概要
中小企業が事業を譲渡すると、売り手の会社には譲渡損益が生じ、買い手の会社は引き継いだ資産・負債を受け入れます。消費税は、建物や機械などの課税資産と、土地などの非課税資産に対価を分けて計算します。買掛金などの引受けがあると、銀行振込の金額と税金の計算に使う金額が異なります。
この記事では、国内の中小企業同士が、通常の売買条件で一つの事業を有償で譲渡する場合を取り上げます。法令等は令和8年11月6日現在です。
事業譲渡と株式譲渡では、代金を受け取る人が異なる
事業譲渡では、事業を営む会社が、設備、在庫、取引契約などを買い手に移します。どの資産・負債・契約を引き継ぐかは契約で定め、取引先や債権者の承諾、従業員の同意、許認可の手続などを個別に確認します。
| 比較項目 | 事業譲渡 | 株式譲渡 |
|---|---|---|
| 何を譲渡するか | 事業に属する資産、契約など | 対象会社の株式 |
| 誰が代金を受け取るか | 事業を譲渡する会社 | 株式を譲渡する株主 |
| 誰に譲渡損益が生じるか | 事業を譲渡する会社 | 株式を譲渡する株主 |
| 消費税 | 資産ごとに課税・非課税を判定 | 株式の譲渡は非課税 |
| 買い手の取得内容 | 契約で定めた資産・負債等 | 株式を取得し、対象会社に資産・負債等が残る |
事業譲渡の代金は、事業を譲渡する会社に入ります。会社がオーナー個人に配当する場合は、配当に係る所得税や会社の源泉徴収も別に検討します。オーナーの手取りを見積もるときは、会社に残る金額と個人が受け取る金額を分けて計算します(法法22②、所法181①、消法4①、6①、別表第二第二号)。中小企業庁「中小M&Aガイドライン」
売り手の法人税|譲渡対価から税務上の帳簿価額を差し引く
譲渡益の計算と債務の引受け
売り手は、譲渡した資産等の対価を益金に算入し、資産の税務上の帳簿価額などを損金に算入します。税抜経理では、消費税等を除いた対価から税務上の帳簿価額等を差し引いて譲渡損益を計算します。事業譲渡に伴う仲介手数料などは、その内容と債務の確定時期に応じて損金を計上します。最終的な法人税等は、譲渡損益を他の事業の損益などと合わせて計算します(法法22②③、22の2④)。
買い手が買掛金などを引き受けることで売り手がその支払義務を免れ、それが資産譲渡の対価の一部となる場合には、現金と債務引受けの両方を考慮します。たとえば、資産等の税抜対価が5,000万円で、売り手の買掛金1,000万円を買い手が引き受けるとき、消費税を除く現金決済額は4,000万円です。売り手の譲渡損益の計算では、債務引受けの1,000万円を含めた5,000万円が出発点です(法法22②、22の2④)。
契約日・引渡日・代金の支払日を区別する
資産の譲渡による収益は、原則として引渡しの日の属する事業年度の益金に算入します。固定資産のうち土地・建物等については、法人が契約の効力発生日に収益を計上している場合には、その日を基準とした処理も認められます。期末をまたぐ取引では、契約の効力発生日、引渡記録、実際の事業移管日を確認します(法法22の2①②、法基通2-1-14)。
譲渡代金を後日受け取る場合も、支払日だけで収益の計上時期は決まりません。譲渡後の業績等に応じた追加払いがある場合は、当初の対価に含める金額や、後日確定した差額をどの事業年度に反映するかを、契約内容に即して検討します(法法22の2①④、法令18の2①、法基通2-1-1の10)。
買い手の法人税と会計|取得価額・のれん・資産調整勘定
資産ごとに取得価額を決める
買い手は、一括で支払う対価を、土地、建物、機械、棚卸資産などに合理的に配分します。建物や機械は事業の用に供した後に減価償却し、土地は減価償却しません。在庫は棚卸資産として計上し、販売等に応じて売上原価等に反映します。機械の据付費など、個別資産の取得や使用開始に直接要した費用も、その資産の取得価額を計算する際に確認します(法法22③一、31①、法令32①一、54①一)。
中古の建物や機械を引き継ぐ場合は、供用後の使用可能期間を見積もった年数や、要件を満たす場合の簡便法で、税務上の耐用年数を決めることができます。中古資産の耐用年数は、事業の用に供した事業年度に判定します(耐令3①、耐通1-5-1、1-5-4)。国税庁「中古資産の耐用年数」
企業結合会計基準では、外部アドバイザーへの報酬などの取得関連費用は、発生した事業年度の費用とします。法人税では、仲介手数料やデューデリジェンス費用の業務内容と請求内訳を見て、個別資産の購入のために要した費用か、事業の譲受けを検討するための調査費用かなどを確認します(企業会計基準第21号26項、法法22③二、法令32①一、54①一)。
会計上の「のれん」と法人税上の「資産調整勘定」
会計上、事業の譲受けが「取得」に当たる場合には、受け入れた識別可能な資産・負債に取得原価を配分し、その純額を取得原価が上回るときは、差額を「のれん」として計上します。企業結合会計基準では、原則として、のれんの効果が及ぶ20年以内の期間にわたって規則的に償却します。中小会計指針を採用する場合は、受入資産・負債の時価評価の原則と同指針が認める例外を確認します。中小会計要領を採用する場合は、のれんを含む無形固定資産について、同要領に従って耐用年数や償却方法を検討します(企業会計基準第21号28~32項、中小会計指針81、中小会計要領Ⅱ.8)。日本税理士会連合会「中小会計指針・中小会計要領」
法人税では、譲渡法人が直前まで行っていた事業と、その事業に係る主要な資産又は負債のおおむね全部が移転する場合に、資産調整勘定の適用を検討します。判定は譲渡対象の事業単位で行います。税務上の時価純資産価額は、受け入れた資産の税務上の取得価額の合計から引受負債等を差し引いて計算します。税務上の対価がこの時価純資産価額を超えるときは、その超過額のうち法令所定の金額が資産調整勘定になります(法法62の8①、法令123の10①~④)。
時価純資産価額の計算に含める営業権は、独立した資産として取引される慣習のあるものに限られます。その営業権を取得した場合は、無形減価償却資産として取得価額を計上し、法定耐用年数は5年です(法法31①、62の8①、法令13八ヨ、123の10③、耐令別表第三)。
資産調整勘定は、原則として当初計上額を60で割り、その事業年度の月数を掛けた額を損金に算入します。譲受け初年度は、譲受けの日から期末までの月数で計算します。会計上ののれんの償却額と税務上の損金算入額が異なるときは、法人税の申告で調整します。反対に、税務上の対価が時価純資産価額を下回るときは、負債調整勘定の適用を検討します。従業員の退職給与債務などを引き継ぐ場合も別途確認が必要です(法法62の8②~⑧、法令123の10⑨)。
営業権の対価には、事業の何を引き継いだかの裏付けが必要
営業権を評価するには、顧客との関係、取引基盤、ノウハウなど、事業の収益力を支えるもののうち、実際に何が移ったかを確かめます。東京高裁は、同種の事業の通常の利益を上回る収益を生み出せることに営業権の財産的価値を見いだす考え方を示し、この事案では営業権の価額の計上を認めませんでした。最高裁は上告を棄却しました(東京高判昭和50年5月28日、昭和48年(行コ)第37号。最三小判昭和51年7月13日、昭和50年(行ツ)第82号、裁判集民事118号267頁)。
名古屋地裁のゴルフ場の事案では、施設等の利用関係などから営業権の移転が認められず、移転が認められた動産分を除く支払額は寄附金とされ、対応する仕入税額控除も認められませんでした。グループ内の取引では、営業権を契約書に記載する際、移転の実態と価額の算定根拠を併せて残すことが重要です(名古屋地判平成27年3月5日、平成24年(行ウ)第105号、税務訴訟資料第265号-37、順号12620)。
消費税|課税資産と非課税資産に分ける
建物・機械・営業権は課税、土地・売掛金は非課税
国内の事業譲渡で移転する建物、機械、備品、在庫、実際に対価を得て譲渡する営業権などは、原則として消費税の課税対象です。土地や借地権、売掛金などの金銭債権の譲渡は非課税です。在庫の税率は品目に応じて判定します。売り手の納税義務は、その課税期間の課税事業者・免税事業者の別などにより判定します(消法4①、6①、9①、別表第二第一号・第二号、消令9①四)。国税庁「非課税となる取引」
課税資産と非課税資産を一括譲渡する場合は、対価を合理的に区分します。合理的な区分がされていない場合は、原則として譲渡時の各資産の価額の比率で按分します。土地と建物の一括取得に関する平成20年5月8日裁決では、査定書を基に当事者間で合意した内訳が認められました。契約書に資産別の金額を記載するとともに、査定書や価額の計算資料を残しておくと、売り手と買い手が同じ内訳で処理できます(消令45③、消基通10-1-5)。平成20年5月8日裁決(裁事75集711頁) / 土地・建物の売買価額はどう分ける?
債務を引き受ける場合は、現金の支払額と課税対象額を区別する
消費税の課税標準となる対価には、金銭以外の経済的な利益も含まれます。買い手による債務引受けが資産譲渡の対価の一部となる場合は、その引受けも含めた対価を課税資産と非課税資産に分けます。平成20年12月15日裁決では、個人事業の法人成りに際して、新会社が事業用資産を受け入れる代わりに債務を引き受けた取引について、債務引受けによる経済的利益が資産譲渡の対価と認められました(消法28①)。平成20年12月15日裁決(裁事76集475頁)
買い手はインボイスと翌期以降の申告も確認する
買い手が一般課税で仕入税額控除を受けるには、原則として、所定の帳簿と適格請求書等を保存します。控除額は、資産の用途や買い手の課税売上割合、控除方式などによって変わります。一般課税の売り手も、土地の譲渡などで課税売上割合が変わり、同じ課税期間の仕入税額控除に影響が出ることがあります(消法30①②⑥~⑧、消令48)。
売り手がインボイス発行事業者でない場合でも、経過措置の要件を満たせば、令和8年10月1日から令和10年9月30日までの課税仕入れは、仕入税額相当額の70%を控除計算の対象にできます。その後は、令和10年10月から50%、令和12年10月から30%となり、令和13年9月末で終了します。また、令和8年10月1日以後に開始する課税期間については、法人の場合、同一の未登録事業者からの経過措置の対象となる課税仕入れの合計が事業年度で税込1億円を超えると、その超過部分に経過措置を適用できません(所得税法等の一部を改正する法律〔平成28年法律第15号〕附則第52条・第53条)。国税庁「令和8年度税制改正特集」
経過措置を利用するには、その適用を受ける取引である旨を帳簿に記載し、区分記載請求書等と同様の事項を記載した請求書等を保存します。国税庁インボイスQ&A 問113「免税事業者等からの仕入れに係る経過措置」
一般課税の課税期間に、一取引単位の税抜価額が1,000万円以上の棚卸資産や調整対象固定資産を課税仕入れした場合には、高額特定資産として、翌期以降の納税義務の免除や簡易課税への切替えが制限されます。課税期間が通常の1年であれば、原則としてその後の2年間が対象です。工場の建物などを取得するときは、取得時の仕入税額控除と併せて、翌期以降の申告方法も確認します(消法12の4①、37、消令25の5)。国税庁「高額特定資産を取得した場合等の納税義務の免除等の特例」
設例|税抜5,000万円の事業譲渡と買掛金1,000万円の引受け
A社は令和8年10月1日、製造事業の一部門を、その部門に係る主要な資産・負債のすべてとともにB社へ譲渡します。B社は債権者の承諾を得て買掛金1,000万円を引き受け、A社はその支払義務を免れます。両社は適格請求書発行事業者で、一般課税・税抜経理を採用しています。消費税等の10%は地方消費税を含む税率です。手数料等は省略します。
| 譲渡対象 | 税抜の譲渡対価 | A社の税務上の帳簿価額 | 消費税区分 |
|---|---|---|---|
| 土地 | 2,000万円 | 1,500万円 | 非課税 |
| 工場建物 | 1,500万円 | 900万円 | 課税10% |
| 機械 | 500万円 | 200万円 | 課税10% |
| 棚卸資産 | 500万円 | 400万円 | 課税10% |
| 営業権に相当する事業価値 | 500万円 | 0円 | 課税10% |
| 合計 | 5,000万円 | 3,000万円 | 課税分3,000万円 |
事業価値500万円は、引き継ぐ取引基盤などの収益力を評価して合意した対価とします。B社が受け入れる識別可能な資産の時価は4,500万円で、別に評価すべき無形資産や税務上の独立取引営業権はないものとします。
A社の譲渡益は2,000万円、現金で受け取る額は4,300万円
- 資産等の譲渡対価に係る消費税等は、課税分3,000万円 × 10% = 300万円。
- B社からの現金入金は、5,000万円 + 消費税等300万円 − 買掛金の引受け1,000万円 = 4,300万円。
- A社の税務上の譲渡益は、税抜の現金対価4,000万円 + 債務引受け1,000万円 − 税務上の帳簿価額3,000万円 = 2,000万円。
B社はのれん500万円を計上し、税務上は初年度に100万円を損金算入する
B社が引き継ぐ識別可能な資産の時価は4,500万円、買掛金は1,000万円です。税務上の時価純資産価額は3,500万円となり、税抜の現金対価4,000万円との差額500万円が資産調整勘定です。この設例では、受入資産・負債の会計上の評価額と税務上の価額が一致するため、会計上ののれんも500万円になります。B社が取得した課税資産を課税売上げにのみ用い、仕入税額控除の要件を満たす場合の取得時の仕訳例は、次のとおりです。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 土地 | 2,000万円 | 買掛金 | 1,000万円 |
| 建物 | 1,500万円 | 普通預金 | 4,300万円 |
| 機械装置 | 500万円 | ||
| 棚卸資産 | 500万円 | ||
| のれん | 500万円 | ||
| 仮払消費税等 | 300万円 | ||
| 合計 | 5,300万円 | 合計 | 5,300万円 |
B社が9月決算で、のれんの効果が及ぶ期間を10年と合理的に見積もり、定額で償却する場合、初年度の会計上の償却額は50万円です。税務上の資産調整勘定は500万円 ÷ 60月 × 12月 = 100万円を損金に算入します。法人税申告では、別表四で会計上の償却額50万円を加算し、税務上の100万円を減算します。別表十六(十一)で当期の損金算入額100万円と期末残高400万円を計算します(法法62の8④⑤、法令123の10⑨)。
事業譲渡契約を結ぶ前に確認する資料
- 譲渡対象の一覧 土地、建物、設備、在庫、引き継ぐ契約や債務を特定し、引渡日と必要な承諾を確認します。
- 価格配分の明細 資産ごとの税抜価額、消費税区分・税率、引受債務、現金決済額を区別します。固定資産台帳、査定書、在庫明細、営業権の計算資料も保存します。
- 追加払いの条件 分割払い、譲渡後の価格調整、業績連動の支払いがあれば、金額の計算方法と、どの資産や事業価値に対する支払いかを明記します。
- 決済後の書類 買い手はインボイス、売り手は引渡記録を確保し、双方で決済明細と資産別の金額を照合します。
福岡地裁は、携帯電話販売事業の譲渡後に買い手が支払った金額について、従前の契約に由来する手数料収入との関係や算定方法を踏まえ、寄附金とした課税処分を取り消しました。支払う時期が譲渡後である場合も、何に対して、どう計算した金額を支払うのかを資料で説明できるようにします(福岡地判平成25年3月11日、税務訴訟資料第263号-37、順号12161)。
関係会社間で時価と異なる対価を設定し、その差額が実質的に無償の利益供与と認められるときは、寄附金や受贈益の問題が生じます。完全支配関係がある場合には、寄附金・受贈益や譲渡損益に関するグループ法人税制も確認します。特殊関係者への事業譲渡などで売り手に国税の滞納がある場合は、要件により買い手が第二次納税義務を負うこともあります(法法22②、25の2①、37②⑦⑧、61の11①、徴法38、39)。
営業の譲渡に関する契約書を紙で作成する場合には、印紙税を確認します。土地・建物を引き継ぐ場合には、登録免許税や不動産取得税も資金計画に含めます(印法別表第一第一号、登免法別表第一第一号、地法73の2①)。国税庁「不動産の譲渡・土地の賃貸借・消費貸借・運送等に関する契約書」
対象となる中小企業者が、事業の譲受けを記載した認定経営力向上計画に従って、令和10年3月31日までに一定の不動産を取得する場合は、不動産取得税の課税標準から不動産の価格の6分の1に相当する額を控除する特例があります。適用を検討する場合は、譲受け前に、対象となる不動産や計画の認定手続を確認します(地方税法附則第11条第13項)。経営力向上計画申請プラットフォーム「制度のご紹介」
