税によるみなし仕入税額の控除を受けることで、仕入税額が実質的に二重に控除されるという問題もありました。財務省は、会計検査院の指摘等を契機とした平成28年度改正が、結果として、平成22年度改正の措置を免れて調整規定の適用を回避する行為も防止する改正になったと説明しています(財務省『平成28年度税制改正の解説』827~829頁、834~835頁)。
8.金地金取引を組み込んだ方法――取引事実は平成28年改正より前にも存在
自動販売機の販売手数料だけでなく、金地金の売買を組み込み、課税売上高や課税売上割合に影響を与える方法も利用されていました。事業者が事業として国内で対価を得て行う金地金の譲渡は、原則として消費税の課税取引です(消法4①)。
この方法を組み込んだ実例として、東京地方裁判所平成31年3月15日判決があります(平成29年(行ウ)第143号)。
判決で認定された金地金取引は平成23年・平成25年のものです。判決の言渡しが平成31年であっても、取引まで平成28年改正後に行われたと読み替えることはできません。
親法人と新設分割子法人がそれぞれ金地金を売買
新設分割親法人は、平成23年9月12日に金地金200グラムを98万550円で購入し、同月26日に84万6,000円で売却しました。その1か月の課税売上高を年換算すると、1,015万2,000円となりました。
新設分割による原告法人の納税義務は、親法人の課税売上高を用いる特例によって判定され、原告法人は課税事業者となりました。単に金を少額売れば、どの新設法人も同じように課税事業者になる、という意味ではありません。
原告法人自身も、平成25年6月17日に金地金5グラムを2万3,475円で購入し、同月26日に2万915円で売却しました。平成25年6月10日から6月30日までの課税売上げはこの売却だけで、課税売上割合は100%となりました。
原告法人は、6月28日に契約した共同住宅の取得を同じ課税期間の課税仕入れとして、建物取得税額の控除を求めました。
裁判で問題になったのは建物の課税仕入れの日
東京地裁は、契約内容、代金の支払、引渡し、所有権移転登記などから、建物の課税仕入れの日は平成25年7月31日と判断し、原告の請求を棄却しました。6月の課税売上割合が100%でも、6月に建物の課税仕入れがなければ、その期間に控除することはできません。
控訴審の東京高等裁判所令和元年9月26日判決も、控訴を棄却しました(平成31年(行コ)第90号、原審・平成29年(行ウ)第143号)。
ただし、高裁は、課税仕入れの日を仕入先の「対価を収受すべき権利が確定した日」と解し、地裁の所有権取得を基礎とする説明を修正しています。本件では、売買代金全額の支払、引渡し、登記が行われた7月31日が、その権利の確定した日であると判断されました。
これらの判決は、金地金取引を組み込んだ方法一般を租税回避として無効にした判決ではありません。また、不動産の課税仕入れの日は、契約日と引渡日のどちらでも自由に選べる、ということでもありません。具体的な契約と履行状況に基づく判断が必要です。
9.令和2年度改正――一定の居住用賃貸建物は取得時から控除を制限
令和2年度改正では、一定の「居住用賃貸建物」に係る課税仕入れ等の税額について、取得時から仕入税額控除の対象としない制度が設けられました(消法30⑩)。
居住用賃貸建物は、住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物以外の建物で、高額特定資産または調整対象自己建設高額資産に該当するものです。建物の附属設備も含めて判定します(消法30⑩、消基通11-7-1)。
原則として令和2年10月1日以後の課税仕入れ等に適用されます。ただし、令和2年3月31日までに締結した契約に基づく課税仕入れ等には適用しない経過措置があります(令和2年改正法附則44①・②)。
自己建設高額特定資産に当たる場合には、建設等に要した対象費用の累計額が税抜1,000万円以上となった課税期間以後の税額に控除制限が適用されます。それより前の課税期間の税額まで、この制限によって一律に控除対象外となるものではありません(消令50の2②、消基通11-7-4)。
制度の背景について、財務省の令和2年度税制改正の解説は、金の売買を繰り返して課税売上げを増やすことなどによる住宅用建物の還付を説明しています。国税庁も、意図的に課税売上げを増やして控除を受け、取得後の調整を免れる事例があったことを改正理由として説明しています(国税庁「令和5年度第73回税理士試験・消費税法・出題のポイント」第一問問1)。
現在は、取得課税期間の課税売上割合を100%にしても、それだけで消法30⑩の対象となる建物取得税額を控除することはできません。95%ルールよりも先に、この建物の税額が控除対象から外されるためです。
なお、平成22年度・平成28年度改正による免税・簡易課税への移行制限は、令和2年度改正後も残っています。居住用賃貸建物の取得税額を控除できなかった場合でも、高額特定資産の取得に係る適用要件を満たせば、移行制限は適用されます(消法12の4①、37③三、消基通1-5-30)。
10.現在の取得時に確認すべき金額と用途
税抜1,000万円未満なら、自動的に還付されるわけではない
通常の購入物件で、建物が高額特定資産等に該当しなければ、消法30⑩の特別な控除制限は適用されません。ただし、通常の仕入税額控除の規定による判定は必要です。住宅家賃が非課税であることや、納税義務、計算方法、帳簿・適格請求書等の保存要件などを確認します(消法30①・②・⑦)。
1,000万円の判定は、土地を除いた建物について、一の取引単位で行います。一棟の建物を住宅部分と店舗部分に分けて、それぞれ1,000万円未満だから対象外とするものではありません。支払を分割するだけでも、通常の一の取引単位が別々になるわけではありません(消令25の5①一)。
空室や用途未定の建物も、客観的に判定する
住宅の貸付けの用に供しないことが明らかかどうかは、構造・設備その他の状況から客観的に判断します。取得時に入居者がいないことや、用途を決めていないことだけで、控除制限の対象外になるわけではありません(消基通11-7-1)。
判定は原則として課税仕入れを行った日の状況によります。ただし、その課税期間の末日までに住宅の貸付けの用に供しないことが明らかになった場合には、居住用賃貸建物に該当しないものとして差し支えないとされています。自己建設資産には別途定められた判定時点があります(消基通11-7-2)。
店舗併設建物は合理的に区分する
例えば、1階が店舗、2階以上が住宅である建物について、構造・設備等の状況から店舗部分と居住用賃貸部分を合理的に区分すれば、居住用賃貸部分に対応する税額についてのみ、特別な控除制限が適用されます(消令50の2①)。
使用面積割合や建設原価割合など、建物の実態に応じた合理的な基準による区分が認められます。共用部分も、その用途や利用状況に応じて検討します。合理的な区分をしなければ、建物全体の税額が制限されることになります(消基通11-7-3)。
区分した店舗部分の税額も、無条件に全額控除できるわけではありません。その部分について通常の仕入税額控除の要件を確認します。
11.取得後に課税賃貸用に供した場合・売却した場合の調整
取得時に消法30⑩によって控除を制限された税額には、取得後の利用状況等に応じて、一定額を後の課税期間の仕入控除税額に加算する制度があります(消法35の2)。
調整期間は「取得日から一律3年間」ではない
調整期間は、建物の仕入れ等の日から「第3年度の課税期間」の末日までです。第3年度の課税期間とは、仕入れ等の日の属する課税期間の開始の日から3年を経過する日の属する課税期間をいいます。自己建設高額特定資産の場合の仕入れ等の日は、建設等が完了した日です(消法35の2③)。
例えば、課税期間が毎年1月1日から12月31日までの事業者が令和8年に建物を取得した場合、通常、第3年度の課税期間は令和10年で、調整期間の末日は令和10年12月31日です。取得日そのものから3年後まで、という計算ではありません。
課税賃貸と売却では、加算する時期も計算割合も異なる
| 項目 | 課税賃貸用に供した場合 | 調整期間中に譲渡した場合 |
|---|---|---|
| 主な要件 | 調整期間中に全部または一部を住宅以外の貸付けに供し、第3年度の課税期間末日に対象建物を保有していること | 調整期間中に対象建物の全部または一部を譲渡したこと |
| 加算する課税期間 | 第3年度の課税期間 | 譲渡した日の属する課税期間 |
| 加算額 | 控除を制限された税額×課税賃貸割合 | 譲渡した建物・部分に対応する控除制限税額×課税譲渡等割合 |
| 計算割合 | 調整期間中の課税賃貸の対価÷同期間中の貸付けの対価の合計 | (取得等から譲渡日までの課税賃貸の対価+建物の譲渡対価)÷(同期間中の貸付けの対価の合計+建物の譲渡対価) |
課税賃貸の場合は期末に保有する部分、譲渡の場合は譲渡した部分を対象に、対価の返還等を控除した税抜額で計算します。取得時に合理的に区分し、控除制限の対象から除外した店舗部分の賃料を、再度この割合に含めるものではありません(消法35の2①~③、消令53の2①・②、53の4①)。
この表の税額は、消費税法上の国税の消費税額です。地方消費税も、国税の申告計算に応じて計算されます。
このように、住宅以外の貸付けや売却をした場合に、当初の税額が必ず全額回収されるわけではありません。期間、保有、利用状況、賃料・譲渡対価などに応じて計算します。
また、別に自動販売機収入や金地金の売上げを発生させるだけで、建物を課税賃貸用に供したことにはなりません。この調整には、調整を受ける課税期間に課税事業者であることが必要で、適用制度も確認します(消法35の2①・②、消基通12-6-1)。
12.令和6年度改正――金地金等の仕入れにも200万円基準を追加
令和6年度改正では、一般課税で金地金等の仕入れ等を行い、その課税期間中の税抜合計額が200万円以上となる場合についても、免税点制度と簡易課税への移行を制限する措置が設けられました。原則として、令和6年4月1日以後に行う金地金等の課税仕入れ・輸入に適用されます(消法12の4③、37③五・④)。
「金地金等」には、金・白金の地金のほか、金貨・白金貨や一定の金製品・白金製品が含まれます。金製品・白金製品は、重量当たりの単価に重量を乗じた価額で取引されるものに限られ、当該事業者が製造する製品の原材料として使用することが明らかなものは除かれます(消法12の4③、消規11の3)。
200万円は、1回の購入額ではなく、その課税期間中の仕入れ等の合計額で判定します。課税期間が1年未満の場合には、合計額を課税期間の月数で除し、12を乗じて年換算します。月数は暦に従って計算し、1月未満の端数は1月とします(消令25の5④)。
例えば、6か月の課税期間中に税抜100万円の対象仕入れを行った場合、年換算額は「100万円÷6×12=200万円」となり、この金額基準に達します。
免税点制度が適用されない期間は、翌課税期間から、仕入れ等を行った課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間までです。簡易課税制度選択届出書の提出にも制限があります(消法12の4③、37③五・④)。
この200万円基準は、居住用賃貸建物の取得税額を制限する消法30⑩とは別の制度です。金地金の売買そのものを禁止したり、金地金の購入税額を一律に控除対象外としたりする改正ではありません。
13.税制改正と裁決・判決を時系列で整理
| 時期 | 出来事 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 平成3年10月1日 | 住宅家賃の非課税化 | 住宅の貸付けを非課税取引に追加 |
| 平成20年7月4日 | 国税不服審判所裁決 | 自販機手数料の計上時期を理由に、取得期の全額控除・還付を認めず |
| 平成21年10月 | 会計検査院の意見表示 | 住宅用建物の還付と、取得後の調整を免れる問題への対応を求める |
| 平成22年4月1日 | 平成22年度改正 | 一定の調整対象固定資産の取得後に免税・簡易課税への移行を制限 |
| 平成23年 | 後の東京地裁・高裁判決の取引事実 | 新設分割親法人が金地金を売買 |
| 平成24年4月1日以後開始課税期間 | 95%ルールの見直し | 全額控除に課税売上高5億円以下の条件を追加。短期の課税期間は年換算 |
| 平成25年 | 後の東京地裁・高裁判決の取引事実 | 新設分割子法人が金地金を売買し、共同住宅取得税額の控除を求める |
| 平成28年4月1日 | 高額特定資産制度 | 原則税抜1,000万円以上の資産取得等に移行制限を拡大 |
| 平成31年3月15日 | 東京地裁判決 | 金地金取引を組み込んだ事例について、建物の課税仕入れ時期を理由に請求棄却 |
| 令和元年9月26日 | 東京高裁判決 | 課税仕入れの日の法解釈を修正したうえで控訴棄却 |
| 令和2年10月1日 | 居住用賃貸建物の控除制限 | 一定の住宅用建物の取得税額を、取得時から控除対象外とする |
| 令和6年4月1日 | 金地金等に係る追加措置 | 一課税期間の税抜仕入れ等合計200万円以上を移行制限の対象に追加。短期の課税期間は年換算 |
各改正には適用要件や経過措置があります。表の日付だけで個別の取引への適用を判断することはできません。
14.裁判例と税制改正の因果関係は区別する
平成22年度改正については、会計検査院が、検査・意見表示を受けて財務省が法改正案を作成したことを説明しています。
一方、平成28年度改正や令和2年度改正について、特定の一つの裁決・判決が直接の立法契機となったと断定するには、その関係を示す資料が必要です。本記事で参照した公的資料からは、東京地裁平成31年3月15日判決や東京高裁令和元年9月26日判決を、令和2年度改正の直接の原因とすることまでは確認できません。
これらの判決は、金地金取引を組み込んだ不動産取得の仕入税額控除が、現実に訴訟で争われた事例として位置付けるのが適切です。個々の事件の結論、制度上の問題、法改正の理由を分けて理解する必要があります。
15.これから賃貸アパートを取得する場合に大切なこと
住宅家賃の非課税化から令和2年度改正までのおよそ30年間に、住宅用建物の消費税還付をめぐる制度は大きく変わりました。
平成22年度・平成28年度改正は、一定の取得後に免税・簡易課税へ移行することを制限するものでした。令和2年度改正では、それに加えて、一定の居住用賃貸建物の取得税額を、最初から仕入税額控除の対象外としました。
したがって、現在の通常の一棟賃貸アパートについて、課税事業者を選択し、自動販売機収入や金地金の売上げによって課税売上割合を高くするだけで、建物取得税額の還付を受けることはできません(消法30⑩)。
取得前には、建物の取引単位と税抜価額、構造・用途、店舗部分との合理的な区分、契約時期に係る経過措置を確認します。また、取得時の控除制限だけでなく、免税・簡易課税への移行制限と、取得後の課税賃貸・売却に係る調整まで見通すことが大切です。
過去の還付方法を説明する記事や書籍を読むときも、そこで説明されている取引時期と適用法令を確認する必要があります。
主な根拠法令・公的資料
- 消費税法・消費税法施行令・消費税法施行規則
- 政府税制調査会「消費税における非課税取引」
- 国税不服審判所・平成20年7月4日裁決(裁事76集465頁)
- 会計検査院「賃貸マンション等の取得に係る消費税額の納付について」平成20年度決算検査報告・平成21年度決算検査報告
- 東京地方裁判所平成31年3月15日判決・平成29年(行ウ)第143号
- 東京高等裁判所令和元年9月26日判決・平成31年(行コ)第90号
- 国税庁「平成22年度税制改正・消費税法改正のお知らせ」
- 国税庁「令和2年度税制改正・消費税法改正のお知らせ」
- 国税庁・消費税法基本通達「居住用賃貸建物」
- 国税庁「居住用賃貸建物を取得後一定期間内に民泊サービスの用に供した場合」
- 国税庁「令和5年度第73回税理士試験・消費税法・出題のポイント」
- 国税庁タックスアンサーNo.6502「高額特定資産を取得した場合等の納税義務の免除等の特例」
- 財務省「令和6年度税制改正の解説・消費税法等の改正」799~801頁
