概要
会社設立の際、一時的に借りたお金で資本金の払込みをしたように見せ、設立後すぐに会社のお金を引き出して借入先へ返す行為は、一般に「見せ金」と呼ばれます。
見せ金が疑われる場合は、まず資金の流れと会社・代表者の権利義務を確認します。会社から代表者への貸付けが認められるときは、役員貸付金の計上や、無利息・低利による経済的利益の課税が問題になります。
役員貸付金を計上して利息を処理しただけで、出資の履行を仮装したという会社法上の問題が解消するわけではありません。
以下では、日本国内の株式会社の発起設立と、日本の居住者である代表取締役を前提に説明します。合同会社などでは、出資や責任に関する会社法の規定が異なります。
見せ金と、借りたお金による出資は同じではありません
発起人が借りたお金を出資に充てたという事情だけで、直ちに見せ金になるわけではありません。会社が実際に事業資金を確保し、出資者個人が自分の資金で借入金を返済する場合と、会社の資金を最初から個人の借入返済へ戻す予定で払込みの外形だけを整える場合とを区別する必要があります。
発起人には出資に係る金銭の全額を払い込む義務があります。また、払込みを仮装した発起人には、会社に対して仮装した出資に係る金銭の全額を支払う義務があります(会社法34①、52の2①一)。
見せ金の判断と、差戻後の判決
最高裁判所第二小法廷昭和38年12月6日判決(昭和35年(オ)第1154号)は、当初から会社資金を確保する意図がなく、一時的な借入金で払込みの外形を整え、会社成立後すぐに払込金を払い戻して借入先へ返済するような場合には、有効な株式の払込みとはいえないとの考え方を示しました。
同判決は、会社成立後の返済までの期間、払込金が会社資金として運用されたか、返済が会社の資金関係に与える影響などについて審理が尽くされていないとして、原判決を破棄し、名古屋高裁へ差し戻しています。
その後の名古屋高裁昭和41年5月23日判決では、200万円の払込みと返済が銀行の帳簿操作によって行われ、払戻金が会社資金として運用されず、返済によって会社の資金が確保されなかったことなどを認定しました。そして、当初から会社資金を確保する意図がなく、払込みの外形を整えたにすぎないとして、実質的な払込みを否定し、発起人らの払込義務を認めました。
再上告審の最高裁判所第三小法廷昭和44年6月24日判決(昭和41年(オ)第981号)も、払込みとしての効力を有しないとした判断を正当としています。
この昭和44年判決では、原判決の一部が破棄されています。ただし、それは、会社の債権者である国が、自己の債権額を超えて会社の発起人らに対する債権を代位行使することはできない、という請求範囲に関する部分です。見せ金による払込みを有効と認め直したものではありません。
これらは、国が承継した売掛代金債権を保全するため、会社の発起人らに対する株金払込請求権を代位行使した、旧商法下の民事事件です。役員貸付金の法人税・源泉所得税の処理や、税務上の利率を直接判断したものではありません。現在の対応は、会社法の規定と実際の資金移動を踏まえて検討します。
会社のお金で代表者個人の借入金を返した場合の仕訳
役員貸付金になるかは、取引の実態で判断します
会社と代表者は別の主体です。代表者が個人で借りたお金を、会社の資金で返済したからといって、それが会社の借入金の返済になるわけではありません。
会社からの支出が代表者への貸付けであり、代表者が会社に返済すべきものである場合には、会社は代表者に対する貸付金を計上します。
ただし、出資の履行そのものが仮装されている場合には、会社法上の支払義務に基づく債権など、その権利の内容も確認する必要があります。「預金が足りないから」という理由だけで、差額を一律に役員貸付金へ振り替えることは適切ではありません。
前述の見せ金による株式払込みが争われた売掛代金請求事件では、差戻前の控訴審は、会社が払込金を代表者に貸し付け、代表者が借入金の返済に充てたという事実関係の下で、払込みを有効と扱っていました。しかし、その後の差戻審と再上告審では、実質的な払込みが否定されています。会社から代表者への貸付けという構成を採り、帳簿に役員貸付金を計上するだけで、払込みの仮装の問題が解消するわけではありません。
資本金500万円、代表者への貸付金400万円の設例
仕訳を説明するため、資本金として500万円を計上する前提が確認され、その後の400万円の支出について、代表者に返済義務のある貸付けと認められる場合を考えます。500万円の全額を資本金とし、他の取引はないものとします。
出資金500万円の払込みを記録する仕訳例は、次のとおりです。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 5,000,000円 | 資本金 | 5,000,000円 |
次に、会社の預金400万円を代表者個人の借入返済へ充て、会社から代表者への貸付けとして処理する場合の仕訳例です。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 役員貸付金 | 4,000,000円 | 普通預金 | 4,000,000円 |
この結果、会社には普通預金100万円と役員貸付金400万円が残ります。役員貸付金400万円は会社の経費ではなく、代表者から回収すべき資産です。
この設例は、見せ金に該当するすべての場合の会計処理を示すものではありません。また、上記の仕訳をすることによって払込みが有効になる、という意味でもありません。
貸付金を計上する場合は、採用する会計ルールに従い、回収可能性や流動・固定の表示も確認します。中小会計指針では金銭債権の定義・評価・表示等を、中小会計要領では金銭債権の基本的な処理等を定めています。両者は別の会計ルールであり、会社が採用する方針に応じて確認します(中小会計指針10~18項、中小会計要領Ⅱ・3、4)。
役員貸付金の利息・給与課税について
会社から代表者への貸付けと認められる場合は、貸付金の返済条件と利息の取扱いも確認する必要があります。無利息又は低い利率による貸付けでは、利息相当額等が役員への経済的利益となり、給与課税や会社側の法人税の処理が問題になることがあります(所基通36-28、36-49、法基通9-2-9(7))。
貸付利率の決め方、給与課税されない場合、法人税上の役員給与や源泉徴収の取扱いなどは、次の記事で詳しく解説しています。
会社が役員に貸付けをした場合(役員貸付金)、会社は利率(認定利息)をどのように定めれば良いのか?
なお、利息を適切に処理しても、出資の履行を仮装したことに関する会社法上の問題が解消するわけではありません。見せ金が疑われる場合は、払込みの実態と会社が有する債権の内容を先に確認する必要があります。
貸付金の認定は、帳簿の科目名だけでは決まりません
国税不服審判所の平成30年5月10日裁決では、会社に帰属しない入金額を代表者への貸付金とした点に誤りがあるとして、その部分を利息の計算基礎から除外しています。他方、代表者が個人的に使用する自動車の取得価額を貸付金とした部分については、誤りとは認めていません。
この公表裁決は見せ金を直接扱ったものではありませんが、貸付金と認定するには、その基礎となる資金の帰属や支出の実態を確認する必要があることを考える参考になります。裁決で扱われた利率を、現在のすべての役員貸付金へ一般化することはできません。
消費税は、元本と利息で取扱いが異なります
金銭による出資の受入れや貸付元本・返済元本の移動自体について、売上げや仕入れと同じように消費税を計算するものではありません。
一方、国内の金銭貸付けによって受け取る利息は、消費税の非課税取引に係る収入です。法人税上は益金でも、消費税が課税される売上げにはなりません(消法6①、別表第二三、消基通6-3-1)。
また、会社に残っている現預金の金額が、そのまま資本金の額になるわけではありません。税務上の資本金に関する判定も、預金残高だけを基準に行うことはできません。
見せ金が疑われる場合に確認する資料と対応
事実関係を整理するため、次の資料を確認します。
- 出資金を用意したときの借入契約書と、実際の借主・貸主が分かる資料
- 払込みから引出し、借入返済までの通帳・振込記録
- 定款、登記事項証明書、設立関係書類
- 会社から代表者への資金移動の理由と、返還義務・返済条件が分かる資料
- 貸付利率の根拠、利息計算、実際の返済・利息徴収の記録
その上で、出資の履行状況と会社が有する債権の内容を確定し、実態に即した帳簿と申告に修正します。役員貸付金であれば、返済の実行と適切な利息・源泉徴収の処理まで確認することが必要です。
会社が取締役へ貸付けをする場合には、利益相反取引の承認など、会社法上必要となる手続も確認します(会社法356①二、365)。
払込みの仮装に関する責任、株主の権利、登記の対応などは、税務処理だけでは確定できません。税理士による会計・税務の確認と併せ、必要に応じて弁護士・司法書士へ相談してください。
主な根拠資料
- 会社法34条、52条の2、356条、365条
- 法人税法22条、34条
- 所得税法28条、36条
- 国税庁「法人税基本通達・経済的な利益の供与」9-2-9
- 国税庁「所得税基本通達・給与等に係る経済的利益」36-28
- 国税庁「所得税基本通達・給与等とされる経済的利益の評価」36-49
- 国税庁「No.2606 金銭を貸し付けたとき」、「No.5202 役員等に対する経済的利益」、「No.6221 預金や貸付金の利子など」
- 日本税理士会連合会「中小会計指針・中小会計要領」掲載の原文
- 最高裁判所第二小法廷昭和38年12月6日判決・原文PDF(昭和35年(オ)第1154号)
- 名古屋高裁昭和41年5月23日判決
- 最高裁判所第三小法廷昭和44年6月24日判決・原文PDF(昭和41年(オ)第981号)
- 国税不服審判所「平成30年5月10日裁決」の争点5など
※この記事は、2026年10月18日時点で確認した法令・公表資料に基づいています。
