概要
従業員持株会や役員持株会を利用して自社株を取得した場合には、配当金、会社から支給される奨励金、株式を売却した際の利益について、それぞれ税金の取扱いを確認する必要があります。
特に、配当金が自動的に再投資される場合や、退会時に株式を自分名義の口座へ移す場合には、「現金を受け取っていないから課税されない」「移管した日の株価が取得費になる」と誤解しないよう注意が必要です。
以下では、日本に居住する個人が利用する通常の持株会を中心に説明します。株式報酬型の制度などについては、契約内容に応じた別途の確認が必要です。
持株会の配当金は誰の所得になるのか
民法上の組合である場合
民法上の組合として運営され、株式や配当金が実質的に各会員に帰属する持株会では、理事長名義で配当金を一括して受け取っても、各会員に帰属する配当金は、それぞれの会員の配当所得になります(所法12・24、所基通36・37共-19)。
持株会全体の名義で保有していることを理由に、各会員の配当所得がなくなるわけではありません。
信託を利用している場合
信託を利用した制度では、誰が受益者であるかを確認します。各会員が受益者等課税信託の受益者であり、信託財産から生じる配当金が各会員に帰属する場合には、各会員の配当所得になります(所法13①・24)。
「信託銀行方式」「任意団体」という名称だけで、会員個人に配当所得が生じると決めることはできません。規約や信託契約を確認し、株式と収益の帰属先を判断します。
人格のない社団等に該当する場合
持株会が人格のない社団等に該当し、株式や配当金が持株会自体に帰属する場合には、会員への収益の分配金は、原則として会員の雑所得になります。配当所得ではないため、配当控除は適用されません(所法24①・35、所基通35-1(6))。
ただし、清算分配金や脱退による持分の払戻金は、この雑所得の取扱いから除かれています。退会時の支払金まで、すべて同じ雑所得として処理することはできません(所基通34-1(6)、35-1(6))。
配当金が再投資されても課税対象になる
会員個人に帰属する配当金を、そのまま持株会で株式の買付けに充てる場合でも、配当所得の課税対象になります。配当金を受け取り、その資金で新たに株式を取得したものとして考えます。
確定申告をする場合の配当収入は、原則として源泉徴収税額を差し引く前の金額です。一方、再投資によって取得した株式の取得価額は、実際に買付けに充てた金額などを基に計算します。税引前配当金の全額が、そのまま再投資株式の取得価額になるわけではありません(所法24②、所令109①五、国税庁タックスアンサーNo.1330・1464)。
通常の上場株式の配当は申告方法を選択できる
大口株主等に該当しない個人が受ける通常の上場株式の配当については、原則として次の選択肢があります(措法8の4・8の5、国税庁タックスアンサーNo.1330・1331)。
| 申告方法 | 取扱い | 配当控除 |
|---|---|---|
| 申告不要 | 源泉徴収等で課税を終える | 適用なし |
| 総合課税 | 給与所得などと合算して税額を計算する | 対象となる配当であれば適用あり |
| 申告分離課税 | 他の所得と区分して税額を計算する | 適用なし |
総合課税と申告分離課税は、申告する上場株式等の配当所得の全額について統一して選択します。持株会の配当は総合課税、別の上場株式の配当は申告分離課税といった選び方はできません。
申告分離課税を選択した配当所得は、一定の要件の下で上場株式等の譲渡損失との損益通算ができます。持株会内で再投資されている配当についても、本人に帰属する配当額・源泉徴収税額等を確認して判断します。
本人が保有する株式等の割合が3%以上である場合のほか、本人と一定の同族会社の保有分を合算した割合が3%以上となる場合などには、大口株主等として申告分離課税等が制限されます。役員持株会などを利用している場合には、持株会を通じた保有分と自己名義の保有分を含め、該当性を確認します(国税庁タックスアンサーNo.1330・1331)。
非上場株式の配当は、原則として総合課税です。少額配当について所得税の申告不要制度を利用できる場合がありますが、上場株式の配当と同じ申告分離課税を選べるわけではありません。また、所得税の少額配当の申告不要制度は、住民税にはありません(措法8の5、国税庁タックスアンサーNo.1330)。
従業員持株会の奨励金は原則として給与所得
会社が従業員の株式取得を支援するために支給する通常の奨励金は、原則として従業員の給与所得になります。毎月支給されるものは毎月の給与に加算し、年1回支給されるものは賞与として源泉徴収する取扱いです(所法28①・183、日本証券業協会「持株制度に関するガイドライン」Ⅱ1)。
奨励金を直接持株会へ払い込み、従業員が現金で受け取らない場合でも、給与課税の対象になります。
例えば、本人の拠出額が1万円、会社からの奨励金が1,000円で、その合計1万1,000円の全額を株式の購入に充てた場合、購入した株式の取得価額は、購入手数料等がなければ1万1,000円です。給与課税された奨励金による購入分を、取得費から除く必要はありません(所令109①五)。
なお、日本証券業協会のガイドラインでは、役員持株会について奨励金等の付与を禁止しています。従業員持株会の奨励金の説明を、そのまま役員持株会にも当てはめないようにします(同ガイドラインⅠ第4章7)。
持株会で取得した株式の取得費を確認する方法
投資等報告書や退会精算書の簿価単価を確認する
従業員持株会を通じて取得した株式は、持株会から交付される「投資等報告書」「退会(引出)精算書」などに記載された簿価単価を基に、取得費を計算できます。書類の名称や記載内容は、持株会によって異なります。
簿価単価の記載がない場合には、資料に記載された「拠出金額」を「取得株式数」で除した金額による取扱いが示されています(国税庁「従業員持株会を通じて取得した株式の取得費等」)。
ただし、給与から天引きされた本人の拠出額だけを集計すると、奨励金や配当金の再投資による取得分が漏れることがあります。資料の各欄が何を含むかを確認し、過去の引出しや株式分割なども反映された単価・株数を使用します。
簿価単価に奨励金や再投資分が既に含まれている場合には、これらを重ねて加算しないよう注意してください。
資料から取得費を計算できない場合
投資等報告書等がない場合や、それらの資料では取得費を計算できない場合には、持株会から引き出した際の名義書換日の相場を基に、取得費を計算して差し支えないとされています。相場は、金融商品取引業者のデータベースや当時の新聞記事等による終値で確認します(国税庁「従業員持株会を通じて取得した株式の取得費等」)。
これは、取得費を資料で確認できない場合の取扱いです。実際の取得費が確認できるのに、有利な金額を選ぶために名義書換日の株価へ置き換えることを認めたものではありません。
また、相場のない非上場株式について、引出し時の評価額を当然に取得費とすることはできません。取得費が分からない場合には、取得資料の確認に加え、売却代金の5%相当額を取得費とする取扱いも検討します(国税庁タックスアンサーNo.1464)。
持株会以外でも同じ銘柄を取得している場合
持株会を通じて取得した株式のほかに、同じ種類・銘柄の株式を購入している場合には、原則として、それぞれの取得価額を基に総平均法に準ずる方法で1株当たりの取得費を計算します。売却した株式だけを選んで、個別の購入単価を使うことはできません(所法48、所令118)。
ただし、特定口座内の株式と特定口座外の株式は区分して計算し、複数の特定口座がある場合には、その特定口座ごとに計算します。持株会経由の株式であることを理由に、一般口座と特定口座の取得価額を合算するわけではありません(措法37の11の3、措令25の10の2①、措通37の11の3-1)。
株式の引出しと売却は区別する
会員自身に株式が帰属する通常の組合方式の持株会から、株式を自分名義の証券口座へ引き出すだけであれば、原則として、その引出し自体による譲渡益課税は生じません(日本証券業協会「持株制度に関するガイドライン」Ⅱ3)。
その後、引き出した株式を売却した場合には、売却代金から取得費と売却手数料等を差し引いて、譲渡所得等の金額を計算します(国税庁タックスアンサーNo.1463・1464)。
退会時などに株式や端数持分を売却・買い取ってもらい、現金で精算する場合には、株式や持分の譲渡に当たるかを確認します。「持株会の退会に伴う支払」という理由だけで、非課税になるわけではありません。
持株会の株式は特定口座へ移せるのか
一定の要件を満たせば直接受け入れられる
持株会契約等に基づいて取得した上場株式等は、一定の要件を満たせば、持株会等口座から本人の特定口座へ、振替の方法で受け入れることができます。
主な要件は、所定の持株会契約等に基づいて取得した上場株式等であること、取得時から引き続き所定の持株会等口座で管理されていること、所定の金融商品取引業者等に開設された特定口座へ直接振り替えることです(措令25の10の2⑭二十三)。
一般口座へ引き出した後、自由に特定口座へ入れ直せる制度ではありません。特定口座での管理を希望する場合は、引出しの前に、持株会事務局や取扱金融機関へ受入方法を確認します。
令和8年4月から受入先の範囲が拡充
令和8年4月1日以後に特定口座へ受け入れる持株会株式については、持株会等口座を管理する金融商品取引業者等に加え、その金融商品取引業者等と法人税法上の「支配関係」がある他の金融商品取引業者等の特定口座も、制度上の受入対象となります(措規18の11⑭、令和8年財務省令21号附則5)。
同年3月31日以前にも一定の資本関係にある金融機関の特定口座へ受け入れる仕組みはありましたが、令和8年度改正により、その対象範囲が見直されています。すべての金融機関へ直接移せるわけではなく、各金融機関の対応も確認が必要です。
取得日は振替日、取得価額は管理されていた金額
この方法で特定口座に受け入れる場合、特定口座で管理する取得日は、持株会等口座から特定口座へ振り替えた日となります(措令25の10の2⑬)。
取得価額は、持株会等口座で管理されていた取得価額を引き継ぎます。例えば、簿価単価が1株1,200円の株式を100株受け入れる場合には、受入株式の取得価額は12万円です。振替日の株価が1株2,000円であっても、これを20万円に置き換えることはできません。
取得日を振替日として管理することと、取得価額を振替日の時価に置き換えることは、別の問題です(財務省「平成21年度税制改正の解説」137頁)。
特定口座へ移した後の売却益については、その口座が「源泉徴収あり」であれば申告不要を選択できます。他の口座との損益通算や損失の繰越控除を受ける場合などには、確定申告が必要です(国税庁タックスアンサーNo.1476)。
申告前に確認しておきたい資料
持株会の株式や配当金について申告する場合には、主に次の資料を確認します。
- 持株会の規約・信託契約など、株式と収益の帰属を確認できる資料
- 投資等報告書、退会精算書、引出精算書
- 会員本人に帰属する配当額・源泉徴収税額等が分かる支払通知書など
- 奨励金の課税状況が分かる給与明細や源泉徴収票
- 特定口座への振替明細、売却明細、特定口座年間取引報告書
配当金の支払通知書と特定口座年間取引報告書の両方を使う場合には、同じ配当金を二重に申告していないかも確認します。
参考資料・根拠
- 所法12・13・24・28・35・48、所令109・118、措法8の4・8の5・37の11の3、措令25の10の2、措規18の11
- 国税庁令和7年分確定申告書等作成コーナーよくある質問「従業員持株会を通じて取得した株式の取得費等」
- 国税庁タックスアンサーNo.1330「配当金を受け取ったとき(配当所得)」
- 国税庁タックスアンサーNo.1331「上場株式等の配当等に係る申告分離課税制度」
- 国税庁タックスアンサーNo.1463「株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」
- 国税庁タックスアンサーNo.1464「譲渡した株式等の取得費」
- 国税庁タックスアンサーNo.1466「同一銘柄の株式等を2回以上にわたって購入している場合の取得費」
- 国税庁タックスアンサーNo.1476「特定口座制度」
- 国税庁・所得税基本通達35-1
- 財務省「令和8年度税制改正の解説」租税特別措置法等(所得税関係)の改正・347~348頁
- 財務省「平成21年度税制改正の解説」租税特別措置法等(金融・証券税制関係)の改正・137頁
- 日本証券業協会「持株制度に関するガイドライン」
国税庁課税部資産課税課情報「株式譲渡益課税のあらましQ&A」(平成31年1月)問19「従業員持株会を通じて取得した株式の取得費等」より
1 従業員持株会(以下「持株会」という。)を通じて取得した株式は、手元にある「投資等報告書」(注1)や「退会(引出)精算書」(注2)などに記載されている「簿価単価」(注3)を基に取得費を計算して差し支えない。
(注1) 「投資等報告書」(名称は持株会によって異なる。)は、半年に1回、持株会から各会員に通知され、拠出金額、取得株式数、簿価単価(1株あたりの取得単価)などが記載されている。ただし、その記載内容は持株会によって異なり、簿価単価が記載されていない場合もある。
(注2) 「退会(引出)精算書」(名称は持株会によって異なる。)は、退会時又は一部引出し時に持株会から各会員に交付され、退会時点又は一部引出し時点での拠出金額、取得株式数、簿価単価(1株あたりの取得単価)などが記載されている。ただし、その記載内容は持株会によって異なり、簿価単価が記載されていない場合もある。
(注3) 「簿価単価」の記載がない場合には、「拠出金額」を「取得株式数」で除した金額とする。
2 投資等報告書等がない場合や投資等報告書等では上記1の方法による取得費の計算ができない場合には、(持株会から引き出したときの)名義書換日の相場(金融商品取引業者のデータベースや当時の新聞記事等による終値)を基に取得費を計算して差し支えない。
※ 持株会を通じて取得した株式のほかに、同一銘柄株式を購入等している場合には、持株会を通じて取得した株式の取得価額と持株会以外で購入等した株式の取得価額とを基に、総平均法に準ずる方法により計算した1株当たりの取得費に売却株数を乗じて計算した金額が株式の収入金額から控除される取得費となる。


