概要

 所有型法人方式の場合、管理委託方式や一括転貸方式で問題になる適正管理料額の争点がありません。よって、個人が建物、土地を持っている場合に、その不動産を不動産管理会社に売却し、所有型法人方式で運営しようと考えている方は多いでしょう。

 また、譲渡所得課税や登録免許税、不動産取得税等の重たい税金が課税されることや、不動産管理会社側の資金調達問題等を考量すると、土地については個人所有のままにし、建物のみを移転するという所有型法人方式(建物のみ)で運営しようと考えている方がほとんどでしょう。

 このような所有型法人方式をしようとする場合の課税関係について、説明します。

どの建物を不動産管理会社に移転するのか?

 まず、当たり前の話ですが、収益物件(かつ、収益性が高い物件)でないと意味がないです。相続等により不動産を複数相続したとしても、収益物件を不動産管理会社に移転しないと意味がないです。収益性がないものを会社がかかえても負担になるだけですから。

 次に、築年数がある程度経過していて、建物の評価額が低いものとなります。移転する際に、会社側の資金を圧迫することがないような物件ということになります。

 次に、借入れによる抵当権が設定されていない物件を移転するのが理想です。もし、銀行から借入して抵当権が設定されているような物件の場合は銀行との事前交渉が必要になります。

移転する建物の価値の算定方法

 移転時の時価相当額で移転しないと、税務上、いろいろな問題が発生します。ですから、時価相当額で移転しましょうということになります。ただし、問題は、時価相当額とは実際いくらなのかということです。

 よく言われるのが、不動産鑑定士の鑑定評価額を参考にするとのことですが、お金がかかりますし、また、鑑定評価額だったとしても税務署に絶対に否認されないと言い切れるものでもありません。

 よって、一般的に利用されるのが固定資産税評価額や帳簿価格(取得価格から経過年数分の減価償却費を差し引いた残額)となります。

帳簿価額 > 固定資産税評価額帳簿価額を時価
帳簿価額 < 固定資産税評価額固定資産税評価額を時価

不動産管理会社に建物を移転した場合に、どんな税金がかかるのか?

(1)譲渡所得課税

 不動産オーナーと同族経営の不動産管理会社との間の建物売買取引でも、建物を時価で売買取引を行う以上、譲渡益(時価>帳簿価額)・譲渡損(時価<帳簿価額)が計上される可能性があります。

 譲渡益は所有期間5年未満の短期所有ならば39.63%(所得税等30.63%、住民税9%)の税率が適用され、所有期間5年以上の長期所有ならば20.315%(所得税等15.315%、住民税5%)の税率が適用され、所有が短期か長期かで倍ぐらいの税金の違いとなっています。ただし、一般的には譲渡益が生じることは稀となっています。

 (売却収入金額-取得費-譲渡経費)×39.63%(or 20.315%)

 なお、譲渡損の場合は納税義務は生じませんが、譲渡損を他の所得(例えば給与所得や不動産所得等)と損益通算することはできません(所法69)。

 また、税理士に申告業務を依頼した場合は、税理士報酬が別途、必要となります。

(2)消費税

 不動産オーナー所有の(中古)建物を不動産管理会社に売却した場合は、消費税の課税売上に該当し、「建物売却価額」に対して消費税が課税されます。

 居住用賃貸建物の家賃(賃貸料)には消費税が課税されません(非課税取引)が、居住用賃貸建物の売却収入(譲渡対価の額)には消費税が課税されます(消法4①、6①、28①、別表2十三)。

 現在、消費税免税事業者であれば、結果的に、その分について納税をすることはないのですが、課税売上高1,000万円超(1,000万円超の判定に建物売却価額が含まれます)になれば、2年後から消費税課税事業者になってしまいます。

(3)印紙税

 建物を売買するので「建物売買契約書」の作成が必要になります。この契約書には、売買金額により印紙の貼付が必要となります。

 不動産オーナーと同族経営の不動産管理会社の建物売買取引では、不動産の仲介業者が不在(契約者同士の直取引)の場合がほとんどですので、印紙の貼付を忘れずにしてください。

 仲介業者がいない場合は、仲介手数料の負担は考えなくてよいです。

(4)登録免許税、不動産取得税

 建物所有権移転(名義変更)に伴い、不動産管理会社側に登録免許税と不動産取得税が課税されます。

  • 建物の登録免許税は固定資産税評価額の0.4%です。
  • 不動産取得税は取得する物件の種類により税率が違い、住宅用家屋は固定資産税評価額の3%、商業ビル等の非住宅用家屋に関しては固定資産税評価額の4%になります。
  • 司法書士に登記業務を依頼した場合は、司法書士報酬が別途、必要となります。