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組織再編で繰越欠損金は引き継げるか|TPR事件・PGM事件と最新判決からみる法人税法132条の2と「事業継続」

組織再編で子会社の繰越欠損金を引き継げるのか

 100%子会社に多額の繰越欠損金がある場合、その子会社を親会社などが吸収合併すれば、一定の要件の下で、その繰越欠損金を合併法人が引き継ぐことができます。

 しかし、税法上の形式的な要件を満たしているからといって、必ず繰越欠損金の引継ぎが認められるとは限りません。

 法人税法132条の2には、合併や会社分割などの組織再編成を利用して法人税の負担を「不当に減少」させる行為又は計算を税務署長が否認できる規定があるためです。

 特に問題となっているのが、子会社が行っていた事業を別会社へ移した後、繰越欠損金が残った子会社を親会社などが吸収合併するケースです。

 このような再編について、「事業と切り離して繰越欠損金だけを利益の出ている法人へ付け替えた」とみるのか、それとも「100%グループ内における合理的な事業再編の結果として、繰越欠損金も引き継がれた」とみるのかによって、法人税法132条の2の結論が大きく変わります。

 この問題については、TPR事件とPGM事件で異なる考え方が示されました。

 さらに令和8年には、大阪地裁令和8年5月21日判決と東京地裁令和8年6月18日判決という、事業を別法人へ移した後に欠損金を有する法人を合併するという点で似た構造を持ちながら、法人税法132条の2について反対の結論となった2つの判決が現れています。

 本記事では、これらの裁判例を比較しながら、「事業継続」が繰越欠損金の引継ぎにどこまで関係するのかを、組織再編税制創設時の立法資料まで遡って考えます。

 なお、令和8年の2判決はいずれも地方裁判所の判決です。また、PGM事件については東京高裁判決に対して上告受理申立てがされており、2026年9月13日時点で最高裁の最終判断は確認できていません。

まず押さえたい法人税法57条2項と132条の2

 法人税法57条1項は、一定の要件の下で、過年度に生じた欠損金をその後の事業年度の所得から控除することを認めています。

 そして、同条2項は、適格合併が行われた場合、一定の被合併法人の未処理欠損金額を合併法人において生じた欠損金額とみなすこととしています。

 したがって、例えば親会社が100%子会社を適格合併した場合には、原則として、その子会社の一定の未処理欠損金額を引き継ぐことが考えられます(法法57②)。

 もっとも、支配関係が生じてから一定期間を経過していない場合などには、法人税法57条3項による欠損金引継ぎの制限もあります。

 一方、法人税法132条の2は、合併、分割などの組織再編成に係る行為又は計算を容認した場合に、法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるときに、税務署長がその行為又は計算を否認して更正等を行うことを認めています(法法132の2)。

 つまり、法人税法57条の個別的な制限規定に抵触していなくても、一連の組織再編が法人税法132条の2にいう制度の濫用と評価されれば、欠損金の引継ぎが否認される可能性があります。

法人税法132条の2はどのような場合に適用されるのか

 法人税法132条の2の判断基準について重要なのが、いわゆるヤフー事件の最高裁平成28年2月29日判決です(最判平成28年2月29日・民集70巻2号242頁)。

 最高裁は、法人税法132条の2の「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは、組織再編税制に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税負担を減少させるものをいうとしました。

 その判断に当たっては、例えば、通常は想定されない組織再編成の手順や方法が採られていないか、実態と乖離した形式が作られていないか、税負担の減少以外に合理的な事業目的その他の事情があるかなどが考慮されます。

 そして最終的には、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものか、組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨・目的から逸脱する態様でその適用を受けているかなどを総合的に判断します。

 したがって、「節税目的があった」というだけで法人税法132条の2が適用されるわけではありません。

 反対に、個別規定の文言上の要件を形式的に満たしていることだけで、132条の2の適用を完全に排除できるわけでもありません。

 そこで問題となるのが、法人税法57条2項の「本来の趣旨・目的」を考える際に、被合併法人の「事業継続」をどこまで重視するべきなのかという点です。

組織再編税制の創設時、「事業継続」はどのように考えられていたのか

 この問題を考えるには、平成13年度に現在の組織再編税制が導入されたときの資料が重要です。

 税制調査会法人課税小委員会が平成12年10月3日に取りまとめた「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方」は、組織再編前後で経済実態に実質的な変更がなく、移転資産に対する支配が再編後も継続している場合には、移転資産の譲渡損益の計上を繰り延べるという基本的な考え方を示しています。

 企業グループ内の組織再編については、個別資産の売買取引と区別するため、資産の移転が独立した事業単位で行われることや、組織再編後も移転した事業が継続することを要件とする必要があるとの考え方が示されました。

 ここで重要なのは、「事業継続」という考え方が、もともと個別の資産売買と、課税関係を継続させるべき組織再編成とを区別する文脈で示されていたという点です。

 つまり、立法資料における「事業継続」は、単なる個別資産の売買ではなく、組織再編税制によって従前の課税関係を継続させることが適当な取引であるかを判断するための要素として論じられたものです。「欠損金は、その欠損金を生じさせた事業と常に一緒に移転しなければならない」という考え方が、立法資料に直接示されているわけではありません。

 さらに同資料では、完全に一体と考えられるほど持分割合が高い法人間の組織再編については、これらの要件を緩和することも考えられるとされています。

 制度成立後の平成13年5月11日の法人課税小委員会では、事務局から、持分割合が50%を超える企業グループ内再編については従業者や事業継続に関する要件を設ける一方、「持分割合が100%である場合には」これらの要件を不要としたことが説明されています。

 つまり、立法当時から「事業継続」は重要な概念でしたが、100%グループ内の組織再編についてまで、同じ事業継続要件を法令上要求したわけではありません。

立法当時から租税回避防止も強く意識されていた

 もっとも、「100%子会社なら何をしてもよい」という制度が作られたわけではありません。

 平成12年10月3日の「基本的考え方」では、合併による繰越欠損金の引継ぎについて、租税回避行為を防止するための措置を講じた上で認めることが適当であるとされています。

 平成13年5月11日の法人課税小委員会でも、繰越欠損金や含み損を有する法人をグループに取り込み、それを利用する租税回避への個別的な防止措置と、組織再編成を利用した多様な租税回避に対応する包括的な防止措置の双方が説明されています。

 現在の法人税法57条3項などの個別的な制限規定と、法人税法132条の2につながる考え方です。

 したがって、立法資料から読み取れることは単純ではありません。

 一方では、100%の完全支配関係について事業継続要件を法令上要求しませんでした。

 他方では、個別規定だけでは捕捉できない租税回避を包括的に否認する制度も、当初から意図的に設けられています。

 この2つをどのように調和させるかが、TPR事件とPGM事件を考える上での重要な論点です。

TPR事件―事業と欠損金が切り離されたことを重視

 TPR事件では、親会社が、長期間の資本関係のある完全子会社を吸収合併し、その子会社の未処理欠損金額を引き継ぎました。

 ところが、一連の再編では、旧子会社が行っていた事業は新たに設立された子会社へ実質的に移され、旧子会社の従業員も新子会社へ転籍し、棚卸資産なども新子会社へ移されていました。

 東京地裁は、実態として旧子会社の事業は新子会社に引き継がれ、親会社は旧子会社の未処理欠損金額のみを引き継いだに等しいと評価しました。

 そして、形式的には適格合併の要件を満たしていても、組織再編税制が通常想定する「事業の移転及び継続」という実質を備えていないと判断しました。

 さらに、合併の検討過程において欠損金利用による税効果が強く意識されていたことなどから、合併の主たる目的は未処理欠損金の引継ぎにあったと評価し、法人税法132条の2による否認を認めています(東京地裁令和元年6月27日判決・平成28年(行ウ)第508号、税資269号-62・順号13285)。

 東京高裁も、この結論を維持しました(東京高裁令和元年12月11日判決・令和元年(行コ)第198号、税資269号-131・順号13354)。

 その後、最高裁は令和3年1月15日に上告を棄却し、上告受理申立ても受理しなかったため、TPR事件は納税者敗訴で確定しています。

 ただし、最高裁が「事業継続」の位置付けについて実体的な判決理由を示したわけではありません。

TPR事件では「事業の移転・継続」が強く重視された

 TPR事件控訴審判決は、完全支配関係にある法人間の適格合併について、法令上、従業者引継要件や事業継続要件が設けられていないこと自体は認めています。

 その一方で、組織再編税制の基本的な考え方や法人税法57条2項の趣旨・目的からすると、完全支配関係にある法人間の適格合併についても、被合併法人の事業が合併法人へ移転し、その後も継続することが想定されていると解しました。

 つまりTPR事件では、100%関係について事業継続が法令上の適用要件とされているわけではないにもかかわらず、法人税法132条の2の不当性を判断するに当たり、「事業の移転・継続」が重要な要素として位置付けられたことになります。

PGM事件―約57億円の欠損金が2段階の合併で引き継がれた

 PGM事件の事実関係は、欠損金の流れに注目すると分かりやすくなります。

 同じ企業グループの中に、多額の繰越欠損金を持つE社とF社があり、いずれもP社の完全子会社でした。

 まず第1段階として、F社がE社を吸収合併しました。

 この第1段階の合併は、完全支配関係にある法人間の適格合併でした。

 この合併により、E社が持っていた約57億8,000万円の未処理欠損金額は、まずF社へ引き継がれました。

 次に第2段階として、その第1段階の合併が効力を生ずることを条件に、原告会社がF社のほかG社、H社、I社も吸収合併しました。

 結果として、もともとE社が持っていた欠損金は、

E社 → F社 → 原告会社

 という形で、同じ日に行われた2段階の合併を通じて最終的に原告会社へ引き継がれました。

 課税庁は、この2段階の合併について法人税法132条の2を適用し、欠損金の引継ぎを否認しました。

 しかし、東京地裁令和6年9月27日判決は法人税法132条の2の適用を認めず、納税者側を勝訴させました(税資274号・順号14023)。

欠損金の発生から合併までが一つの租税回避計画だったとは認定されなかった

 PGM事件を理解する上では、約57億8,000万円の欠損金がどのように生じたのかも重要です。

 問題となった欠損金は、過去にゴルフ場事業を会社分割で切り出した後、その会社の株式をグループ法人へ譲渡したことなどにより税務上生じたものでした。

 PGM事件で納税者側の意見書等を作成した朝長英樹氏は、判決解説の中で、当時の担当者が税務上の損失発生を認識したのは株式譲渡後であったことなどを紹介しています。

 また、PGMグループでは、ゴルフ場事業を行う法人を買収した後、グループ内で合併によって法人を整理・統合することが従前から行われていました。

 このため、PGM事件は、欠損金を意図的に発生させ、その欠損金を利益法人へ移すことだけを目的として、一連の再編が最初から計画された事案とは事実関係が異なります。

 このような事情も、TPR事件との違いを考える上で重要です。

PGM事件は組織再編税制の立法過程まで検討した

 PGM事件東京地裁判決の大きな特徴は、現在の条文だけではなく、平成13年度に組織再編税制を創設した際の立法過程まで検討している点です。

 東京地裁は、法人課税小委員会が示した組織再編税制の基本的な考え方を確認した上で、完全子会社の吸収合併を含む完全支配関係にある法人間の合併では、合併前後で経済実態に実質的な変更がなく、個別資産の売買取引との区別も通常問題にならないため、支配関係適格合併や共同事業適格合併よりも緩和された適格合併の要件が「あえて」定められ、従業者引継要件や事業継続要件が必要とされなかったと判断しました。

 さらに判決では、平成13年度税制改正で組織再編税制が導入された際、大蔵省・財務省主税局課長補佐として立法作業に関与した朝長英樹氏が、本件訴訟において提出した意見書等についても検討しています。

 東京地裁は、100%グループ内の合併では事業継続等を厳格に要求する必要はないとの朝長氏の見解について、組織再編税制創設時の基本的な考え方と整合し、合理的であると評価しています。

 ただし、朝長氏の意見がそのまま「立法者意思」そのものであるという意味ではありません。

 PGM判決で重要なのは、裁判所自身が立法資料を検討した上で、その立法資料と朝長氏の説明が整合すると評価した点です。

完全支配関係では事業継続を一律の前提にできない

 こうした検討を踏まえ、PGM事件東京地裁は、完全支配関係適格合併について、「合併による事業の移転及び合併後の事業の継続」が法人税法57条2項等の適用の一律の前提になっているとはいえないと判断しました。

 また、E社からF社、さらに原告会社へと2段階で合併する方法についても、「通常は想定されない組織再編成の手順や方法」ではなく、一般に採られている合理的な手順・方法の一つであると評価しました。

 東京高裁令和7年7月23日判決(令和6年(行コ)第321号)も、この結論を維持して国の控訴を棄却しました。

 東京高裁はさらに、事業の移転・継続状況が法人税法132条の2の判断で考慮される場合が全くないわけではないとしながらも、完全支配関係適格合併では、事業の移転・継続を「特に重視すべき要素」とすることはできないとしています。

税務上最も有利な方法を選んだことだけでは132条の2にならない

 PGM事件では、税負担を考慮したこと自体も問題となりました。

 しかし、東京地裁は、合理的な事業目的があり、通常想定される複数の組織再編方法が存在する場合に、その中から税負担の少ない方法を選んだことだけで、直ちに法人税法132条の2の濫用になるとはしていません。

 また、欠損金の引継ぎによる税務上の効果が大きくなる時期を考慮して合併時期を決めたという事情についても、それだけで不当性を基礎付けるものではないと判断しています。

 営利企業が組織再編による税務上の影響を検討すること自体は、通常の企業行動です。

 重要なのは、税負担の減少を除いたとしても、その組織再編を行う合理的な事業上の理由が存在するかという点です。

TPR事件とPGM事件の違いを分かりやすく整理すると

 TPR事件とPGM事件の違いは、税効果をいったん除いて組織再編の手順を眺めたときに、その手順を採用する事業上の理由をどこまで説明できるかという点に表れています。

 TPR事件では、旧子会社の事業を別の新子会社へ移した上で、欠損金の残った旧子会社を親会社が吸収合併するという一連の手順について、裁判所は、通常想定される組織再編の方法とはいい難く、税負担の減少を除いて合併を行う合理的な事業目的も認めにくいと評価しました。

 これに対し、PGM事件では、グループ内の会社を整理・統合するという従来からの事業上の必要性があり、2段階の合併についても一般に採り得る合理的な方法の一つであると評価されました。

 したがって、両事件の違いを簡潔に表すなら、TPR事件では「税効果を除くと、その手順を採る理由の説明が難しかった」のに対し、PGM事件では「税効果を除いても、その再編を行う事業上の理由を説明できた」という違いがあったといえます。

 この点は、法人税法132条の2を考える上で重要です。問題なのは、税務上有利な方法を選んだこと自体ではありません。税負担の減少を除いたとしても、その組織再編の手順や時期について、事業上の合理的な説明が成り立つかどうかが重要になります。

大阪地裁令和8年5月21日判決―TPR事件に近い方向へ

 こうした中で現れたのが、大阪地裁令和8年5月21日判決(令和5年(行ウ)第12号)です。

 この事件では、完全支配関係にある子会社が営んでいた事業を会社分割によって別会社へ移した後、多額の未処理欠損金額などが残った旧会社を親会社が吸収合併しました。

 大阪地裁は、法人税法132条の2に関する争点について国側の主張を認めました。

法人税法57条1項から「事業継続」を導いた

 この判決で特に注目されるのは、法人税法57条2項の趣旨を、同条1項の欠損金繰越控除制度から説明した点です。

 判決は、法人税法57条1項の欠損金繰越控除制度について、事業年度を区切って所得を計算することによって生じる不公平を緩和し、事業年度間の所得と損失を平準化するための制度であることから、法人の企業活動が複数事業年度にわたって継続することを前提としているとしました。

 その上で、57条2項による被合併法人の欠損金引継ぎについても、被合併法人の企業活動が適格合併後も合併法人において継続的に行われることを前提とし、被合併法人の事業が適格合併により合併法人へ移転し、引き続き営まれることを「想定」していると判断しています。

 これは、TPR事件で示された事業継続を重視する考え方を、欠損金繰越控除制度そのものの趣旨から改めて基礎付ける判断といえます。

「事業が継続しなければ即否認」としたわけではない

 もっとも、大阪地裁判決を、「事業が親会社へ移らなければ必ず132条の2で否認される」と理解するのは適切ではありません。

 同判決も、事業の移転・継続を法人税法57条2項の条文上の適用要件そのものとしたわけではありません。

 判決は、事業の移転・継続がないことだけで常に法人税法132条の2が適用されるわけではないことを明示しています。

 問題となるのは、再編全体を見たときに、欠損金を生じさせた事業から欠損金だけを切り離し、利益のある別法人へ「付け替える」ことを主たる目的とする仕組みになっていないかという点です。

 大阪地裁は、本件の検討過程や社内資料なども踏まえ、一連の分割・合併について、事業の利益では使い切れない欠損金を事業から切り離して親会社へ付け替え、親会社の税負担を減少させることが主たる目的であったと評価しました。

東京地裁令和8年6月18日判決―似た構造でも結論は反対

 大阪地裁判決の約1か月後、東京地裁は令和8年6月18日、法人税法132条の2による欠損金引継ぎの否認を違法とする判決を言い渡しました。

 こちらの事件でも、子会社の事業を分割によって別会社へ移した後、事業がなくなった子会社を親会社が吸収合併し、その欠損金を親会社が引き継いでいました。

 一見すると、大阪地裁事件とかなり似ています。

 しかし、東京地裁は、従前から進められていた事業集約の経緯を重視しました。

 原告グループでは以前から対象事業の全国的な集約を進めており、その一環として新会社を設立し、各地の子会社などが行っていた事業を新会社へ集約した上で、事業移転後に不要となった子会社を親会社が吸収合併していました。

 東京地裁は、この一連の手順について、従来からの経営課題に沿った組織再編成であり、通常想定されない方法でも、実態と乖離した形式でもないと判断しました。

 また、事業移転後に不要となった子会社を整理するという、税負担の減少以外の合理的な事業目的があると認めました。

租税法律主義の観点からも事業継続論に慎重

 令和8年東京地裁判決で重要なのは、「従前事業継続」に関する判断です。

 判決は、完全支配関係にある法人間の適格合併について、法人税法上、従前事業継続は適格合併の要件とされておらず、法人税法57条2項も従前事業継続を未処理欠損金額の引継ぎの要件としていないと指摘しました。

 その上で、法律上の明文の根拠なく、従前事業継続の有無を法人税法132条の2による否認の実質的な要件として扱うことには慎重であるべきとの考えを示しています。

 さらに、平成13年度の立法資料を踏まえ、完全支配関係の場合に事業継続要件がないのは、親会社などが合併前から被合併法人の資産等を実質的に支配し得る関係にあり、合併によってそれが現実化しても経済実態に実質的な変更がないと評価できるためであるとの理解を示しています。

 つまり、「移転資産等に対する従前の支配」と「被合併法人が行っていた事業そのものを合併法人が継続すること」とを区別した点が重要です。

4つの裁判例を並べると対立点が見えてくる

裁判例「事業継続」に対する考え方132条の2
TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決完全支配関係でも事業の移転・継続を法57条2項の趣旨・目的上重視適用あり
PGM事件・東京高裁令和7年7月23日判決事業継続は一律の前提ではなく、特に重視すべき要素ともいえない適用なし
大阪地裁令和8年5月21日判決法57条1項の趣旨から57条2項も事業の移転・継続を想定すると判断適用あり
東京地裁令和8年6月18日判決明文のない従前事業継続を否認の実質的要件とすることに慎重適用なし

 このように見ると、「TPR事件・大阪地裁令和8年判決」と「PGM事件・東京地裁令和8年判決」という二つの方向性が存在することが分かります。

 もちろん、それぞれの具体的事実関係は異なります。

 しかし、法人税法57条2項は完全支配関係適格合併において「事業の移転・継続」をどこまで想定しているのかという法解釈についても、裁判所の考え方が完全に統一されているとはいえません。

平成22年度改正は「事業継続」を一律の前提とする考え方にどう影響するのか

 法人税法57条2項と事業継続の関係を考える上では、平成22年度税制改正も重要です。

 前述したように、平成13年度の組織再編税制創設時から、100%の完全支配関係にある法人間の合併については、従業者引継要件や事業継続要件は設けられませんでした。

 さらに平成22年度税制改正では、100%グループ内の法人間における一定の資産移転について譲渡損益を繰り延べるグループ法人税制が整備されるなど、100%グループを経済的に一体として捉える考え方が制度上さらに明確になりました。

 また、完全支配関係にある法人の残余財産が確定した場合にも、一定の未処理欠損金額を株主法人へ引き継ぐ制度が設けられました(財務省「平成22年度 税制改正の解説」284頁以下)。

 残余財産が確定するということは法人が消滅する場面ですから、必ずしも「その法人の事業を株主法人がそのまま継続する」という関係にはありません。

 さらに、平成22年度改正後の法体系では、事業を移転しない一定の適格組織再編成も法令上予定されています。

 朝長英樹氏は、PGM事件東京地裁判決の解説において、平成13年度の制度創設時から100%グループ内の合併について事業継続を厳格に求める制度とはされていなかったことに加え、平成22年度改正によって100%グループを一体として取り扱う制度がさらに整備されたことも踏まえ、「事業の継続」を法人税法57条2項等の一律の前提として捉えることに疑問を示しています。

 もっとも、この平成22年度改正に関する指摘は、PGM事件東京地裁判決そのものが平成22年度改正を直接の根拠として結論を出したという意味ではありません。

 一方、大阪地裁令和8年5月21日判決は、残余財産確定の場合と適格合併の場合は同じではないとして、平成22年度改正から直ちに適格合併における事業継続の「想定」が否定されるものではないとの立場を採っています。

平成30年度改正からも事業継続の位置付けが見える

 平成30年度税制改正では、支配関係がある法人間の組織再編成や共同事業のための組織再編成について、従業者従事要件や事業継続要件が見直されました。

 具体的には、最初の組織再編後に完全支配関係にある別法人へ従業者や事業を移転することが見込まれている場合にも、一定の範囲で従業者従事要件や事業継続要件を満たすこととされています。

 この改正からは、立法者が必要と考える場面では、事業継続の内容を法令上具体的に規定し、企業再編の実態に合わせて調整していることが分かります(財務省「平成30年度 税制改正の解説」300頁以下)。

 このことを、「条文にない事業継続を132条の2によって実質的な要件にすることには慎重であるべきだ」と評価するのか、それとも「個別の適格要件とは別に、132条の2による制度濫用の判断は残る」と評価するのかも、重要な論点です。

PGM事件で最高裁が「事業継続」について判断する可能性

 TPR事件では最高裁まで争われましたが、最高裁は、東京地裁・東京高裁が示した「事業の移転・継続」を重視する考え方について、実体的な判決理由を示していません。

 一方、PGM事件の東京高裁は、完全支配関係適格合併では事業継続が一律の適用前提になっていたとは認められず、法人税法132条の2の不当性判断においても「特に重視すべき要素」とすることはできないと明確に判断しました。

 PGM事件については、本稿執筆時点で上告受理申立てがされています。

 最高裁が事件を受理すれば、完全支配関係適格合併における「事業継続」と法人税法57条2項・132条の2との関係について、何らかの判断を示す可能性があります。

 特に、法人税法57条2項の趣旨・目的として被合併法人の事業の移転・継続をどこまで想定できるのか、平成13年度の立法過程で100%関係について事業継続要件を設けなかったことをどのように評価するのか、条文に明記されていない事業継続を法人税法132条の2の制度濫用判断でどの程度重視できるのか、個別的な欠損金利用制限を満たしている場合に132条の2によって欠損金引継ぎをどこまで否認できるのか、といった問題が重要になります。

 令和8年には、大阪地裁と東京地裁が似た構造の事件について反対の結論を示しています。

 その意味でも、PGM事件が最高裁に受理されるか、受理された場合にどのような法的整理が示されるかは、今後の組織再編税制の実務にとって非常に重要です。

 もっとも、最高裁が事件を受理するとは限りません。

 また、受理されたとしても、「事業継続が必要か否か」という抽象論について全面的な一般論を示すのではなく、PGM事件の具体的事実関係に即した限定的な判断となる可能性もあります。

 さらに、法人税法132条の2は具体的な事実関係を総合して適用される規定ですから、最高裁が一定の法的枠組みを示しても、個々の事件の結論まで完全に同じになるとは限りません。

実務では「事業を先に移したら否認」と考えるべきではない

 TPR事件、PGM事件、令和8年の大阪地裁判決と東京地裁判決から最も重要なことは、「子会社の事業を別会社へ移してから、その子会社を親会社等が合併した」という外形だけでは、法人税法132条の2の結論を出せないということです。

 大阪地裁令和8年判決では、事業を分割した後に欠損金を残した会社を親会社が合併する構成が、欠損金を事業から切り離して親会社へ付け替えるものと評価されました。

 これに対し、東京地裁令和8年判決では、外形的には似た構成でありながら、以前から進められていた事業集約計画の一環であり、事業移転後に不要となった子会社を整理する合理的な事業目的があるとして否認されませんでした。

 したがって、「事業を先に移すと危険」「事業を合併法人に残しておけば安全」という単純なルールではありません。

組織再編では「検討過程」が極めて重要

 これらの裁判例からすると、組織再編の実務では、最終的な組織図だけではなく、そこに至る検討過程が非常に重要です。

 事業上の課題がいつから認識されていたのか、その課題を解決するためにどのような選択肢を検討したのか、なぜ事業を特定の会社へ集約する必要があったのか、なぜその時期に合併する必要があったのか、欠損金による税効果を除いても採用した再編方法に合理性があるのか、といった点を説明できることが重要です。

 取締役会資料、経営会議資料、事業計画、金融機関や専門家からの提案書、社内メールなどは、後日の税務調査や訴訟において、その再編の目的を判断する重要な証拠になり得ます。

 税効果を検討すること自体が問題なのではありません。

 問題は、税負担の減少を除いたとしても、その組織再編を行う合理的な事業上の理由が存在するかという点です。

PGM事件を「100%グループなら欠損金を自由に移せる」と理解してはいけない

 PGM事件では納税者が地裁・高裁で勝訴しました。

 しかし、この判決を「100%グループ内であれば、事業を別会社へ移した後に欠損金だけを親会社へ引き継いでも問題ない」と一般化することは適切ではありません。

 PGM事件には、欠損金が発生した経緯、従来から行われていたグループ内再編、2段階合併を行う事業上の理由など、固有の事情がありました。

 合理的な事業上の理由に乏しいまま、事業を別法人へ移し、欠損金の残った法人だけを利益法人へ合併させるようなケースでは、今後も法人税法132条の2による否認が問題となる可能性があります。

 したがって、PGM事件は「事業継続は一切考慮しなくてよい」という判決でも、「100%グループ内なら欠損金を自由に付け替えられる」という判決でもありません。

現時点での実務上の結論

 完全支配関係にある子会社との適格合併について、法令上の要件を満たせば、法人税法57条2項により欠損金を引き継ぐことが基本となります。

 しかし、その欠損金引継ぎを含む一連の組織再編が、欠損金を事業から切り離して利益法人へ付け替えることを目的とした不自然な再編であり、合理的な事業目的にも乏しいと評価されれば、法人税法132条の2による否認が問題となります。

 一方、完全支配関係適格合併には、事業継続が法令上の明文の適用要件とされていません。

 以前から進められていた合理的な事業再編の一環として事業を集約し、その結果不要となった法人を合併したような場合まで、事業が合併法人へ直接承継されなかったことだけを理由に欠損金引継ぎが否定されるとは限りません。

 そして、TPR事件、PGM事件、大阪地裁令和8年5月21日判決、東京地裁令和8年6月18日判決の間で、「事業継続」をどこまで重視するかについて裁判所の考え方が統一されているとはいえません。

 したがって、多額の繰越欠損金を有する法人を含む組織再編では、法人税法57条の形式的な適用要件を確認するだけでは十分ではありません。

 再編全体の事業上の必要性、各取引の順序、再編前後の事業実態、欠損金を生じさせた事業の扱い、代替案との比較、税効果を認識した時期などを含め、法人税法132条の2の観点から事前に検討しておくことが重要です。

まとめ

 組織再編による繰越欠損金の引継ぎでは、「適格合併だから引き継げる」という形式論だけで判断することはできません。

 その一方で、「被合併法人の事業を合併法人が直接継続しなければ欠損金を引き継げない」というルールが法令上明記されているわけでもありません。

 TPR事件と令和8年大阪地裁判決は、法人税法57条2項の趣旨・目的との関係で事業の移転・継続を重視しています。

 これに対し、PGM事件と令和8年東京地裁判決は、完全支配関係適格合併について事業継続を一律の前提とすることに慎重です。

 また、TPR事件とPGM事件を比較すると、前者では税効果を除いた場合に一連の手順を採る合理的な事業上の説明が認められにくかったのに対し、後者では税効果とは別に組織再編を行う合理的な事業上の理由が認められたという違いがあります。

 現在の実務では、どちらか一方の判決だけを見て安全・危険を判断するのではなく、一連の組織再編がなぜ必要なのか、欠損金の利用を除いても合理的に説明できるのか、事業と欠損金を不自然に切り離すものになっていないかを、具体的な事実関係に即して検討することが重要です。

 そして、この問題について今後大きな意味を持つ可能性があるのが、PGM事件の最高裁です。

 PGM事件の上告受理申立ての行方と、令和8年大阪地裁・東京地裁両事件の上級審での判断を、今後も注視する必要があります。

主な根拠・参考資料

法人税法2条12号の8、57条、132条の2

法人税法施行令112条

税制調査会法人課税小委員会「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方」(平成12年10月3日)

税制調査会「第12回法人課税小委員会議事録」(平成13年5月11日)

財務省「平成22年度 税制改正の解説」284頁以下

財務省「平成30年度 税制改正の解説」300頁以下

最高裁平成28年2月29日判決(平成27年(行ヒ)第75号・民集70巻2号242頁、いわゆるヤフー事件)

東京地裁令和元年6月27日判決(平成28年(行ウ)第508号、税資269号-62・順号13285、TPR事件)

東京高裁令和元年12月11日判決(令和元年(行コ)第198号、税資269号-131・順号13354、TPR事件)

最高裁令和3年1月15日決定(税資271号-6・順号13508、TPR事件)

東京地裁令和6年9月27日判決(税資274号・順号14023、PGM事件)

東京高裁令和7年7月23日判決(令和6年(行コ)第321号・TAINS Z888-2743、PGM事件)

大阪地裁令和8年5月21日判決(令和5年(行ウ)第12号)

東京地裁令和8年6月18日判決

朝長英樹「PGMプロパティーズ事件の東京地裁判決について」

佐藤修二・安田雄飛「事業移転後の合併による欠損金引継ぎにみる法人税法132条の2の射程―大阪地裁令和8年5月21日判決、東京地裁令和8年6月18日判決を素材に―」週刊T&A master 2026年7月20日号・№1131

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