概要
銀行振込で代金を受け取った場合、振込明細書や通帳に支払の記録が残ります。しかし、それだけで受取側の領収書の交付義務がなくなるわけではありません。
銀行振込と領収書の関係を考える際は、「領収書を交付する義務」「法人税の経費等を裏付ける資料」「消費税の仕入税額控除に必要な書類」を分けて確認することが大切です。この記事では、主に法人間の国内取引を前提に、令和8年10月17日現在の取扱いを説明します。
銀行振込でも、領収書を求められたら原則として交付する
民法では、弁済をする者は、弁済と引換えに受取証書の交付を請求できるとされています。一般に、代金の受領を証明する領収書は、この受取証書に当たります(民法486①)。
銀行振込であることだけを理由に、受取側が常に領収書の交付を断れるわけではありません。領収書を個別に交付しない旨の有効な合意がある場合などを除き、支払者から求められたときは、原則として交付することになります。
発行する際は、入金を確認した上で、実際の受領日・金額・代金の内容を記載します。「銀行振込により受領」「対象の請求書番号」なども記載すると、どの支払に対応する領収書かを確認しやすくなります。
領収書を個別に発行しない場合は、事前に合意しておく
毎月の家賃や顧問料などについては、契約時に「銀行の振込記録を支払の確認資料とし、領収書は個別に発行しない」旨を双方で合意しておく方法が考えられます(民法91)。
単に自社の請求書やホームページに「銀行振込の場合は領収書を発行しません」と記載しただけでは、相手方との合意が成立しているとは限りません。契約書や合意内容が分かるメール等に残しておくとよいでしょう。
ただし、領収書を省略する合意と、消費税法上のインボイスの交付義務は別の問題です。領収書を発行しない場合も、後述するインボイスへの対応が必要になります。
電子的な領収書の提供を請求することもできる
支払者は、紙の受取証書の交付に代えて、その内容を記録した電子データの提供を請求することもできます。ただし、代金の受取側に不相当な負担を課する場合は、この電子データの提供請求に応じる義務はありません(民法486②)。
このただし書は、電子データによる提供についての例外です。領収書全般の交付義務を免除する規定ではありません。
支払側は、振込記録と取引内容が分かる資料を保存する
銀行の振込明細書や通帳は、支払の事実を確認するための重要な資料です。一方、それだけでは、何を購入したのか、どの期間のサービスの代金なのか、会社の事業に関係する支払なのかが分からない場合があります。
そのため、振込記録だけでなく、請求書、契約書、納品書、発注内容を確認できるメール等を、取引の内容に応じて保存します。
毎月の金額が同じかどうかによって、保存の要否が一律に決まるわけではありません。定額の取引でも取引内容と支払の対応関係が分かる資料が必要であり、金額が変動する取引でも、必要事項を満たす複数の書類を組み合わせて対応できる場合があります。
法人税と消費税では、確認する要件が異なる
法人税では、領収書の有無だけで損金算入の可否が決まるわけではありません。実際の取引内容を確認し、売上原価、費用、資産の取得などの区分や、その事業年度の損金となるかを判断します。支払った金額が直ちに全額その期の損金になるとは限りません(法法22③)。
これに対し、消費税を一般課税で計算する場合の仕入税額控除には、取引の実態に加え、原則として一定の帳簿と適格請求書等の保存が必要です。法人税上の損金にできる支払でも、消費税の控除要件を満たしているとは限りません(消法30⑦)。
また、請求書、領収書、振込記録は同じ取引に関する資料であることがあります。それぞれを別の取引として、売上や経費を重複して計上しないようにします。
インボイス制度では、振込明細書だけでは原則として不足する
インボイス制度は令和5年10月1日から始まっています。一般課税による仕入税額控除では、原則として、帳簿と適格請求書等を保存しなければなりません。
適格請求書の主な記載事項は、次のとおりです(消法57の4①)。
- 発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
- 課税資産の譲渡等を行った年月日
- 商品やサービスの内容。軽減税率対象の場合はその旨
- 税率ごとに合計した税抜金額又は税込金額及び適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額等
- 交付を受ける事業者の氏名又は名称
通常の振込明細書や通帳には、販売者の登録番号、商品・サービスの内容、税率ごとの消費税額等がそろっていません。そのため、振込明細書だけで通常の仕入税額控除の要件を満たすとはいえません。
ただし、適格請求書は「請求書」という名称に限られません。必要な記載事項を満たす領収書や納品書等も該当します。また、書類同士の関連が明確で、全体として必要事項を確認できれば、複数の書類を合わせて記載事項を満たすこともできます(消基通1-8-1)。
領収書を省略しても、インボイスへの対応は必要
適格請求書発行事業者は、国内で課税資産の譲渡等を行い、相手方である課税事業者から求められた場合、交付義務が免除される取引等を除き、適格請求書を交付する義務があります。紙の交付に代えて、記載事項を電子データで提供することもできます(消法57の4①⑤)。
例えば、要件を満たす請求書を交付し、振込記録で支払を確認する形で対応できれば、消費税のために、さらに「領収書」という名称の書類を作成する必要はありません。ただし、民法上の領収書の請求への対応は、別に確認します。
事務所家賃は、契約書と振込記録等を組み合わせて対応できる
事務所の家賃を毎月銀行振込や口座振替で支払い、貸主から毎月の請求書や領収書を受け取らないことがあります。
この場合も、必要事項を満たす賃貸借契約書と、実際の取引を確認できる通帳・振込金受取書等を併せて保存することで、適格請求書等の保存要件を満たす方法が認められています(国税庁「インボイス制度に関するQ&A」問95)。
例えば、登録を受けている貸主から事務所を借り、月額家賃11万円、本体10万円、消費税等1万円、税率10%と定めている場合には、次のように資料をそろえます。
| 保存する資料 | 確認する主な内容 |
|---|---|
| 賃貸借契約書 | 貸主・借主の名称、対象事務所、月額家賃、適用税率、消費税額等、支払条件 |
| 貸主からの通知書等 | 契約書に不足している登録番号などの事項と、その契約との対応関係 |
| 通帳・振込金受取書等 | 実際の支払日、支払額、相手先と、どの月の家賃に対応する支払か |
契約書だけで将来の家賃の支払まで立証できるわけではありません。契約書と実際の支払記録が対応するように保存することが大切です。
契約書の不足事項は、貸主からの通知で補う
インボイス制度開始前からの契約などで、契約書に登録番号等が記載されていない場合には、不足事項について貸主から別途通知を受け、契約書と一緒に保存する方法があります。必要事項を補えるのであれば、インボイス対応のためだけに必ず契約書を作り直すということではありません。
家賃や消費税額等が変わった場合は、変更契約書や変更通知等も保存します。買手が取引先の登録番号等を調べて書き足しただけで、当然に不足事項を補えると考えないようにします。
また、貸主が登録を取りやめた場合に備え、登録状況の変更を連絡してもらう取決めをしておきます。必要に応じて、国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトで、取引時点の登録状況を確認してください。
住宅家賃は、まず非課税かどうかを確認する
ここまでの説明は、主に事務所・店舗などの課税される家賃についてのものです。
住宅の貸付けとして消費税が非課税となる家賃は、仕入税額控除の対象になりません。会社が従業員用の社宅を借りる場合でも、その貸付けが非課税の住宅貸付けに該当すれば同様です。貸主の登録の有無だけで判断しないようにします(消法6①、別表第二十三)。
未登録の取引先でも、一定割合を控除できる経過措置がある
適格請求書発行事業者ではない相手方からの課税仕入れでも、一定の帳簿と、区分記載請求書等と同様の事項が記載された請求書等を保存するなどの要件を満たせば、仕入税額相当額の一定割合を控除できる経過措置があります。
令和8年度税制改正後の控除割合は、次のとおりです(平成28年法律第15号附則52・53)。
| 課税仕入れを行う期間 | 控除できる仕入税額相当額の割合 |
|---|---|
| 令和5年10月1日~令和8年9月30日 | 80% |
| 令和8年10月1日~令和10年9月30日 | 70% |
| 令和10年10月1日~令和12年9月30日 | 50% |
| 令和12年10月1日~令和13年9月30日 | 30% |
| 令和13年10月1日以後 | この経過措置による控除はなし |
令和8年10月1日以後は、改正前に予定されていた50%ではなく、まず70%に移行しています。控除割合は、原則として銀行振込をした日ではなく、課税仕入れを行った時期で判定します。
この経過措置を適用する場合は、帳簿に「70%控除対象」など、対象取引であることが分かる記載をします。また、令和8年10月1日以後に開始する課税期間では、一の未登録事業者等からの対象となる課税仕入れの合計額が、その年又は事業年度で税込1億円を超えるときは、超える部分には経過措置を適用できません。
少額特例や簡易課税等は、別に判定する
基準期間の課税売上高が1億円以下又は特定期間の課税売上高が5,000万円以下である事業者には、令和5年10月1日から令和11年9月30日までに国内で行う税込1万円未満の課税仕入れについて、一定の帳簿のみで仕入税額控除を認める少額特例があります。取引先が未登録でも対象になり得ます(平成28年法律第15号附則53の2)。
また、簡易課税や、要件を満たして2割特例を適用する課税期間では、実際の仕入税額を積み上げて控除額を計算する仕組みではありません。その税額計算のために仕入先のインボイスを保存する必要はありませんが、法人税等の帳簿書類の保存義務は別に残ります。2割特例の対象期間は、原則として、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間です(消法37①、平成28年法律第15号附則51の2)。
銀行振込であることや、領収書を省略する合意があること自体が、これらの特例の適用理由になるわけではありません。
紙の領収書を発行する場合は、印紙税にも注意する
銀行振込で受領した売上代金について、受取側が紙の領収書を作成して相手方に交付する場合、その領収書は印紙税の課税対象になり得ます。「銀行振込」と記載しただけで非課税になるわけではありません。
営業に関して作成する通常の売上代金の領収書では、記載された受取金額が5万円未満なら非課税、5万円以上100万円以下なら原則として200円の印紙税となります(印紙税法別表第一第17号文書)。
なお、課税事業者が消費税額等を明確に区分して記載した場合などには、その消費税額等を除いた金額で判定できる取扱いがあります。免税事業者が消費税相当額を区分して記載しただけでは、この取扱いは適用されません。
これに対し、領収書をPDF等の電子データのみで提供し、紙の領収書を交付しない場合、その電子データ自体には印紙税は課されません。電子送信後に紙の領収書も別途交付した場合は、紙について改めて課税関係を確認します。
電子データで受け取った資料は、保存方法も確認する
メールで受け取った請求書・領収書のPDFや、インターネットバンキングによる振込の取引データについては、電子帳簿保存法に沿った保存が必要です。原則として、紙に印刷したものだけを残して電子データを削除する対応では足りません(電子帳簿保存法7)。
インターネットバンキングの振込では、取引年月日・金額・振込先名等が記載されたデータを保存します。ダウンロードしたデータや、取引画面をPDFにしたもの等による保存が考えられます。必要な要件を満たせば、金融機関のオンライン上の通帳や入出金明細等で保存する方法も認められています。
訂正・削除の防止、画面や書面への出力、検索などの保存要件を確認し、適用可能な要件緩和や猶予措置がある場合は、その条件も併せて確認してください。金融機関の閲覧可能期間を過ぎて取引内容が確認できなくなることにも注意が必要です。
法人の帳簿書類の保存期間は、原則として、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間です。青色繰越欠損金が生じた事業年度などは10年間となる場合があります。領収書を別途受け取らない運用でも、契約書、請求書、振込記録等を必要な期間にわたって確認できる状態にしておきましょう(国税庁タックスアンサーNo.5930)。
主な根拠資料
- 民法91、486①②
- 消費税法30⑦、57の4①⑤、消費税法基本通達1-8-1・1-8-2
- 国税庁「インボイス制度に関するQ&A」問23、26、95、111、113、113-3、114
- 国税庁「令和8年度税制改正特集」
- 国税庁タックスアンサー「No.6226 住宅の貸付け」「No.6505 簡易課税制度」
- 国税庁タックスアンサー「No.7105 金銭又は有価証券の受取書、領収書」「No.6925 消費税等と印紙税」
- 福岡国税局「注文請書を電子メールで送信する場合の照会別紙」(領収書の電子送信に関する取扱いを含む)
- 国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」令和7年6月、問10・11等
- 国税庁タックスアンサー「No.5930 帳簿書類等の保存期間」

