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事前確定届出給与とは?役員賞与の届出期限と損金算入の注意点

事前確定届出給与とは?役員賞与の届出期限と損金算入の注意点

事前確定届出給与とは

 一般的な中小同族会社が、役員に毎月の定期同額給与とは別に金銭による賞与を支給し、その金額を法人税の計算上損金に算入しようとする場合には、原則として「事前確定届出給与」の制度を利用する必要があります(法法34①二、法令69③以下)。

 事前確定届出給与とは、役員の職務について、所定の時期に確定した額の金銭等を交付する旨をあらかじめ定め、その定めに基づいて支給する給与で、定期同額給与及び業績連動給与のいずれにも該当しないものをいいます(法法34①二)。

 一般的な中小同族会社の役員に金銭による賞与を支給する場合には、支給する役員、支給時期、支給額等をあらかじめ具体的に決定し、原則として届出期限までに「事前確定届出給与に関する届出書」を納税地の所轄税務署長へ提出する必要があります(法法34①二、法令69④、法規22の3)。

 そして、届出書を提出するだけでは足りません。実際の賞与についても、原則として、あらかじめ定めて届け出た支給時期・支給額どおりに支給する必要があります(法基通9-2-14)。

 役員に毎月支給する定期同額給与については、「役員給与(報酬)は、定期同額給与が利用しやすい」で詳しく解説しています。

「確定額」を具体的に決めておく必要がある

 事前確定届出給与では、単に「賞与を支給する予定がある」というだけでは足りず、あらかじめ「確定した額」を定めておくことが重要です。

 例えば、「500万円を上限として支給する」というように上限額だけを定め、実際の支給額を後日決定するような方法では、その役員について具体的な給与額があらかじめ確定していたとはいいにくくなります。

 また、業績等を見て100万円から300万円までの間で後日金額を決めるなど、具体的な支給額が後日の判断によって変動する仕組みについても、通常の事前確定届出給与における「確定した額」といえるかが問題となります。

 したがって、一般的な金銭による役員賞与について事前確定届出給与を利用する場合には、「〇〇取締役に対し、令和〇年〇月〇日に300万円を支給する」というように、支給時期と具体的な支給額をあらかじめ明確に決定しておくことが重要です(法法34①二、法基通9-2-14)。

届出が不要となる事前確定届出給与もある

 「事前確定届出給与」という名称ですが、法律上、すべての事前確定届出給与について税務署への届出が必要なわけではありません。

 例えば、定期給与を支給しない役員に対して非同族会社が支給する一定の金銭給与や、一定の株式・新株予約権等による給与については、届出が不要となる場合があります(法法34①二)。

 もっとも、一般的な中小同族会社が、毎月の役員報酬とは別に役員へ通常の金銭賞与を支給するケースでは、原則として届出が必要と考えておくのがよいでしょう。

事前確定届出給与は毎年届出が必要なのか

 一般的な中小株式会社では、定時株主総会等において、その後の新たな職務執行期間に係る役員賞与の支給時期・支給額を決定することが多いでしょう。

 その場合、新たにした事前確定届出給与に関する定めについて、その都度届出が必要となるため、役員賞与を毎年支給する会社では、実務上、毎期届出を行うことになります(法令69④)。

 前期に事前確定届出給与の届出をしたからといって、その届出が翌期以降も自動的に有効になるわけではありません。

事前確定届出給与の届出期限

 株主総会等の決議によって事前確定届出給与に関する定めをした通常の場合には、原則として、次のいずれか早い日までに届出書を提出する必要があります(法令69④)。

届出期限内容
株主総会等で定めをした日から1か月を経過する日。ただし、その決議日が職務執行開始日後である場合には、職務執行開始日から1か月を経過する日
その職務執行開始日の属する会計期間開始の日から4か月を経過する日等

 例えば、3月末決算の一般的な株式会社が5月25日の定時株主総会で役員賞与の具体的な支給額・支給時期を決定し、5月25日がその役員の職務執行開始日である場合には、通常、①の6月25日と②の7月31日のうち早い6月25日が届出期限となります(法令69④)。

 なお、確定申告書の提出期限の延長について一定の指定を受けている法人等については、②の「4か月」に特例がありますので、該当する場合には個別に確認する必要があります。

新設法人は原則として設立後2か月

 新設法人が、その役員について法人設立時に開始する職務に係る事前確定届出給与の定めをした場合には、原則として設立の日以後2か月を経過する日が届出期限となります(法令69④)。

 設立初年度に役員賞与を支給しようとする場合には、早い段階で具体的な賞与額・支給時期を検討する必要があります。

「職務の執行を開始する日」とは

 事前確定届出給与では、「職務の執行を開始する日」が届出期限を判断する上で重要になります。

 その日は、役員がいつ就任するかなど個々の事情によって判断しますが、例えば定時株主総会で役員に選任されてその日に就任した者や、同じ定時株主総会で再任された役員については、原則としてその定時株主総会開催日が職務執行開始日となります(法基通9-2-16)。

 平成22年5月24日裁決(裁事79集)では、事前確定届出給与に関する届出をしていたものの、期限までに支給すべき給与の具体的な金額等が確定していたとは認められないなどとして、事前確定届出給与への該当性が否定されています(平成22年5月24日裁決・裁事79集)。

 したがって、「とりあえず届出書を提出し、実際の賞与額は後から業績や役員の貢献度を見て決める」という方法では、事前確定届出給与として損金算入することはできません。

合同会社は株式会社と同じとは限らない

 合同会社の業務執行社員については、株式会社の取締役と同じように、定時社員総会の日が当然に毎年の職務執行開始日になるわけではありません。

 東京国税局の令和7年2月7日文書回答でも、合同会社については、株式会社の取締役と同様の任期・選任・定時株主総会による報酬決定の仕組みが当然に存在するわけではないため、定款や実際の意思決定方法等を踏まえて職務執行開始日を判断する必要があることが示されています。

 したがって、合同会社については、株式会社の取扱いを機械的に当てはめるのではなく、その合同会社の定款、社員の任期、報酬決定の方法等を確認する必要があります。

法人税の申告日から定時株主総会の日を一律に逆算することはできない

 一般的な中小株式会社では、定時株主総会で計算書類を承認するとともに、その後の職務執行期間に係る役員賞与の支給額・支給時期を決定することが多いでしょう(会社法438)。

 しかし、会社法上の機関設計、計算書類の承認手続、法人税申告期限の延長等によって取扱いが異なるため、法人税申告書を提出した日だけから定時株主総会の開催日を一律に判断することはできません。

 事前確定届出給与の届出期限については、実際にその役員について具体的な賞与額・支給時期を決定した日、職務執行開始日、会計期間開始日を確認して判定することが重要です(法令69④)。

届出後に役員賞与を変更できる場合

 事前確定届出給与は、一度届け出れば一切変更できないという制度ではありません。

 既に届出をしている場合でも、一定の臨時改定事由又は業績悪化改定事由に基づく変更であれば、期限内に変更届出をすることによって、変更後の定めに基づく給与が事前確定届出給与となる場合があります(法令69⑤)。

臨時改定事由による変更

 役員の職制上の地位の変更、役員の職務内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情が生じ、それに伴って既に届け出た事前確定届出給与の定めを変更する場合には、原則として、その臨時改定事由が生じた日から1か月を経過する日までに変更届出をする必要があります(法令69⑤)。

 なお、臨時改定事由によって、その役員の新たな職務について初めて事前確定届出給与の定めをする場合には、通常の届出期限と臨時改定事由発生日から1か月を経過する日のうち、一定の基準による遅い日が届出期限となるため、既存の届出を変更する場合とは区別して確認する必要があります(法令69④)。

業績悪化改定事由による変更

 法人の経営状況が著しく悪化したことその他これに類する理由により、事前確定届出給与の支給額を減額する場合にも変更届出が認められています(法令69⑤)。

 この場合の届出期限は、原則として、その変更に関する株主総会等の決議をした日から1か月を経過する日です。ただし、その日より前に変更前の定めによる給与の支給日が到来する場合には、その支給日の前日までとなります(法令69⑤)。

 なお、単なる一時的な資金繰りの都合や、単に業績目標を達成できなかったというだけでは、業績悪化改定事由には該当しません。また、この理由による変更は、給与の支給額を減額する場合等に限られます。

やむを得ない事情があれば期限後の届出が救済される場合もある

 届出期限を過ぎれば、どのような場合でも絶対に救済されないというわけではありません。

 届出期限までに届出がなかったことについて「やむを得ない事情」があると認められる場合には、期限までに届出があったものとして取り扱われる規定があります(法令69⑧)。

 もっとも、単なる失念や事務処理の遅れによって当然に認められる制度ではありませんので、通常は必ず法定期限内に届出を済ませるべきです。

届け出た支給額と実際の支給額が異なる場合

 事前確定届出給与は、所定の時期に確定した額を支給する旨の事前の定めに基づいて支給する給与です。

 税務署へ届け出た支給額と実際の支給額が異なる場合には、原則として事前確定届出給与に該当せず、その実際の支給額の全額が損金不算入となります(法基通9-2-14)。

 例えば、100万円と届け出ていたにもかかわらず120万円を支給した場合には、「超過した20万円だけが損金不算入で、届出額100万円までは損金になる」という取扱いには原則としてなりません。

 東京高裁平成26年11月19日判決(税資264号-187・順号12568)でも、届出額を超えて役員給与を支給した場合について、所定の変更届出がされていなければ、届出額の範囲を含め実際の支給額全部について事前確定届出給与としての損金算入は認められないと判断されています(東京高裁平成26年11月19日判決・税資264号-187・順号12568)。

 反対に、100万円と届け出ていたにもかかわらず80万円に減額して支給した場合にも、原則として、実際に支給した80万円が事前確定届出給与に該当しないことになります(法基通9-2-14)。

 減額支給であれば法人の課税所得は増加するので問題がないようにも思えますが、事前確定届出給与は、事前に確定した内容どおりに支給することによって役員給与を利用した恣意的な利益調整を排除する制度であるため、減額した場合にも原則として同じ問題が生じます。

届出額は「手取り振込額」ではない

 事前確定届出給与として届け出る給与額と、実際に役員の銀行口座へ振り込まれる手取り額は同じではありません。

 例えば役員賞与100万円と届け出た場合には、役員賞与そのものの額面金額を100万円とし、そこから役員本人が負担する社会保険料や源泉所得税等を控除して残額を銀行口座へ振り込むことになります。

内容金額
役員賞与の額面金額1,000,000円
社会保険料等150,000円
源泉所得税等100,000円
実際の振込額750,000円

 この場合、「75万円しか振り込んでいないから届出額100万円と異なる」ということにはなりません。

 事前確定届出給与として問題となる給与額は、社会保険料や源泉所得税等を控除した後の銀行振込額ではなく、役員賞与そのものの額面金額です(法法34①二、法基通9-2-14)。

社会保険料の計算を間違えて手取り額が違った場合

 賞与100万円という額面金額そのものは届出どおりであったものの、社会保険料の計算を間違えたため、役員への手取り振込額を誤ってしまうことがあります。

 例えば、本来15万円控除すべき社会保険料を16万円控除し、役員への振込額が本来より1万円少なくなった場合です。

 この場合、会社が役員賞与100万円という給与額そのものを変更したのではなく、社会保険料の控除額を誤っただけで、その誤りを適切に精算しているのであれば、直ちに「届出額100万円に対して99万円しか支給しなかった」という事前確定届出給与の不一致と同じものになるとは考えにくいでしょう。

 反対に、社会保険料を過少に控除して役員へ多く振り込んだ場合でも、賞与そのものの額面金額が100万円のままであり、役員本人が負担すべき不足額を後日回収するなど適切に精算しているのであれば、直ちに賞与額を増額したことになるものではないと考えられます。

 ただし、本来役員本人が負担すべき社会保険料等を会社が最終的に負担し、役員から回収しない場合には、その会社負担額について別途、役員に対する給与又は経済的利益に該当するかを検討する必要があります。

 なお、社会保険料の計算誤りによって手取り額が違った場合の事前確定届出給与への影響を直接判断した国税庁の公表Q&A、裁判例又は公表裁決例は確認できません。

 実務上は、控除誤りが判明した場合には速やかに精算し、賞与の額面金額は届出額どおりであったことを給与台帳、仕訳、精算記録等によって明確にしておくことが重要です。

支給額の一部を未払計上した場合

 事前確定届出給与について、届出額の全額を支給日に現金や預金で実際に支払わず、その一部が未払いとなる場合があります。

 例えば、100万円の事前確定届出給与について80万円を支払い、20万円を未払金として計上した場合です。

 この場合、単に銀行等を通じて実際に支払った金額が80万円であるというだけで、直ちに「届出額100万円に対して80万円へ減額して支給した」と判断できるわけではありません。

 法人税基本通達逐条解説(十二訂版)における法人税基本通達9-2-14の解説(912頁)では、その事前確定届出給与が法人の債務として真に確定したものであれば、他の費用と取扱いを異にする必要はなく、未払計上であっても「支給した金額」に含まれるものとも考えられると解説されています。

 したがって、会社が役員に対して100万円全額を支払う確定した給与債務を負っており、そのうち20万円が一時的に未払いとなっているにすぎない場合には、単純に80万円へ減額して支給した場合と同じものになるとは限りません(法法34①二、法基通9-2-14)。

 もっとも、「未払金として会計処理しておけば、届出額どおり支給したことになる」という意味ではありません。

 事前確定届出給与は、そもそも「その役員の職務につき所定の時期に確定した額を支給する旨の定め」に基づく給与です。

 そのため、届出の時点から一部を支払わないことが予定されていた場合や、会社に支払う意思がなく形式的に未払金を計上しているだけの場合には、そもそも届出額全体について真に「確定した額を支給する旨の定め」が存在していたのかが問題となります。

 法人税基本通達9-2-14の逐条解説でも、届出時点において未払いとなることが見込まれる部分がある場合には、その金額まで「確定した額」に含まれるといえるのか疑問が生じることが指摘されています。

 したがって、一部未払となった場合には、形式的な未払金計上の有無だけで判断するのではなく、給与としての実態が伴っていたか、100万円全額について法人の債務が確定していたか、法人に全額を支払う意思があったか、未払いとなった原因は何か、未払額がその後実際に支払われたかなど、個々の事実関係を総合して判断する必要があります(法法34①二、法基通9-2-14)。

当初から一部を未払いにする予定だった場合は特に注意

 例えば、「役員賞与100万円と決議して100万円と届け出るが、実際には80万円だけを支払い、20万円については最初から未払金のまま残す予定であった」という場合は注意が必要です。

 このような場合には、形式上は100万円の給与債務を計上していたとしても、実質的に100万円全額を所定の時期に支給する旨の定めが存在していたのかが問題となります。

 事前確定届出給与は、単に税務署へ金額を届け出ればよい制度ではなく、届け出た時点において、その役員の職務について所定の時期に確定額を支給するという真正な定めが存在することを前提としています。

 したがって、最初から支払う予定のない金額まで形式的に届出額へ含めて未払計上する方法は避けるべきです(法法34①二、法基通9-2-14)。

支給日についても自己判断で変更しない

 支給額だけでなく支給時期についても、あらかじめ定めた内容に従って支給することが原則です(法法34①二)。

 したがって、届出書に記載した支給日を自己判断で前後させることは避けるべきです。

 もっとも、「支給日が1日違っただけでも、どのような事情があっても必ず全額損金不算入になる」と一律に断定できる公表資料までは確認できません。

 実務上は、金融機関の休業日などもあらかじめ考慮して実際に支給可能な日を決定し、その日を届出書に記載しておくことが安全です。

一人の役員について届出と異なる支給をした場合

 例えば、役員Aについて届出額と異なる賞与を支給したとしても、それだけを理由として、届出どおりに支給した役員Bや役員Cの賞与まで損金不算入になるわけではありません。

 法人税法34条1項2号は「その役員」の職務について定めているため、事前確定届出給与への該当性は、原則として各役員ごとに判定します。

定めどおりに支給されなかった場合の損金算入が否認される金額

 同じ役員について、一つの職務執行期間中に2回以上の事前確定届出給与を支給する場合には、一回一回の支給を完全に別個のものとして判定するわけではありません。

 国税庁の質疑応答事例「定めどおりに支給されたかどうかの判定(事前確定届出給与)」では、具体的に二つの事例が示されています。

 まず、事例①は次のようなものです。

項目内容
事業年度X年4月1日からX+1年3月31日
役員の職務執行期間X年6月26日からX+1年6月25日
届出額①X年12月25日 300万円
届出額②X+1年6月25日 300万円
実際の支給額①X年12月25日 300万円
実際の支給額②X+1年6月25日 50万円

 この事例①では、X年12月25日に届出どおり支給した300万円については、損金の額に算入して差し支えないとされています。

 次に、事例②は次のようなものです。

項目内容
事業年度X年4月1日からX+1年3月31日
役員の職務執行期間X年6月26日からX+1年6月25日
届出額①X年12月 200万円
届出額②X+1年6月 200万円
実際の支給額①X年12月 100万円
実際の支給額②X+1年6月 200万円

 この事例②では、実際に支給した100万円と200万円の合計300万円の全額が事前確定届出給与には該当せず、損金不算入となるとされています。

 なぜ事例①と事例②で結論が異なるのでしょうか。

 国税庁は、一般的に、役員給与は定時株主総会から次の定時株主総会までの職務執行の対価であるため、一つの職務執行期間について複数回の支給がある場合には、その職務執行期間を一つの単位として、すべての支給が定めどおりに行われたかどうかを判定するとしています。

 したがって、同じ職務執行期間についてX年12月に200万円、X+1年6月に200万円と届け出たにもかかわらず、X年12月には100万円しか支給せず、X+1年6月には200万円を支給した事例②では、その職務執行期間に係る支給のすべてが定めどおりに行われたとはいえません。そのため、実際の支給額300万円全額が事前確定届出給与に該当しません。

 これに対し事例①では、X+1年3月期の事業年度中に行われたX年12月25日の支給については届出どおり300万円が支給され、その事業年度が終了した後の翌事業年度になって初めて、X+1年6月25日の支給が届出どおりでないこととなりました。

 国税庁は、このような場合には、翌事業年度における支給が届出どおりでなかったという後の事実によって、既に終了した直前事業年度の課税所得に影響を与えることは合理的ではないことから、直前事業年度に届出どおり支給した300万円については損金算入して差し支えないとしています。

 したがって、単純に「同じ事業年度なら全額損金不算入、別の事業年度なら別々に判定する」というルールではありません。

 原則は一つの職務執行期間を一つの単位として判定しつつ、当初事業年度中はすべて届出どおりに支給され、その事業年度が終了した後、翌事業年度になって初めて不一致が生じた場合には、後の事実によって既に確定した当初事業年度の課税所得を変動させないという取扱いが示されているものです。

 この国税庁の考え方については、次に説明する東京地裁平成24年10月9日判決でも詳しく検討されています。

東京地裁平成24年10月9日判決(税資262号-210・順号12060)

 東京地裁平成24年10月9日判決(税資262号-210・順号12060)は、一つの職務執行期間中に複数回の事前確定届出給与を支給する場合の判定について重要な判断を示した裁判例です。

事案の概要

 原告は、工具製造等を業とする株式会社でした。

 対象となった事業年度は平成20年10月1日から平成21年9月30日までで、役員の職務執行期間は平成20年11月27日から平成21年11月26日まででした。

 会社は平成20年11月26日の定時株主総会及び同日の取締役会において、代表取締役及び取締役について、月額報酬に加えて冬季賞与及び夏季賞与を次のとおり定めました。

役員冬季賞与の届出額夏季賞与の届出額
代表取締役500万円500万円
取締役200万円200万円

 会社は事前確定届出給与に関する届出を行い、冬季賞与については代表取締役に500万円、取締役に200万円を支給しました。

 その後、平成21年7月6日の臨時株主総会において、業績悪化を理由として夏季賞与を減額し、代表取締役について250万円、取締役について100万円とすることを決議し、同月15日にその金額を支給しました。

 しかし、この夏季賞与の減額について、所定の変更届出期限までに事前確定届出給与に関する変更届出をしていませんでした。

 届出額と実際の支給額を整理すると次のとおりです。

代表取締役取締役
冬季賞与の届出額500万円200万円
冬季賞与の実際の支給額500万円200万円
夏季賞与の届出額500万円200万円
夏季賞与の実際の支給額250万円100万円

 会社は夏季賞与については損金算入していませんでした。

 一方、冬季賞与については届出どおりに支給したとして、代表取締役500万円、取締役200万円の合計700万円を損金の額に算入して法人税の申告をしていました。

 これに対し税務署は、この冬季賞与700万円についても事前確定届出給与に該当しないとして損金算入を否認しました。

 したがって、この裁判で直接争われたのは、届出どおりに支給された冬季賞与700万円まで損金不算入となるのかという点でした。

本件の主な争点

 主な争点は、夏季賞与を届出額より減額して支給し、その変更について期限内に変更届出をしなかった場合に、同じ職務執行期間についてそれ以前に届出どおり支給していた冬季賞与まで事前確定届出給与に該当しなくなるのかという点でした。

東京地裁の判断

 東京地裁は、事前確定届出給与について損金算入が認められているのは、支給時期及び支給額が事前に確定的に定められ、届け出られた内容どおりに支給されることによって、役員給与を利用した恣意的な利益調整が排除されているためであるとしました。

 そして、届出額と実際の支給額が異なる場合については、実際の支給額が届出額より少なく、結果として法人の課税所得が増加する場合であっても、事前に届け出た定めどおりの支給ではない以上、事前確定届出給与に該当しないと判断しました。

 さらに、一つの職務執行期間中に複数回にわたって事前確定届出給与が支給される場合には、特別の事情がない限り、個々の支給ごとに判定するのではなく、その職務執行期間全体を一つの単位として、定めどおりに支給されたかどうかを判定すべきであるとしました。

 そのため、一つの職務執行期間に係る支給の中に事前の定めどおりでない支給があれば、原則として、その職務執行期間に係る複数回の支給全体について事前確定届出給与への該当性が問題となります。

国税庁の質疑応答事例との関係

 東京地裁は、国税庁の質疑応答事例で、一つの職務執行期間が複数の事業年度にまたがり、当初事業年度では届出どおりに支給したものの、翌事業年度になって届出どおりに支給しなかった場合に、当初事業年度の給与について損金算入を認めている取扱いについても検討しています。

 裁判所は、翌事業年度に生じる事実を待たなければ当初事業年度の課税所得が確定しないとすることは不合理であるため、納税者に有利な取扱いとして、翌事業年度に支給された給与のみを損金不算入とし、既に終了した当初事業年度に届出どおり支給された給与については損金算入を認めても差し支えないとしたものと理解できるとしています。

 したがって、国税庁の質疑応答事例と東京地裁判決が矛盾しているわけではありません。

 原則として職務執行期間全体を一つの単位として判定しつつ、翌事業年度になって初めて不一致が生じた場合については、既に確定した前事業年度の課税所得を後発事象によって変更しないという取扱いが示されていると整理できます。

本件への当てはめ

 本件では、冬季賞与と夏季賞与はいずれも同じ平成20年10月1日から平成21年9月30日までの事業年度中に支給されています。

 冬季賞与については届出どおり支給されていましたが、夏季賞与については届出額から減額して支給され、その減額について所定の変更届出期限までに変更届出がされていませんでした。

 また、職務執行期間全体では一つの職務執行期間に係る複数回の給与であり、個々の支給ごとに別々に判定すべき特別の事情も認められませんでした。

 そのため東京地裁は、夏季賞与だけでなく、届出どおりに支給されていた冬季賞与を含む本件各役員給与について、法人税法34条1項2号の事前確定届出給与に該当しないと判断しました(東京地裁平成24年10月9日判決・税資262号-210・順号12060)。

 この結果、会社が損金算入していた冬季賞与700万円についても、損金算入は認められませんでした。

控訴審の東京高裁平成25年3月14日判決

 会社は東京地裁判決を不服として控訴しました。

 控訴審の東京高裁平成25年3月14日判決(税資263号-41・順号12165)は、原判決の判断を基本的に維持し、会社の控訴を棄却しました。

 東京高裁も、事前に確定した額を支給することが相当でなくなった事情が生じた場合には、臨時改定事由又は業績悪化改定事由に基づく所定の変更届出の仕組みが設けられている以上、所定の手続を経ないまま減額支給された給与について損金算入を認めることはできないと判断しました(東京高裁平成25年3月14日判決・税資263号-41・順号12165)。

 控訴は棄却され、この判決は確定しています。

判決原文では届出書の支給日と実際の支給日が異なっている

 本件については、判決原文を読む上で注意すべき点があります。

 事前確定届出給与に関する届出書に記載された支給日は、冬季賞与が平成20年12月11日、夏季賞与が平成21年7月10日でした。

 一方、判決が認定した実際の支給日は、冬季賞与について代表取締役が平成20年12月1日、取締役が同月9日、夏季賞与が平成21年7月15日となっています。

 つまり、判決原文上は、届出書に記載された支給日と実際の支給日が一致していません。

 しかし、この訴訟で中心的に争われ、裁判所が判断したのは、夏季賞与を届出額より減額したにもかかわらず変更届出をしなかったことによって、届出どおりの金額を支給した冬季賞与まで損金不算入となるかという問題でした。

 支給日のずれ自体が独立した中心的争点として判断されたものではありませんので、この判決から「届出書の支給日と実際の支給日が違っても問題ない」という一般的な結論を導くことはできません。

 反対に、この判決を根拠として「支給日が1日でも違えば、事情にかかわらず必ず全額損金不算入になる」と断定することも適切ではありません。

届け出た賞与を全く支給しなかった場合

 事前確定届出給与として一回の賞与だけを届け出ていたものの、実際には全く支給せず、損金にも計上していないのであれば、現実に支給した役員賞与について損金不算入額を加算するという問題は通常生じません。

 しかし、「届け出た賞与は支給しなければ税務上何も問題がない」と一律に考えることはできません。

 同一の職務執行期間について複数回の事前確定届出給与を届け出ている場合には、一回を全く支給しなかったことによって、その職務執行期間に係る他の支給分の損金算入にも影響する可能性があります。

 また、届出をした当初から実際には賞与を支払う予定がなかったとすれば、そもそも「所定の時期に確定した額を支給する旨の定め」が真に存在していたのかという問題にもなります。

 特に、未払金として費用計上した場合には、単に帳簿上未払金を計上しているという形式だけではなく、法人がその役員に対してその金額を支払う確定した債務を真に負っていたか、給与としての実態があったかを検討する必要があります(法法34①二、法基通9-2-14)。

「支払確定年月日」は必ず株主総会の日とは限らない

 役員賞与を支給した場合、所得税徴収高計算書の「役員賞与」欄については、「支払年月日」と「同上の支払確定年月日」を区別して記載します。

記載する内容
支払年月日実際に役員賞与を支払った日
同上の支払確定年月日役員賞与について支払が確定した日

 「同上の支払確定年月日」が必ず定時株主総会開催日になるわけではありません。

 例えば、定時株主総会において各役員について具体的な賞与額まで確定したのであれば、その決議日が支払確定日となるのが通常でしょう。

 一方、株主総会では役員報酬の総額の上限だけを定め、各役員の具体的な賞与額については後日の取締役会等で決定する場合には、株主総会の日に各役員の賞与の支払が確定したとは限りません。

 国税庁の所得税徴収高計算書の記載要領も、「同上の支払確定年月日」について、役員賞与について支払の確定した年月日を記載するものとしており、株主総会開催日と一律には定めていません。

事前確定届出給与の支給時期は合理的に決めておく

 事前確定届出給与は、職務執行期間の最後にしか支給できるわけではありません。

 国税庁の質疑応答事例では、5月26日から翌年5月25日までを職務執行期間とする役員について、6月30日と12月25日にそれぞれ300万円を支給する旨を定めた事例について、使用人への夏季・冬季賞与と同じ時期に支給し、毎期継続して同時期に賞与を支給するなど、その支給時期が一般的に合理的に定められているのであれば、そのような支給形態であることだけを理由として損金算入できないことにはならないとしています。

 したがって、役員賞与の支給時期についても、単に税務上都合のよい日を設定するのではなく、会社として合理的な支給時期をあらかじめ決定し、毎期の取扱いとの整合性を確保しておくことが重要です。

まとめ

 一般的な中小同族会社が役員へ金銭による賞与を支給し、その金額を法人税の計算上損金に算入するためには、原則として事前確定届出給与の制度を利用する必要があります。

 重要なのは、単に期限内に届出書を提出することではありません。役員の職務について、支給時期と具体的な給与額を事前に確定し、原則としてその定めどおりに実際の支給を行う必要があります(法法34①二、法基通9-2-14)。

 届出額と実際の給与額が異なる場合には、差額だけではなく実際の支給額全額が損金不算入となることがあります。

 また、一つの職務執行期間に複数回の事前確定届出給与を定めている場合には、原則として、その職務執行期間全体を一つの単位として定めどおりに支給されたかどうかを判定します。

 東京地裁平成24年10月9日判決では、夏季賞与を届出額から減額し、所定の変更届出をしなかったため、同じ職務執行期間について既に届出どおりの金額を支給していた冬季賞与700万円についても事前確定届出給与への該当性が否定されました(東京地裁平成24年10月9日判決・税資262号-210・順号12060)。

 一方、国税庁の質疑応答事例では、当初事業年度ではすべて届出どおりに支給し、その事業年度が終了した後、翌事業年度になって初めて不一致が生じた場合には、後の事実によって既に確定した当初事業年度の課税所得を変更しないという取扱いも示されています。

 さらに、一部未払となった場合については、単に銀行振込額が届出額より少ないというだけで直ちに減額支給と判断できるわけではありません。届出額全額について真に給与債務が確定していたか、未払いが一時的なものか、当初から未払いが予定されていなかったかなどを個々の事実関係に基づいて判断する必要があります(法法34①二、法基通9-2-14)。

 事前確定届出給与として届け出る給与額は、社会保険料や源泉所得税等を控除した後の手取り振込額ではなく、役員賞与そのものの額面金額です。社会保険料等の控除計算を誤った場合には、速やかに精算し、賞与そのものの額面金額が届出額どおりであったことを客観的に確認できるようにしておくことが重要です。

 事前確定届出給与については、届出書だけでなく、株主総会・取締役会等の議事録、給与台帳、実際の支給額・支給日、未払金の発生理由とその後の支払状況、社会保険料等の控除・精算記録、源泉所得税の処理までを一体として管理しておくことをお勧めします。

 定期同額給与については「役員給与(報酬)は、定期同額給与が利用しやすい」もあわせてご覧ください。

※本記事は2026年8月26日現在の法令、通達及び公表資料等に基づいています。

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