概要

 青色申告書である確定申告書を提出する事業年度に欠損金額が生じた場合(以下、この事業年度を「欠損事業年度」といいます。)、繰越欠損金として翌期以降10年間にわたって控除することができます。赤字を出した法人が一般的に利用する制度といえます。

 なお、このような欠損金を繰り越すことに代えて、その欠損金額をその欠損事業年度開始の日前1年以内に開始したいずれかの事業年度(以下「還付所得事業年度」といいます。)に繰り戻して法人税額の還付を請求することもできます。

 なお、この制度は、中小企業者等以外の法人の令和10年3月31日(令和8年度税制改正により2年延長)までの間に終了する各事業年度において生じた欠損金額については適用しないこととされていますが、中小企業者等以外の法人であっても、(1)清算中に終了する各事業年度の欠損金額、(2)解散等の事実が生じた場合の欠損金額、(3)災害損失欠損金額および(4)銀行等保有株式取得機構の欠損金額については、この制度を適用することができることとされています。

適用要件

 青色申告書を提出する法人の欠損金の繰戻しによる還付の場合は、次の要件をすべて満たさなければなりません(法法80①~③)。

(1) 還付所得事業年度から欠損事業年度の前事業年度までの各事業年度について連続して青色申告書である確定申告書を提出していること。

(2) 欠損事業年度の青色申告書である確定申告書をその提出期限までに提出していること。

(3) 上記(2)の確定申告書と同時に欠損金の繰戻しによる還付請求書を提出すること。

還付を請求することができる金額

 欠損金の繰戻しにより法人税額の還付を請求することができる金額は、次の算式により計算した金額に相当する法人税額となります(法法80①)。

還付できる金額=還付所得事業年度の法人税の額×(欠損事業年度の欠損金額/還付所得事業年度の所得の金額)

計算例

(Q)以下の場合の繰戻しによる還付請求額は、いくらになるのか?

前期(還付所得事業年度) 所得金額200万円 法人税額50万円
当期(欠損事業年度)   欠損金額100万円

(A)

50万円×(100万円/200万円)=25万円

欠損事業年度において欠損金の計上漏れがあった場合

 欠損事業年度における欠損金の計上漏れが、還付請求後に判明したとします。例えば、当初申告、還付請求において以下で申告していたとします。

前期(還付所得事業年度) 所得金額200万円 法人税額50万円
当期(欠損事業年度)   欠損金額100万円

 この場合の還付請求額は、上述した通り、25万円です。ただし、当期(欠損事業年度)において欠損金の計上漏れ40万円があり、欠損金額は100万円ではなく140万円だったとします。

 この場合、還付できる金額=50万円×(140万円/200万円)=35万円となり、更正の請求書を提出することにより、当初の還付請求書の還付金額25万円を修正することができるのかという疑問が生じます。

 しかしながら、計上もれの40万円の欠損金額については、欠損事業年度の確定申告書を「その提出期限までに提出」という当初申告要件を満たしているとは言えません。

 したがって、この計上もれの40万円については、更正の請求書を提出したとしても、当初の還付請求書の還付金額を修正することはできないという考え方が有力です。

還付請求書を期限後提出した場合、欠損金の繰戻還付をすることはできないとされた事例-神戸地裁令和6年1月18日判決(令和5年(行ウ)26号)(棄却)(控訴)

(1)事案の概要

 本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 原告Xは株式会社であり、平成元年6月期(昭和63年7月1日から平成元年6月30日までの事業年度)から、法人税確定申告書を青色申告書により提出することの承認を受けている。
② Xは、令和2年8月28日、処分行政庁に対し、令和2年6月期(令和元年7月1日から令和2年6月30日までの事業年度)の法人税の青色申告書である確定申告書を、国税電子申告・納税システム(以下「e-Tax」という。)を利用して提出した。
 令和2年6月期の所得金額は1,446万円余、法人税額は203万円余だった。
③ Xは、令和3年8月18日、処分行政庁に対し、令和3年6月期(令和2年7月1日から令和3年6月30日までの事業年度)の法人税の青色申告書である確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)を、e-Taxを利用して提出した。本件確定申告書の提出は、Xが税務代理人と定めたZ税理士(以下「本件税理士」という。)が行った。
 令和3年6月期の欠損金額は6,450万円余だった。  
④ Xは、令和3年9月17日、処分行政庁に対し、法人税法(以下「法」という。)80条1項に基づき、欠損金の繰戻しによる還付請求書(以下「本件還付請求書」という。)を、e-Taxを利用して提出し、法人税の還付の請求(以下「本件還付請求」という。)をした。本件還付請求書の提出は、本件税理士が行った。本件確定申告書の提出期限は、同年8月31日であった。
 本件還付請求書の提出により還付を請求した法人税額は204万円余だった。令和3年6月期の欠損金額6,450万円余のうち、令和2年6月期の所得金額1,446万円余と相殺した後の残額5,004万円余を翌期へ繰り越すべき欠損金額とした。
⑤ 本件税理士は、令和3年9月24日、処分行政庁に対し、「還付請求書だけが期限後に提出された理由について」と題する書面を提出し、同年11月16日、処分行政庁に対し、同日付けの「嘆願書」と題する書面を提出した。
 本件税理士は、電子申告ソフトウェアを利用して本件確定申告書を提出する際、同申告書が正常に送信されたことをもって、本件還付請求書も正常に送信されたものと誤信していた。
⑥ 処分行政庁は、令和4年2月28日付けで、Xに対し、本件還付請求には理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」といい、本件通知処分に係る通知書を「本件通知書」という。)を行った。
⑦ Xは、令和5年4月20日、本件通知処分の取消しを求め、本件訴訟を提起した。

(2)本件の主な争点

 本件の争点は、本件通知処分の適法性である。

(3)判決要旨(棄却)(控訴)

① 法80条1項、3項及び6項によれば、内国法人の青色申告書である確定申告書を提出する事業年度において生じた欠損金額がある場合、その内国法人が、当該確定申告書の提出と同時に、納税地の所轄税務署長に対し、法人税の還付を請求することができるとされ、還付請求をするためには、欠損事業年度の確定申告書をその提出期限までに提出すること、所定の事項を記載した還付請求書を納税地の所轄税務署長に提出することが必要であるとされている。これらの規定によれば、欠損金の繰戻しによる法人税の還付請求は、原則として、欠損事業年度の確定申告書をその提出期限までに提出し、その提出と同時に還付請求書を所轄税務署長に提出することを要するものと解される。
 これに対し、Xは、法80条6項は還付請求書の提出期限を定めていないため、同条1項の還付請求をするためには、提出期限までに確定申告書を提出するのと同時に還付請求をする意思が示されていれば足り、確定申告書と同時に還付請求書を提出する必要はない旨主張する。しかし、(イ)上記のとおり、欠損金の繰戻しによる法人税の還付請求が、欠損事業年度の確定申告書の提出と同時に行うことに加え、所定の事項を記載した還付請求書の提出を求めていることからすれば、還付請求書を確定申告書の提出と同時に提出することを要求していると解するのが合埋的である。加えて、(ロ)Xの上記主張は、同項所定の事項を記載していない確定申告書を、実質的に同項の還付請求書と同視することとなる点でも相当でない。したがって、Xの上記主張は採用することができない。
② 法80条3項によれば、確定申告書が提出期限後に提出された場合であっても、その期限後の提出について「やむを得ない事情」があると認められるときは、例外的に、還付請求が許容される。かかる規定に照らすと、法は、確定申告書が提出期限までに提出され、当該申告書に記載された欠損金額に基づいて還付請求書が確定申告書の提出期限後に提出された場合についても同様に、同期限後の提出について「やむを得ない事情」があると認められるときは、同期限後の還付請求を許容する趣旨であると解され、法人税基本通達17-2-3(以下「本件通達」という。)は、上記の法の趣旨を受けたものであると考えられる。
 そして、本件通達は、確定申告書と還付請求書を確定申告書の提出期限までに同時に提出するという法の定める要件を緩和するものである以上、上記「真にやむを得ない理由」とは、法人の責めに帰することのできない事情により法人が確定申告書の提出期限までに還付請求をなし得なかったと認められる場合をいうものと解すべきである。
 これに対し、Xは、本件通達は還付請求を認める場合を「真に」やむを得ない理由がある場合に限定する点で不合理である旨主張する。しかし、「真にやむを得ない理由」の意義を上記のように解する限度で、本件通達は法80条3項の趣旨に反するものではないから、Xの上記主張は採用することができない。
 したがって、確定申告書の提出期限までに本件確定申告書が提出され、確定申告書の提出期限後に本件還付請求書が提出されたという本件の事実関係の下において、本件通知処分が適法であるか否かは、Xの責めに帰することのできない事情によりXが確定申告書の提出期限までに本件還付請求をなし得なかったと認められるか否かにより、判断されるべきこととなる。
③ Xは、確定申告の事務を委任した本件税理士を通じて、処分行政庁に対し、令和3年8月18日に本件確定申告書を提出したが、本件還付請求書は、確定申告書の提出期限である同月31日を経過した後の同年9月17日に提出されたこと、本件還付請求書が確定申告書の提出期限までに提出されなかった理由は、本件税理士が、電子申告ソフトウェアを利用して本件確定申告書を提出する際、同申告書が正常に送信されたことをもって、本件還付請求書も正常に送信されたものと誤信したためであることが認められる。
 上記経緯からすれば、Xが本件還付請求書を確定申告書の提出期限までに提出しなかったのは、本件確定申告書の提出の際に、本件還付請求書の提出の有無を確認しなかったという本件税理士の事務処理上の不注意によるものにすぎないといえる。
 そして、Xは、確定申告の事務を本件税理士に委任していたのであるから、Xの責めに帰することのできない事情の存否の判断に当たっては、本件税理士に係る事情が、Xの事情と評価されるところ、上記のとおり本件還付請求書が確定申告書の提出期限までに提出されなかった理由が本件税理士の不注意にすぎないことからすれば、Xの責めに帰することのできない事情によりXが確定申告書の提出期限までに本件還付請求をなし得なかったとは認められない。
 その他、Xが確定申告書の提出期限までに本件還付請求をなし得なかったと認めるべきXの責めに帰することのできない事情があるとは証拠上認められない。
 以上からすれば、本件還付請求書が確定申告書の提出期限後に提出されたことについて「真にやむを得ない理由」があるとは認められない。
④ 以上によれば、本件通知処分は適法である。

法人税基本通達17-2-3(還付請求書だけが期限後に提出された場合の特例)

 法人が法第74条《確定申告》の規定による確定申告書を期限内に提出し、当該申告書に記載された欠損金額(当該法人が通算法人である場合にあっては、法第80条第7項《欠損金の繰戻しによる還付》の規定により計算される欠損金額)に基づいて法人税の還付請求書を期限後に提出した場合において、その期限後の提出が錯誤に基づくものである等期限後の提出について税務署長が真にやむを得ない理由があると認めるときは、法第80条の規定を適用することができるものとする。