概要
Suicaにチャージした金額は、その時点で全額が経費になるわけではありません。原則として、チャージ時には資産として処理し、事業のために電車・バスを利用したときなどに、その利用内容に応じて費用へ振り替えます。
また、チャージしたときの領収書と、実際に利用したときの領収書・利用履歴では、証明できる内容が異なります。消費税の仕入税額控除についても、電車・バス、タクシー、買い物などの利用内容ごとに判断する必要があります。
この記事では、法人・個人事業主がSuicaのSF(電子マネー)を事業に利用する場合の経理・税務を解説します。仕訳例は分かりやすく税込金額で示し、消費税の取扱いは別に説明します。制度・サービス内容は2026年10月28日時点のものです。
Suicaのデポジット500円は資産として処理する
カード型Suicaの発行に際してデポジット500円を支払った場合、その金額はカードの返却時に返還される預け金です。交通費などの経費にはせず、「預託金」や「差入保証金」などの資産科目で処理します。
| 場面 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| デポジット500円を支払ったとき | 預託金 500円 | 現金 500円 |
| デポジット500円の返還を受けたとき | 現金 500円 | 預託金 500円 |
チャージ残高の払い戻しと同時にカードを返却する場合は、チャージ残高、デポジット、払い戻しに伴う手数料を分けて処理します。デポジットそのものは、消費税の課税仕入れにはなりません。
Suicaにチャージしたときの仕訳
現金でチャージした場合
Suicaにチャージした段階では、まだ運送サービスなどの提供を受けていません。例えば、事業用の現金10,000円をチャージした場合は、次のように処理します。
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 預け金(Suica) 10,000円 | 現金 10,000円 |
以下では、チャージ残高を管理する科目として「預け金(Suica)」を使用します。会計ソフトで専用の資産科目や補助科目を設けておくと、残高を照合しやすくなります。
クレジットカードでチャージした場合
モバイルSuicaなどに事業用クレジットカードで10,000円をチャージした場合は、クレジットカード代金の未払金を計上します。
| 場面 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| クレジットカードでチャージ | 預け金(Suica) 10,000円 | 未払金 10,000円 |
| 後日、事業用口座から引き落とし | 未払金 10,000円 | 普通預金 10,000円 |
クレジットカード代金の引落時に、改めて旅費交通費を計上しないようにしてください。
Suicaを利用したときの仕訳
電車・バスを業務で利用した場合
業務上の移動のために電車を利用し、Suicaのチャージ残高から500円が差し引かれた場合は、次のように処理します。
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 旅費交通費 500円 | 預け金(Suica) 500円 |
費用の計上時期は、原則として、サービスの提供などの事実が生じ、債務が確定した時点で判断します。「現金を支払った日」や「クレジットカードの引落日」が、常に費用の計上日になるわけではありません(法法22③二、所法37①、法基通2-2-12、所基通37-2)。
喫茶店で業務上の打合せをした場合
業務上の打合せのために喫茶店を利用し、通常必要な飲食代1,500円をSuicaで支払った場合の仕訳例です。
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 会議費 1,500円 | 預け金(Suica) 1,500円 |
会議費として処理できるかは、打合せの目的、参加者、飲食の内容・金額などの実態で判断します。私的な飲食代は事業の経費にはできません。また、購入したものが商品や固定資産などであれば、その内容に応じた資産科目で処理します。Suicaで支払ったという理由だけで、すべてを旅費交通費や会議費にすることはできません(国税庁タックスアンサーNo.5265)。
決算・年末にはチャージ残高を確認する
法人は事業年度末、個人事業主は原則として12月31日時点のチャージ残高を確認し、帳簿上の「預け金(Suica)」と照合します。
例えば、期首残高がなく、期中に10,000円をチャージし、そのうち8,000円を事業用の交通費として利用した場合、期末に残る2,000円は資産です。旅費交通費になるのは、実際に利用した8,000円です。
チャージ時に資産計上し、利用の都度正しく振り替えていれば、未使用残高を改めて資産計上する仕訳は不要です。帳簿残高が実際の残高と一致しているかを確認してください。
チャージ時にいったん旅費交通費で記帳する場合
事業用の交通費だけに利用し、利用明細を管理している場合には、期中の記帳を簡便にするため、チャージ時にいったん旅費交通費として記帳し、決算・年末に未使用残高を資産へ振り替える方法も考えられます。
これは記帳方法の簡便化であり、チャージした全額をそのまま損金・必要経費にできる特例ではありません。例えば、期首残高がなく、10,000円をチャージし、期末に2,000円残った場合は、次のように処理します。
| 場面 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 期中のチャージ時 | 旅費交通費 10,000円 | 現金 10,000円 |
| 決算・年末の未使用残高の振替え | 預け金(Suica) 2,000円 | 旅費交通費 2,000円 |
翌期も同じ記帳方法を続ける場合には、例えば、期首に次の戻入れを行い、その期の末に改めて未使用残高を資産計上します。
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 旅費交通費 2,000円 | 預け金(Suica) 2,000円 |
この場合、その期の交通費は「期首残高+当期チャージ額-期末残高」で計算されます。利用の都度も費用を計上すると二重計上になるため、記帳方法を混在させないようにしてください。払い戻しや私的利用などがある場合は、それらも調整します。
なお、この記帳方法を採る場合でも、消費税は課税期間ごとの実際の利用に基づき、適用税率や保存要件を確認して処理する必要があります。チャージ残高について、消耗品の在庫計上を省略する取扱いや、短期前払費用の取扱いを当然に適用することはできません(法基通2-2-14・2-2-15、所基通37-30の2・37-30の3、消基通11-3-1・11-3-7)。
消費税・インボイスは利用内容ごとに判断する
チャージしただけでは仕入税額控除はできない
Suicaへのチャージ時には、チャージ額そのものを課税仕入れとして処理しません。原則として、Suicaを使って物品の引渡しやサービスの提供を受けた時点で、その取引について仕入税額控除を検討します。チャージ時の領収書だけで、チャージ額全額の仕入税額控除を受けることはできません(消法30①、消基通11-3-1・11-3-7)。
物品切手等の購入時に課税仕入れとする消基通11-3-7の例外は、一定の記載事項を満たした券が使用時に回収される取引などを対象としています。Suicaを交通費専用にしているだけで、チャージ時に仕入税額控除ができるわけではありません。
以下の保存要件は、主に消費税を一般課税で計算する場合の説明です。簡易課税などでは実際の仕入税額による計算とは異なりますが、法人税・所得税のための記帳や証拠資料の保存は必要です。
3万円未満の電車・路線バスなどは公共交通機関特例
業務のために利用した電車・路線バスなど、公共交通機関特例の対象となる旅客運送で、1回の取引の税込価額が3万円未満であれば、一定事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除を受けられます(消法30⑦、消令49①一イ・70の9②一)。
帳簿には、運送事業者の名称、利用日、利用内容、支払金額に加え、「3万円未満の鉄道料金」など、特例に該当する旨を記載します。公共交通機関特例では、相手方の住所・所在地の記載は不要です。訪問先や業務目的も記録しておくと、事業との関係を説明しやすくなります(消法30⑧一、国税庁インボイスQ&A問110)。
3万円未満かどうかは、チャージ額や月間利用額ではなく、1回の取引単位で判定します。複数人分の乗車券をまとめて購入した場合には、その取引全体の金額で判断します(消基通1-8-12、国税庁インボイスQ&A問43)。
タクシーや店舗での買い物は原則としてインボイスを保存
タクシーは公共交通機関特例の対象ではありません。また、店舗での買い物や飲食も、Suicaで支払ったという理由でインボイスが不要になるわけではありません。
これらの取引は、原則として、利用先から受け取った適格請求書・適格簡易請求書に該当する領収書やレシートと、帳簿を保存します。ただし、少額特例、自動販売機特例などの要件を満たす場合は、一定事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます(消法30⑦、国税庁タックスアンサーNo.6496)。
少額特例は、次の要件を満たす場合に利用できます。
- 基準期間の課税売上高が1億円以下、又は特定期間の課税売上高が5,000万円以下であること。
- 2023年10月1日から2029年9月30日までに行う課税仕入れであること。
- 1回の取引の税込金額が1万円未満であること。
この1万円未満の判定も、チャージ額ではなく実際の取引単位で行います。特定期間の判定を給与等支払額で代替することはできません。また、少額特例は消費税のためのインボイス保存を不要とする制度であり、事業上の支出を説明するための記録まで不要にするものではありません(平28改正法附則53の2、国税庁「少額特例の概要」)。
適用税率と取引先の登録状況も確認する
2026年10月28日現在、電車・バスの運賃、タクシー代、店内飲食などには通常10%、軽減税率の対象となる飲食料品の購入には8%の消費税等が適用されます。支払手段が同じSuicaでも、取引内容によって税率や課税区分が異なります(国税庁タックスアンサーNo.6102)。
少額特例などが適用されず、利用先がインボイス発行事業者でない場合には、所定の帳簿・請求書等の保存を条件に、一定割合の仕入税額控除を認める経過措置の適用を検討します。2026年10月1日から2028年9月30日までの課税仕入れについては、控除割合は仕入税額相当額の70%です(平28改正法附則53、国税庁「令和8年度税制改正特集」)。
事業用と私用を分け、私的利用は精算する
事業用と私用のSuicaを分けておくと、利用内容の確認や残高管理が容易になります。共用する場合には、利用ごとに事業用・私用を区分してください。
個人事業主が、事業資金でチャージしたSuicaを私的な買い物に1,000円利用した場合は、事業の経費にはせず、次のように処理します(所法45①一)。
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 事業主貸 1,000円 | 預け金(Suica) 1,000円 |
法人のSuicaを役員が私的に利用した場合は、本人から返金を受けて精算します。返金を受けるまでの金額は、その実態に応じて立替金や役員貸付金などとして管理します。
会社が役員の私的費用を実質的に負担している場合には、役員給与に当たる可能性があり、損金算入の可否や源泉徴収の検討が必要です。勘定科目を「役員貸付金」にするだけで、税務上の問題が解消するわけではありません(法法34、所法183①、国税庁タックスアンサーNo.5202)。
領収書・利用履歴・業務目的を合わせて保存する
チャージ時の領収書だけでは利用内容が分からない
現金でチャージする場合は領収書を発行し、クレジットカードでチャージする場合はカード利用明細などと照合して、資金の動きを確認できるようにします。
ただし、チャージ時の領収書が示すのは、主にチャージした日と金額です。実際に何に使ったか、事業に必要な支出だったかは、別の資料で確認する必要があります。
| 保存・記録するもの | 主に確認する内容 |
|---|---|
| チャージ時の領収書、クレジットカード利用明細 | チャージ日、金額、支払方法 |
| Suicaの利用履歴、残高の記録 | 利用日、運賃・決済金額、未使用残高 |
| 店舗・タクシーなどの領収書やレシート | 利用先、商品・サービスの内容、税率、インボイスの記載事項 |
| 訪問先・移動目的・打合せの記録 | 事業との関係 |
Suicaの履歴に「物販」と表示されていても、それだけでは店舗名や購入商品の詳細まで分かりません。店舗で発行されるレシートなどを保存し、利用履歴と対応させてください。
利用履歴は取得できるうちに保存する
JR東日本の案内では、Suicaの履歴印字は、対応する機器で原則として26週以内・最大100件までとなっています。機器・サービスによって、表示できる件数や内容は異なります。
モバイルSuicaのSF利用履歴も、会員メニューでは26週間以内かつ指定日からさかのぼって最大100件までの印字が案内されています。機種変更などでSuica ID番号が変わると、変更前の履歴を確認できない場合もあります。
また、利用履歴の個人情報開示請求には、記名式に限る、対象期間は受付日から1年前までなどの条件があります。モバイルSuicaのFAQでは、26週以上経過した利用履歴はサポートセンターでも確認できないと案内されています。後から必要な履歴を必ず取得できることを前提にせず、利用件数に応じてこまめに保存してください。
履歴を閲覧・取得できる期間と、税務上必要な保存期間は別です。取得した資料は、法人税・所得税・消費税の各制度に応じた期間、保存する必要があります。
電子データの保存と二重計上にも注意する
PDFの領収書など、電子取引に該当するデータを受領した場合は、電子帳簿保存法の要件に従ってデータで保存します。紙に印刷したものだけを残せばよいとは限りません(電子帳簿保存法7)。
会計ソフトにクレジットカード明細とSuica利用履歴を取り込む場合は、チャージ、実際の利用、クレジットカード代金の引落しを区別してください。同じ支出を重複して費用計上しないことが大切です。
主な根拠資料
- 費用計上時期:国税庁タックスアンサーNo.5387「販売費、一般管理費その他の費用における債務確定の判定」、No.2210「必要経費の知識」
- 課税仕入れの時期:消費税法基本通達第11章第3節(11-3-1・11-3-7)
- インボイスの保存:国税庁タックスアンサーNo.6496、No.6497、インボイスQ&A(問42・43・105・110)
- 少額特例:国税庁「少額特例の概要」
- 税率・経過措置:国税庁タックスアンサーNo.6102、国税庁「令和8年度税制改正特集」
- 会議費・役員の私的利用:国税庁タックスアンサーNo.5265、No.5202
- Suicaの仕組み:JR東日本「Suica」
- 利用履歴:JR東日本「Suicaの利用履歴を個人情報開示請求により、確認したいです。」、モバイルSuica「SF(電子マネー)利用履歴を確認/印字したい。」
- 電子データの保存:国税庁「電子帳簿保存」

